第22話 周りから見たら

「っ……!」


 白百合しらゆり先輩が何かを言っていたが。

 俺は、白百合先輩に抱きしめられ……

 それも、胸元に顔を埋めるように抱きしめられたことでその言葉に全く集中することができず。

 咄嗟に白百合先輩から顔を離すと、口を開いて言った。


「し、白百合先輩!?い、今、俺のことを抱きしめただけじゃなくて、俺の顔を胸元に……」


 当然、制服を着ているから何も問題は無い。

 という話では無いため、俺が今の白百合先輩の行動に対して疑問を問いかけると。

 白百合先輩は、笑顔で言った。


りつさんは困っていたとしてもあまり助けを求めたりはしない方ですから、今後は私の方から積極的に私に甘え、頼ってくださいとお伝えしていこうと決めたのです」

「そ……それは、とてもお優しいと思うんですけど、どうして俺の顔を胸元に?」

「律さんが私に甘えてくださっているようで、よりお可愛らしく感じられるからです。それに、男性は女性の胸部がお好みだというお話も聞いたことがありますから」

「っ!?」


 落ち着いた声色で放たれるには強烈すぎる言葉に、俺が思わず驚いた反応を見せてしまうと。

 白百合先輩は、首を傾げて不思議そうに言った。


「違いましたか?」

「え?えっと……」


 今まで、陽瀬ひなせひいらぎともこういった系統の話は何度かしたことがあったが……

 相手が白百合先輩となると、これはどう答えれば良いんだ?

 俺が、答えた後で気まずくならなさそうな回答を必死に模索していると。

 白百合先輩は、何かに気が付いたように目を見開くと、自らの胸元に手を当てて言った。


「もしや、私などの胸では、女性らしさを感じることなどできませんか?」

「……え?」


 話が俺の予期しない方向に進み始めているため困惑の声を上げるも、俺は慌てて口を開いて言う。


「い、いえ!そういうわけではありません!」

「……本当、ですか?」

「も、もちろん本当です!」


 こんなことを言うのは本来恥ずかしいことだが……

 白百合先輩は勉学や運動、顔の綺麗さだけでなく。

 体のスタイルまでとても整っているため、ここで嘘を吐いて白百合先輩のことを傷つけてしまうようなことはできない。

 そのため俺がハッキリと答えると、白百合先輩は安堵したように言った。


「良かったです。そして長話となってしまい申し訳ございませんでした……そろそろ食事を再開致しましょうか」

「はい」


 ……色々と驚きもしたが。

 その後は、特に何事も無く、いつも通り食事を終えることができた。

 そして────


「やった〜!放課後〜!!」


 放課後になると。

 隣の席の陽瀬が、大きな声でそう叫んだ。

 そして、すぐに席を立つと、俺に向けて心底楽しそうに言う。


空風そらかぜ!早く行こ!」

「あぁ」


 頷くと、俺も席を立って陽瀬と一緒に教室から出た。

 そして、そのまま学校から出ると、二人で街へ向けて歩き始める。

 ……その道中。


「……」


 前を向いて歩いていると。

 隣の陽瀬から視線を感じたため、俺は陽瀬の方を向いて言った。


「陽瀬?俺の顔に何か付いてるのか?」

「えっ?あっ!ううん、何でもない!」


 何故か頬を赤く染めながら慌てた様子で言うと、陽瀬は咄嗟に俺から顔を逸らした。

 ……そんな陽瀬の様子が少し気になりはしたが、何でもないというのならこれ以上俺に何かを言う理由は無い。

 それからは、雑談を交えながら二人で街に向かい────


「着いた〜!」


 今陽瀬が声を上げた通り、街に到着した。

 ここは本当にオシャレな雰囲気の街で、周りには少し見回しただけでいくつものガラス張りでオシャレな雰囲気の服屋。

 そして服屋以外にも、カフェやショッピングモールなど様々な店や施設があった。


「今日最初に行きたい服屋さんあっちにあるから、今から一緒に行こ!」

「わかった」


 俺はどの服屋が良いかなんて全くわからないから、陽瀬が居てくれて本当にありがたいな。

 ということを深く感じながら陽瀬と一緒に街を歩き始めると、陽瀬が先ほどまでとは違う雰囲気で口を開いて言った。


「ねぇ、空風……こんな感じで一緒に街歩くのって初めてだけど────」


 続けて。

 陽瀬は、俺の方を向くと────頬を赤く染めながら、どこか緊張した様子で口を開いて言った。


「今の私たちって、周りから見たら……みたいに見えるのかな?」

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