第14話 おっぱいの大きさ

「あぁ〜!負けちゃった〜!」


 ホームルームと一限目が終わり。

 一限目の休み時間になると、陽瀬ひなせがそう声を上げた。

 ホームルームの段階で互いにテスト結果だけは見せ合っていたが、その時はホームルーム中ということもあって声を出すことはできなかったため、今その心の叫びを口から出したといった感じだろう。


「今回今までで一番だったから、絶対勝ったと思ったのに〜!」

「陽瀬の点数が思ったよりも高くてヒヤヒヤしたが、無事に勝てて一安心だな」


 俺がそう言うと、陽瀬は少し間を空けてから、どこか恥ずかしそうにしながら言った。


「……空風そらかぜ、もう私にお願いしたいことは決まってるって言ってたよね?」

「あぁ」

「確か、恥ずかしいことで、私にしか頼めないこと……だったっけ」

「そうだ、陽瀬にしか頼めない」

「っ……!」


 俺が改めて伝えると、陽瀬は頬を赤くして目を見開く。

 すると、少し間を空けてから言った。


「良いよ、空風……お願いの内容によっては上手くしてあげられるかわからないけど、それでも私、頑張るから!約束通り、何でも言って!」

「わかった、なら言わせてもらう」

「うん……!」


 緊張した様子でありながらも頷いた陽瀬に、俺は口を開いて言った。


「陽瀬には……俺と一緒に街に出て、俺のを手伝って欲しい」

「……え?」


 俺の言葉を聞いた陽瀬は困惑の声を上げたが、俺は続けて言う。


「新しい私服を買いたいと思ってたんだが、自分だと何が良いのかわからなくてな。高校生にもなって、服の選び方がわからないなんて理由で服選びを手伝ってもらうのは恥ずかしい気もするんだが……もし可能なら、ファッションに流通した職業をしている、モデルの陽瀬に頼みたい」


 事の経緯と陽瀬にお願いした理由を説明すると、何故か陽瀬は少しの間固まっていたが……

 やがて、小さく笑って言った。


「本当、空風はいつでも変わらないね。何でもお願いできるのに、そんなことお願いするなんて」

「そうか?」


 陽瀬とは今まで一緒に校外に出かけたことはなく。

 加えて、モデルである陽瀬に服選びを頼むというのは、俺にとって十分今回のお願いに足るハードルの高さだったが……


「なら、陽瀬はもし今回俺に勝っていたら、どんなお願いをする予定だったんだ?」

「え!?わ、私!?」


 何故か慌てた反応を見せた陽瀬は、目を泳がせると、頬を紅潮させながら弱々しい声で言う。


「わ、私は……空風に、勉強頑張ったなって言って、抱きしめ────あ〜!な、何でもない!何でもないから!」


 陽瀬は、今自らの言ったことをかき消すように、素早く両手を振る。


「そうか」

「う、うん!」


 小声な上に最後まで言い終えることも無かったから、何を言っているのかはわからなかったが、一応軽く返事をする。

 と、陽瀬は慌てた様子で話題を切り替えて言った。


「えっと!それで、服選びだったよね!?いつにする!?」

「そうだな……」


 何も予定が無ければ今日の放課後でも良かったが、今日は柊と遊ぶ予定があるためそういうわけにもいかない。

 ……なら。


「明日の放課後なんてどうだ?」

「うん!大丈夫!明日の放課後ね!……ていうか!空風と一緒に服見れるとか、私普通に楽しみなんだけど!」

「そうだな」


 俺が頷くと、陽瀬は俺には聞こえないほど小さな声で。


「しかも、空風と二人で?……そうじゃん!空風と二人!?え、待って待って、嘘、最高すぎない!?それで、私のオススメした服を、空風が着てくれちゃったりするの!?服屋デートってこと!?そういうことだよね!?」

「……陽瀬?どうし────」

「空風〜!!」


 陽瀬の様子を不思議に思った俺が呼びかけようとした時。

 陽瀬は席から立ち上がると、座っている俺のことを抱きしめてきた。


「っ……!?」


 すると、相変わらず手のひらより二回りも三回りも大きな胸が俺の顔に当たる。


「あ〜!明日が一気に楽しみになった〜!早く明日にならないかな〜!」

「た、楽しみそうなのは良いが、陽瀬、胸が……」

「え?」


 俺が指摘すると、俺の顔に自らの胸が当たっていることに気が付いた陽瀬は、俺のことを抱きしめるのをやめて言う。


「ご、ごめん!おっぱい当たっちゃってるの気付かなかった!私の大き────っ」


 どこか既視感を感じる言動だったが、陽瀬はそこで言葉を止めると。

 突然、少し顔色を悪くして、いつもの活気を感じられない声色で言った。


「ね、ねぇ、空風……よくわからないけど、男子って好きなおっぱいの大きさ?形?みたいなのがあるんだよね?」

「は……は?」


 突然全く意味のわからないことを聞かれ、俺は思わず困惑の声を漏らす。


「いきなり何の話────」


 と言いかけた俺、だったが……そんな俺の言葉を遮って。

 陽瀬は、頬を赤く染めながら聞いて来た。


「空風にも、あるの?好きなおっぱいの大きさ、とか」

「っ!?な、何で、そんなどうでも良い話を────」

「どうでも良くないの!!」


 力強く言った陽瀬は、続けて。


「大事なことだからちゃんと答えて!空風は、大きいおっぱいと小さいおっぱい……どっちが好き?」

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