第9話 大きくなったんだよ?

「直接……って、どういうことだ?」


 あんの言葉の意味がピンと来なかった俺がそう聞くと、杏は落ち着いた声色で言った。


「私が今から下着姿になるから、その下着姿を見て、本当に私が今も昔も変わらないのか直接お兄ちゃんの目で確認して欲しいってことだよ」

「し、下着姿になる!?」


 眠気で意識が朦朧としていた俺だったが……

 妹の口から、突然下着姿になるなんて言う言葉が出ては、意識を朦朧とさせている場合では無く。

 その驚いた勢いのまま状態を起こすと、続けて言った。


「朝から早々、何を言ってるんだ?良い眠気覚ましにはなったが、冗談にしても────」

「冗談じゃないよ」


 そう言うと、続けて杏は頬を赤く染めながら言った。


「私、お兄ちゃんのためだったら今すぐにでも脱いで、下着姿を見せてあげられるよ?ううん。もしお兄ちゃんが見たいって言ってくれるなら、その先も」


 最後に小さな声で何かを呟いていた杏だったが、下着姿を見せられるという強烈な言葉のせいもあって、俺の耳にその言葉は入って来ない。

 というか、どうして杏は突然こんなことを言い出したんだ?

 杏が兄思いなのは今までもずっとそうだったが、それでもそういった一線は引いて、俺たちはずっと兄妹として接してきた。

 なのに、どうして突然……

 俺がその原因を頭の中で考え込んでいると、杏は俺との距離を少し縮めて言った。


「ねぇ、お兄ちゃん。私、昔と比べて胸とかも大きくなったんだよ?服の上から見てもわかるよね?」

「それは……そう、だな」


 俺は先ほどの続きを考えながらも、事実として杏の言葉を肯定する。

 すると、杏は小さく口角を上げて言った。


「そうだ!お兄ちゃん、手貸して!」


 そう言った杏は、俺の右手を取ると、その手のひらを見て言った。


「お兄ちゃんの手も、昔と比べて大きくなったね」


 それから、杏は数秒の間ジッと俺の右手を見つめると────その右手を、少しだけ自らの胸元に近づけた。


「あ、杏……?」


 俺がその行動に困惑していると、杏は頬を赤く染めて、恥ずかしそうに言った。


「お兄ちゃん……一回だけ、服の上から私の胸を触ってみない?」

「っ!?な、何を言ってるんだ!?そんなことできるわけ────」

「一回だけだよ!バイトとかたくさん頑張っていっぱい疲れてると思うから、たまにはこういうこともしないと……あと、今お兄ちゃんに彼女は居ないけど、大丈夫だよ。私が、彼女の代わりにお兄ちゃんの全部を受け止め────」

「そうか!」


 俺は、先ほどからずっと考え込んでいた、どうして杏が突然こんな変化を見せたのか。

 という問いの答えに、今の杏の発言で気がつくことができたため、思わずベッドから立ち上がった。


「っ!そうだよ、お兄ちゃんっ!今までとは違って、これからは私がお兄ちゃんを────」

「杏が突然こんなことを言い出したのは、俺が疲れてるのを気遣ってのことだったのか!」

「……えっ?」


 杏の俺の右手を握っていた手の力が弱められたため離すと、俺は杏の肩に手を置いて言った。


「杏、俺なら、杏が下着姿を見せてくれたりしなくても大丈夫だ。杏の下着姿は、いつかきたるべき相手に見せてくれ」

「っ……!待ってお兄ちゃん、私は────」

「そういえば、もう杏の料理はできてるんだったな。杏の美味しい料理が冷めないうちに、早く一緒に食べよう」

「っ!お、美味しい……!う、うんっ!お兄ちゃんっ!!」


 それからは、部屋を出て階段を降りると、俺はいつも通りな様子の杏と一緒に朝食を食べた。

 朝から突然衝撃的なことを言われてかなり驚いたが、それすらも兄思いな杏の優しさだったというわけだ。

 ────そんな衝撃的な朝を過ごした日の昼休み。

 俺が、いつも通り屋上からの景色を眺めていた白百合しらゆり先輩と一緒に、屋上のベンチで昼食を取ると、勉強を教えてもらっていた。

 白百合先輩から勉強を教えてもらう時間はこの昼休みの時間だけだが、白百合先輩はとても頭が良く。

 俺が分からないところを一発で分かるように教えてくれるため、本当にいつも助かっている。


「……」


 そういえば、前に陽瀬ひなせが俺に勉強を教えてもらっているお礼がしたいと言っていたな。

 ……俺もいつも白百合先輩にはお世話になってばかりだし、何かお礼の一つでもしたいところだ。

 ふとそう思った俺は、キリの良いところで手を止めると、白百合先輩に言った。


「白百合先輩、いつも俺に勉強を教えてくださったりしているお礼をしたいんですけど、何か俺にして欲しいこととかありますか?」

「私はただしたくてしているだけですので、お礼など構いません……と、言いたいところですが」


 そう付け加えると、白百合先輩は続けて。


「そういうことでしたら……一つだけ、りつさんにお願いさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 白百合グループの一人娘である、白百合先輩からのお願い。

 その言葉の重みは言うまでも無いが……


「はい、何でも言ってください」


 ここまで来て断るなんていうことはできないし、するつもりも無いため俺がそう答えると────白百合先輩が、口を開いて言った。


「よろしければ、この中間テスト明け……私としていただけないでしょうか?」

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