第11話 中間テスト

「何でも……?」

「うん!もし私が勝ったら、空風そらかぜに私の言ったこと何でも一つ聞いてもらうけど……逆に!私が負けたら、空風の言うことどんなことでも聞いてあげる!」


 どんなことでも、か……

 そう言われても、陽瀬ひなせにお願いしたいことなんて、あまりすぐには思いつかな────と思いかけた、が。


「……」


 目の前に居る、着崩した制服をも着こなしている陽瀬のことを見て。

 俺は、陽瀬にあるお願いをしたいと思い至ったため、その提案に頷いて言う。


「わかった。今回の勝敗に応じて、今陽瀬の言った通りにしよう」

「やった〜!テスト終わるの楽しみ〜!」


 明るい声で、とても楽しそうに言う陽瀬。

 ……そうだ。


「俺はもう陽瀬にお願いすることを決めたが、今言っておいた方が良いか?」

「え?もう決まったの?」

「あぁ、少し恥ずかしい気もするが……これをお願いできるのは、俺には陽瀬しか思い当たらない」

「は、恥ずかしいことなの!?私しか……!?」


 何故か、陽瀬は驚きながらも頬を赤く染めて、恥ずかしそうに言った。

 ……続けて。

 間を空けてから、少しだけ落ち着いた様子で言う。


「どんなお願いなのかは気になるけど……まだ言わなくて良いよ!お願いの内容は、テスト結果出た後にしよ!」

「わかった」


 これも特に断る理由は無いため頷くと……

 陽瀬は、頬を赤く染めてどこか緊張した様子でありながらも口を開いて言った。


「あのね?空風……空風が私にどんなお願いするつもりなのかは知らないし、私も負けるつもりなんて全然無いんだけど────」


 相変わらず緊張した様子の陽瀬は、続けて俺の目を見て言った。


「もし私が負けた場合でも、私にお願いすること遠慮とかしなくて良いからね!空風がどんなことお願いして来ても、私絶対嫌がったりしないから!……もちろん、ちょっとは恥ずかしいかもしれないけど、空風とだったら私────と、とにかく!遠慮なんてしないで、空風が本当に私にお願いしたいことを言ってね!」


 何かの感情を覆い隠すように、大きな声を上げて言う陽瀬。

 ……なるほど、仮に俺が陽瀬に勝ったとしても、俺が陽瀬に遠慮して大したことをお願いしないんじゃ無いかと思っているのか。

 そういうことなら何も心配は要らない、ということを伝えるべく。

 俺は、口を開いて言う。


「あぁ。元から、俺も陽瀬に遠慮なんてするつもりは無い。だから陽瀬も、仮に俺が負けた場合でも、何も遠慮せずにお願いしたいことを言ってくれ」

「っ……!うん!」


 それから。

 テスト前日という、一番体力が消費されているはずの日にもかかわらず、何故か今まで以上にやる気になっている陽瀬と一緒に勉強をして。

 やがて放課後になり、家に帰ってからもテスト勉強を行って────次の日。

 いよいよ、三日間に渡る中間テストの一日目が始まった。


「……」


 無理をしてでも勉強をして来た俺にとって、この中間テストの勝負所は知識ではなく体力だ。

 今までの定期テストでも、俺は一日目と二日目の科目はかなり好成績を収めてきたが……

 三日目になると。

 バイトの疲れもあって集中力が切れてしまい、普段の半分。

 とは言わないが、それに近いぐらいの実力しか出せずにいた。

 今回も、そうなったらどうしようかと思っていたが────いざ、中間テスト三日目。

 今日の科目は、英語と国語と社会だ。

 よりにもよって、三日目という疲れ切っている時に陽瀬との勝負科目────だが、逆にそのことが功を奏し。

 俺は、陽瀬との勝負という点に意識を置くことで、英語と国語を集中力を切らさずに行うことに成功し、社会は底力で乗り切った。

 そして────


「テスト終わった〜!あ〜!疲れた〜!」


 中間テストが終了して、放課後になると同時。

 隣の席の陽瀬が、大きくそんな声を上げた。

 俺はそんな声を上げる性格でも、そんな声を上げる余力すら残っていない……が。


「陽瀬」

「ん?」


 これだけは伝えておくべきだと思い、陽瀬に話しかける。


「勝敗はテスト結果が出るまでわからないが、陽瀬との勝負のおかげで、俺は最後まで集中力を切らさずにテストに臨むことができた。こんなことは、高校に入ってから初めてかもしれない。だから……ありがとう」

「っ……!」


 俺がそう伝えると、陽瀬は頬を赤く染めて、大きく目を見開いた。

 それから、少しの間だけ。

 お互いにテストの手応えなんかについて話し合うと……


「またな、陽瀬」

「うん!またね、空風!」


 手を振ってくれた陽瀬に背を向けると、俺は後ろから陽瀬の視線を感じながら教室を出た。

 そして、そのまま真っ直ぐ家に帰り、ドアを開けて玄関に入ると────玄関で俺の帰りを待っていた様子のあんが、明るい笑顔で言った。


「おかえり!お兄ちゃんっ!テストで疲れてるよね?すぐご飯にする?お風呂にする?それとも、私にする!?」

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