第20話 可能性
「
何故か暗い声を発した杏のことを疑問に思って聞くと。
杏は、再度暗い声色で言った。
「お兄ちゃん、女の人の家に行ったんだね……どんな用事で女の人の家に行くことになったの?」
「遊ぶためだ。中間テストも終わったから、たまにはこんな風に遊ぶのも悪くないだろ?」
「それは、そうだけど……遊ぶって、どんな遊び?女の人の家に行ったってことは、家じゃないとできない遊びってこと?」
「そうだな」
「っ……!?」
基本的には、家に行かないとできない遊びだろう。
「一応、オンラ────」
一応、オンライン上でも一緒に遊ぶことはできるゲームだが。
と言いかけた時。
何故か驚いたように目を見開いていた杏は、俺との距離を縮めると自らの胸元に手を当てて動揺した様子で言った。
「どうして、同級生の女の人とそういう遊びをする前に、私に相談してくれなかったの?」
「……え?」
相談……?
「何の話────」
「私、前お兄ちゃんに言ったよね?お兄ちゃんのためだったら、どんなことでもしてあげるって。それは、そういうことも含んでの意味だったのに!」
そういうことも含んで……?
「悪いが、杏が何を言っているのか本当にわからな────」
俺は全く話の流れがピンと来ていないが、杏はとても感情の込められた訴えかけてくるような表情と声で言う。
「やっぱり、私が妹だから遠慮してるの?妹とそんなことはできないって……でも、だとしたらそんな遠慮要らないよ!私はお兄ちゃんがしたいって言ってくれるなら毎晩とかでも良いし、私もお兄ちゃんとそういうこと……したいから」
最後の部分だけ、頬を赤く染めて恥ずかしそうに言った杏。
そんな杏に対して、俺はどうにか自分なりに杏の言葉を解釈して、口を開いて言う。
「……要するに、杏も俺と一緒にゲームをしたいってことか?」
「……え?ゲーム……?」
困惑の声を上げた杏に対して、俺は頷いて言う。
「今日俺が遊んできたのはゲームだから、杏の言うそういうことっていうのはゲームだと思ったんだが……違うのか?」
それから、杏は少しの間呆気に取られたような様子だったが。
少ししてから、慌てた様子で口を開いて言った。
「そ、そう!私も、お兄ちゃんとゲームしてみたいなって思って!」
「なんだ、そういうことだったのか。なら、また今度杏とゲームをしてみても良いが、毎晩はやりすぎだな」
「そ、そうだよねっ!」
コクコク、と素早く頷く杏。
その杏に対して、俺はふと疑問に思ったことを口にする。
「……話の流れからして、俺が今日ゲームで遊ぶっていうことを知ってたんだと思うが、どうして知ってたんだ?」
今日ゲームで遊ぶということを杏に言った覚えが無かったため聞くと、杏はその俺の問いに答える。
「え?えっと……お、お兄ちゃんが言ってたよっ!」
「俺が……?」
「う、うんっ!昨日の朝、寝起き直後ぐらいに『明日友達とゲームで遊ぶ』って言ってた!でも、まさかその相手が女の人で、遊ぶ場所も女の人の家だとは思ってなかったから驚いちゃったよっ!」
「寝起きだったなら俺が覚えてないのも無理はないな……杏が驚いたのも、そういう理由だったのか」
「うん。でも、思ったより時間が遅かったから、バイトにでも行ってたのかなって心配になっちゃって!」
「そうか……わかった」
さっきまでは話の流れとか杏の言っていることの意味全てがわからなかったが、ようやく全てが繋がってスッキリしたな。
これで、一件落着だ。
「もう、ご飯はできてるのか?」
「もちろんだよ!」
「なら、一緒に食べよう」
「うんっ!」
そう言葉を交わすと、俺は杏に背を向けて。
そのまま、リビングへと向かった。
────その後ろで、杏が目元を暗くしていることにも気づかずに。
「ゲームをするためとはいえ、お兄ちゃんに家に行くほどの女の人の友達が居るなんて……今回はゲームだったから良かったけど、もしかしたらそれ以上のことをしちゃう可能性だって……そんなの、ダメだよ────お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんなんだから」
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