第18話 柊の魅力
柊が体を密着させてきたことで。
一気に良い香りが鼻を通ったり、背中に感触を感じたりしたが、俺は動揺しながら口を開いて言う。
「お、女として見てないなら……?それとこれとは、話が別問題じゃ────」
「別問題じゃないよ。女として見てない相手に後ろから抱きしめられたって、何も動じたりしないのが普通でしょ?」
「それは……」
というか……色々と背中に当たってるんだが、柊は気にならないのか!?
制服やフード越しとはいえ、ここまで密着されていれば胸────ダメだ、そっち方面に意識を向けるのはやめよう。
俺はどうにか表面上だけでも冷静を装える程度には冷静さを取り戻すと……
今少し顔に熱が帯びてしまっていることがバレないように、柊に顔を向けないよう意識して、今柊と話して思ったことを口にする。
「柊、さっきから言葉一つ一つに怒気のようなものが含まれてる気がするんだが、もしかして何か怒ってるのか?」
「……別に、何も怒ってないけど」
「本当か?」
俺がそう聞くと、柊は少し間を空けてから言った。
「……うん。私って無愛想だし、
無愛想……?
陽瀬……?
華やかさ……?
胸……?
「えっと……よくわからないんだが、どうしてここで陽瀬が出てくるんだ?」
色々と疑問はあるが、まずはそこが気になったためそのことを問うことにした。
すると、柊は口を開いて言う。
「どうしてって、比較するためだよ。あの明るい性格でモデルしてて、服の着こなし方も派手で、胸も大きくて空風ともよく話してる人だから、空風が私を女として見れない理由として比較しやすいでしょ?」
「俺がわからないのはそこだ。確かに、陽瀬は女子高生の代名詞とでも言えるような性格とか容姿であることは否定しないが、そうじゃないからと言って女性として見れないかどうかは全く関係がない」
「関係ない……?」
「そうだ。陽瀬には陽瀬の、そして柊には柊の魅力がある」
例えば、と続けて。
「俺は落ち着いた雰囲気の柊と話すのは話しやすいと感じるし、容姿だって透明感のある綺麗な感じで良いと思う。あとは、胸だって、俺からすれば、十分大きいというか……」
「……はぁ」
柊は、ため息を一つ挟んでから、続けて。
「もう良いよ、気遣わなくて。確かにこれでも平均よりは大きいけど、陽瀬さんみたいな平均なんて何回りも超えてるような胸大きい人とよく接してて、私の胸大きいなんて思えるわけないし……大体、今のが空風の本音だったかどうかなんて、空風は顔に出やすいから顔見ればすぐに────え?」
言いながら俺の顔を覗き込んできた柊は、困惑の声を漏らすと。
少しの間俺の顔を見てから、口を開いて言った。
「……どうしてそんなに顔赤くなってるの?」
「……彼女も居たこと無い俺が、こんな風に女子に体を密着させられて、何も心を動かさないはずが無いだろ?」
「でも……それなら、どうしてさっきは私のこと女として見てないって言ったの?」
女として……そうか、そういう意味か。
ようやく、俺と柊の中にあるすれ違いに気が付いた俺は、今聞かれたことに答える。
「俺が柊のことを女性として見てないと言ったのは、俺が柊に対して不純な気持ちは抱いてないと伝えたかっただけであって、本当に柊のことを女性として見てないわけじゃない」
「そう、だったの?じゃあ、さっき私のこと褒めてくれたのも、本当に空風が思ってることだったってこと?」
「そうだ。あれは、柊に対して思ってることをそのまま言ったら、結果的に褒めてる感じになったんだ」
「……」
俺が包み隠さずに答えると、柊は俺の顔を覗き込むのをやめて沈黙した。
そして、やがて沈黙を破って言う。
「私が変な勘違いしたせいで、話ややこしくしてごめん」
柊が、その勘違いによってどうして怒っていたのかは、まだわからないが……
何はともあれ。
「わかってくれたならそれで良い」
これで、あとは柊が俺に体を密着させるのをやめてくれれば、話は一件落着。
と思ったのだが────
「……」
柊は、一向に俺から離れる気配が無い。
そのことを不思議に思った俺が、呼びかけようかどうか悩んだ時。
柊は再度口を開いて言った。
「ねぇ、空風。さっき言ってた、不純な気持ちっていうのについてなんだけど────」
続けて、柊は俺の耳元で囁くように言った。
「もし私が空風とそういうことしてあげるって言ったら、空風は私とそういうこと……したい?」
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