第17話 手、重ねて良い?

「柊……?」


 俺が、初めてひいらぎの恥ずかしそうな。

 それでいて動揺したような顔を見て困惑していると、柊はようやく声を発する。


「そのぬいぐるみを、そこに置いてるのは……」


 そこまで言った柊だったが、やがて口を閉ざすと……

 俺から顔を逸らして言った。


「……そんなどうでも良いことより、早くゲームしようよ。今日は元々そのために私の家に来たんだから」

「え?あぁ、それもそうだな」


 ぬいぐるみの件については少し気になるが……

 柊の言う通り、今日はこのぬいぐるみについて聞きに来たのではなく。

 柊とゲームをしに来たため、そのことについて深く言及する理由はない。

 それから少しの間俺と目を合わせなかった柊だったが、少しすると俺と目を合わせてもう落ち着いた様子で言った。


「今空風そらかぜの目の前にあるゲーミングパソコンか、あっちのローテーブル越しにあるゲーム機どっちでプレイしたい?」

「いつもゲーム機でプレイしてるから、ゲーム機。と言いたいところだが……」


 俺は、目の前にあるキーボードを覗き込むようにして。


「普段キーボードでプレイする機会が無いから、試しにちょっとだけキーボードでやってみたいな」

「わかった。じゃあ私が横から教えてあげるから、空風はその椅子座って」

「あぁ」


 言われた通り、俺は目の前にある白のゲーミングチェアに座る。

 ……まだ俺には座り慣れないが、座り慣れたらかなり座り心地が良さそうだ。

 俺がそんなことを感じていると、俺の横に立っている柊が、慣れた手つきでマウスを操作していつも遊んでいる『THE・FPS』を起動した。

 そして、一人で操作練習やエイム練習などを行うことのできる練習場にやってくる。


「今から操作方法説明するから、キーボードに手置いて」

「わかった」


 そう言った俺がキーボードの上に手を置くと、早速柊が操作方法を説明────してくれるかと思った、が。


「……」


 柊は、少しの間俺のキーボード上に置かれた手を見たまま沈黙していた。

 どうしたのかと俺が声をかけようとした時、柊が口を開いて言う。


「……ねぇ。口で何キー押したら進むとか言うより、直接自分の指で押した方が覚えやすいと思うから……手、重ねて良い?」

「確かにそうかもしれないな……むしろ俺にとってありがたい、そうしよう」

「……じゃあ、置くね」


 俺が柊の提案を受け入れると、柊はゆっくり俺の左手に自らの左手を重ねた。

 すると、色白でしなやかで。

 どこか柔らかい手が俺の左手の甲を覆う。


「……空風の手って大きいんだね。あと、ちょっと硬い感じ」

「自分だとあまりわからないが、そうなのか?」

「うん。空風が普段から頑張ってることが、よく伝わってくる手……」


 普段通り落ち着いた声色でありながらも、どこか優しい声色で言う柊。

 だが、程なくして、俺の指を押し込む形で操作方法の説明を始めてくれた。

 そして────


「こんなところかな、試しに動かしてみる?」

「そうしてみる」


 一通り操作方法を教えてもらった俺がそう返事をすると、柊はどこか名残惜しそうな手つきで俺の左手から自らの左手を離した。

 そこで、俺は早速ゲームキャラのことをマウスを駆使しながら軽く動かす。


「このキーで左に行けて、これが後ろで……」


 が、その動きは、おそらく客観的に見たら一瞬で初心者だと思われるほどに稚拙な動きだ。


「……柊は、よくこれであんなに戦えるな。コントローラーの方が簡単じゃないか?」

「慣れればキーボードも一緒だよ。それに、突き詰めるとキーボードの方が使いやすいしね」

「そういうものなのか……俺にはとても想像できないな」


 とはいえ、柊が実際にキーボードを使ってあれほどの強さを出している以上、俺には想像できないだけで本当にそういった世界は存在するんだろう。


「せっかく教えてもらったから今日はキーボードで……といきたいところだが、今日でマスターするのは難しそうだから、今日はコントローラーの方で遊んでも良いか?」

「うん、わかった。じゃあこっち来て」


 ゲーミングチェアから立ち上がると。

 俺は柊について行き、この部屋のローテーブル前に座った。

 ローテーブル越しには、モニターとゲーム機が置いてある。

 早速ゲーム機を起動した柊は、二つ取り出したうちのコントローラーのうちの一つを俺に渡してきた。

 それを受け取りながら、俺は柊に疑問を投げかける。


「ありがとう。……二つ取り出したってことは、柊もコントローラーでプレイするのか?」

「うん、コントローラーでもある程度動けるし……せっかくだったら、こうして隣で遊びたいから」

「……それもそうだな」


 先ほど同様に『THE・FPS』が起動されると、俺たちは二人プレイで練習場に参加する。

 直後、目の前にあるモニターの画面が、二分割された。


「二人でプレイすると、こんな感じになるのか」

「私も実際にしたのは今が初めて。右が私で、左が空風だよ」


 柊の補足を受けたことで、俺は左の画面に意識を集中させる。

 そして、武器を手に持ったところで、ゲーム内で柊と向かい合った。


「じゃあ、二人で戦ってみよっか」

「あぁ」


 隣に柊が居る状態でこの『THE・FPS』をしているという普段とは違う状況に不思議な感覚を抱きながらも頷くと……

 二人で戦ってみようと言った柊は、何故か立ち上がった。


「……柊?今から戦うんじゃ────」


 そして、俺の後ろに回って座った柊は、俺の前にコントローラーを回してくると────


「っ!?」


 後ろから、俺の背中に自らの体を密着させてきた。


「ひ、柊!?いきなり何を────」

「私のこととして見てないんだったら、このぐらい平気でしょ?」

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