第10話 勝負
「え……?」
……何度も言うようだが、白百合グループとは様々な分野の企業をまとめている大企業グループで、俺なんかには想像もできないほどの大きな力を持っている。
白百合先輩は、そんな白百合グループの一人娘で、今までどんな相手から告白されても断って来たと言う。
そんな白百合先輩と俺が、二人で街に出かける……?
「えっと……どうして、俺と街へ出かけたいと思ってくださったんですか?」
何を言われてもすぐに頷くつもりだったが……
今回は事が事のため聞き返すと、白百合先輩が言った。
「これまで、私と
「学校外で、俺と……」
あの白百合先輩が、俺に対してそんなことを思ってくれていたのか……
だが俺も、白百合先輩と過ごしている時間は楽しいし、できることなら学校の外でも一緒に時間を過ごしてみたい。
……正直、今まで異性と二人で街に出かけたことは妹の
白百合先輩がここまで言ってくれているのに、断ることはできない。
「わかりました、白百合先輩。この中間テスト明けに、二人で街に出かけましょう」
「っ……!よろしいのですか……!?」
「はい」
俺の答えを聞いた白百合先輩が驚いた様子で言ったため俺が再度頷いてみせると。
白百合先輩は、俺に笑顔を向けて言った。
「ありがとうございます、律さん。これから、まだまだ私の知らない律さんのことを、たくさん教えてくださいね」
「わ、わかりました」
白百合先輩の知らない俺なんて、教えられるだけあるか疑問だったが、ここは流れとして頷くべきところだと判断して頷いておく。
そして、そろそろ昼休みが終わるため、白百合先輩と別れて教室に戻り────数日後。
いよいよ、三日に渡って行われる中間テスト前日。
俺は、いつも通り、陽瀬と一緒に休み時間で勉強をしていると……
「見て見て、空風!ほとんど合ってた!」
そう言って、自信満々に英語の羅列されたノートを見せてくる陽瀬。
確かに、そのノートにあるのはほとんどが赤の丸で、チェックはかなり少ない。
「良い感じだな」
「でしょ!?」
俺の返事を聞いた陽瀬は、満足げにノートを机の上に置く。
「勉強を教えたり、一緒に勉強をしていて気付いたことだが、陽瀬は特に英語と国語が得意みたいだな」
「うん!今まで自分だとあんまり気付かなかったけど……空風が優しく教えてくれたおかげで、気付けたよ」
恥ずかしがることは何も無いと思うが、どこか恥ずかしそうに言う陽瀬。
「そういうことなら、教えた甲斐もあったな」
俺が短く返すと、陽瀬は少し間を空けてから、恥ずかしさを払拭するためか大きな声で言った。
「英語と国語だったら、もう空風よりも頭良くなっちゃってるかもね〜!」
「俺より、か。言うようになったな……そこまで言うなら、勝負でもするか?」
「勝負?」
「あぁ、今回の中間テストで、英語と国語だけに絞って総合点で勝負するんだ」
全教科合わせての勝負であれば、正直まだ陽瀬に負ける気はしないが……
英語と国語の二科目。
それも、中間テストの範囲だけでとなれば、どう結果が転んでもおかしくはない。
そんな俺の提案を聞いた陽瀬は、目を見開くと楽しそうに言った。
「良いよ良いよ!楽しそう!しよ!勝負っ!じゃあ、何か罰ゲームとか考えない?」
「罰ゲームか……例えばどんなのだ?」
「う〜ん、例えば……」
それから少しの間だけ沈黙して考えた様子の陽瀬は────やがて口を開くと、頬を赤く染めて言った。
「負けた方は、勝った方の言うことを何でも一つ聞く……とか」
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