第15話 緊張

 意味がわからない。

 と陽瀬に思ったことは、前に彼女にするなら落ち着いている人か活発な人どっちか。

 なんてことを突拍子もなく聞かれた時も思ったことだが、今回はそれ以上とも言える。


空風そらかぜ!早く答えて!」


 そして、前と同じく、何故か陽瀬ひなせが凄まじい気迫を放っている。

 ……前は、この気迫もあって思ったことを答えたが、今回は────


「す、好きな胸の大きさなんて、答えられるわけないだろ!」


 俺が抱いている羞恥心を隠すように力強く言うと、陽瀬は驚いた様子で言った。


「どうして!?好きなおっぱいの大きさぐらい、教えてくれても良いじゃん!」

「っ!?あ、あのな、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」

「もちろんわかってるよ!空風の好きなおっぱい────おっぱい……?」


 言いかけた陽瀬は、今改めて言葉にしたことによって。

 自分がどんなことを聞いていたのかに気が付いたのか、恥ずかしそうに頬を赤らめると、続けて言った。


「ご、ごめん!ちょっと不安っていうか、思うことがあって、変なこと聞いちゃった……」

「落ち着いてくれたならそれでいい」


 今言った通り、先ほどまでの陽瀬の言動に対する驚愕よりも。

 今の俺は、陽瀬が落ち着いてくれたことに対する安堵感の方が強かったためそう言うと、陽瀬は「あ、ありがとう……!」と言った。

 そして、少し間を空けてから続けて。


「……ねぇ、空風」

「何だ?」


 先ほどまでの気迫は感じられず、どこか不安そうに口を開いた陽瀬に短く聞き返すと、陽瀬が言った。


「大きいのと小さいのどっちが好きかとかはもう聞かないけど、一つだけ聞かせて……空風は、大きいおっぱいが嫌いってわけとかじゃ、ない?」


 もし、同じことを一度目と同じように聞かれていたなら、俺は間違いなくそんなことも答えられるはずがないと言っていたと思うが……

 今回は、陽瀬の様相が明らかに違い。

 ここは、誤魔化したり嘘を吐いたりすべきところでは無い気がしたため、口を開いて正直に言った。


「嫌いでは……ない」

「っ……!そっか!……良かった」


 すると、陽瀬は不安そうだった声から、何故か安堵したような。

 それでいて、嬉しそうな声を上げて、最後に俺には聞こえない声で何かを呟いた。

 ……胸の大きさよりも大事なことがあるのは大前提として、本音を言えば、俺は大きな胸が嫌いどころかその反対────と思いかけたが。

 これ以上は言う必要の無いことで……

 言う必要が無いということは、今考える必要が無いこと。

 ということになるため、俺は危うく考えそうになったその続きのことについては、何も考えないことにした。

 それからは、二人でテストの復習をしながら休み時間を過ごし、時が流れて────放課後。


「また明日ね!空風!」

「あぁ、また明日な」


 隣の席の陽瀬と別れの挨拶をすると、俺は校門前で待ち合わせをしている柊の元に向かう。

 そして、校門前に到着すると────


「……」


 鮮やかな青の髪を、肩上まで伸ばしていて。

 首元にはヘッドホンを掛け、制服の上着の下には白のパーカーを着た、脚の長いスリムな体型の女子生徒。

 ひいらぎ雪音ゆきねが居た。

 その優れた容姿もあってか、校門前を通った生徒たちのほとんどが通りすがりに柊に視線を送っている。

 なんて思いながらも俺は柊に近づくと、早速話しかけた。


「待たせた」


 すると、柊は俺の方を向いて。


「別に。じゃあ行こっか」

「あぁ」


 相変わらず落ち着いた声を放った柊に返事をすると、俺たちは二人で柊の家に向けて歩く。


「……女子の家に行くのは初めてだから、緊張するな」


 ずっと黙ったまま歩くのも少し気が引けるため俺がふと思ったことを言うと、柊が言った。


「私兄妹居ないからわからないけど、妹が居るなら屋根の下で女子と二人きりっていう状況には耐性あるんじゃないの?」

「妹と同級生の女子とじゃ全然違う、妹は異性っていうよりそのまま妹っていう感じだからな」


 言語化するのは難しいが、とにかく妹は妹だ。

 俺が強くそう思っていると……突如。

 柊が、思わず心臓が跳ねてしまいそうなことを聞いてきた。


「そうなんだ。じゃあ────私のことは、として見てるってこと?」

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