第26話 手を、繋ぎませんか?
「
いつに無いほど頬を赤く染めている白百合先輩のことを不思議に思った俺が、そう聞くと。
白百合先輩は、変わらず頬を赤く染めたまま言った。
「
と言うと、白百合先輩は俺に優しい笑顔を向けて言った。
「私は、律さんのことを心配する以上に、律さんによってたくさん笑顔にさせていただいています。そのことだけは、ゆめゆめお忘れになられないでくださいね」
「っ……!……わかりました」
俺なんかが、あの白百合先輩にたくさんの笑顔を。
そう考えると少し違和感はあったが……
これは、謙遜で否定して良い類のものでは無いと判断したため、俺はその言葉を素直に受け取った。
そして、その後も少し他愛もない話をしながら歩いていると。
俺たちは、とうとう街に到着する。
ここで、俺はふと気になったことを口にした。
「白百合先輩は、普段街に来ることはあるんですか?」
白百合グループの一人娘である白百合先輩。
そんな人でも、街を利用することはあるのか何となく気になったため聞くと。
「そうですね……」
続けて。
白百合先輩は、辺りを見渡してからある方向を向いて言った。
「あちらにあるようなビルに入らせていただくことはありますが、街にある施設などを利用することはあまり無いかもしれません。実際、こうして歩いて街にやって来たことも、記憶の限りでは初めてです」
そう言った白百合先輩が向いている方向に向くと────そこには、とんでもない高さのビルがあった。
屋上にヘリポートが置いてある感じの、本格的なビルだ。
普通であれば、俺も含めてまず普通の高校生なら立ち入ることすらできない場所だろう。
「やっぱり、白百合先輩はすごい方ですね」
……というか!
俺は、そう言った直後。
すぐに白百合先輩の発言から大変なことに気がついたため、口を開いて言う。
「すみません!今日は待ち合わせにしてしまって、そのまま歩いてここまで来ましたけど、もしかしてタクシー……じゃなくて、ハイヤー?とかでお迎えに上がった方が良かったですか?」
白百合先輩を街まで歩かせてしまったことに慌てながら言うと、白百合先輩はいつも通り穏やかな様子で首を横に振って。
「そのようなことは、していただかなくとも構いません。むしろ、私は移動時間の間律さんの隣を歩かせていただき、お話しもすることもできましたので、今までの移動時間の中で一番楽しい時間でしたよ」
と、優しい笑顔で言ってくださる白百合先輩。
……大企業グループの一人娘ともなれば、もう少し尖っているというか。
プライドのようなものがあってもおかしくはないが、白百合先輩にはそういったものが全くない。
「なら、良かったです」
俺がそう言うと、白百合先輩は変わらず優しい笑顔だった。
が、その途中で。
進め続けていた足を止めると、ある一方向を不思議そうに見つめながら。
「律さん。あちらのお店は、一体何を売られているのでしょうか?」
白百合先輩に聞かれた俺は同じく足を止めると、その方向を見る。
すると、そこには行列を作っている店があり、その店が売っていたのは────
「あぁ、あれはドーナツです」
「ドーナツ……ですか?」
ピンと来ていない様子の白百合先輩に、俺は頷いて言う。
「はい。輪っか状の食べ物で、甘くて感触も独特な食べ物です」
「そうなのですね……
確かに、白百合先輩の境遇を考えればドーナツ。
だけじゃなく、他の一般の高校生であれば知っているようなことを、知らなくてもおかしくはない。
……そうだ。
「それなら、今から一緒にドーナツを食べてみますか?」
「っ!よろしいのですか?」
「はい。今日は何か目的を決めて来ているわけじゃないので、白百合先輩がドーナツに興味を持ったなら是非食べましょう」
「ありがとうございます、律さん」
嬉しそうに言った白百合先輩のことを見て、俺はどこか心が温まったように感じた。
そして、店内に続く行列の最後尾に並ぶ。
すると────
「……」
目の前には、手を繋いで列に並んでいるカップルと思しき二人の男女が居た。
が、こんなことは珍しくもなく。
別に誰かに迷惑をかけているわけでも無いため、俺が特に気にしないでいると────
「律さん」
隣に居る白百合先輩に声をかけられたため、俺は白百合先輩の方を向いた。
すると────白百合先輩は、俺の方にその色白の手を差し出し。
恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、口を開いて言った。
「私たちも、前方の方々のように……手を、繋ぎませんか?」
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