第8話 今も昔も変わらず
「……」
俺は、今までこんなことを真剣に考えて来なかったため、かなり考え込む。
そして、ふと
「っ……?」
陽瀬は、何かを訴えかけるような目で俺のことを見ていた。
……本当に、この陽瀬の気迫は一体何なんだ?
これが、女子が恋バナにかける熱意というものなんだろうか。
なんて思いながらも、俺はそれから少し考えて。
ようやく一つの答えに辿り着くことができたため、その答えを言葉にすることにした。
「俺が彼女にするなら、落ち着いた人と活発な人どちらかという話だったが……俺は、どっちでも良い」
「っ!?ちょっと!!どっちでも良いって、こういう話で一番NG────」
「悪い、どっちでも良いと言うと語弊があった。言い方を変える」
続けて、俺は自らの考えを今度こそしっかりと口にする。
「落ち着いているにしても、活発にしても、俺はその人が俺と接しやすいように接してくれているのが一番だと思った。だから、さっきの回答を補足するなら、その人が俺と接しやすいように接してくれているならどっちでも良い、になる」
「っ……!」
俺がそう答えると、陽瀬は大きく目を見開いた。
そして、俺の肩を軽く叩いて言う。
「もう!
「二択で答えた方が良かったか?」
「ううん、私は今の空風の回答で満足!」
明るい笑顔で言った陽瀬は、続けて俺の目を見て言った。
「本当、空風はずっとそう……優しくて、自分の中にちゃんと芯があって、私は空風のそんなところを────空風!ここの問い難しくてわからなかったから、教えてくれない!?」
突然、自らの机の上に置いてあるテキストの一部を指差して言ってくる陽瀬。
「それは良いが、今何か言いかけて────」
「気にしなくていいから!ほら、休み時間終わるまであとちょっとだし、駆け足でいいから!お願い!」
「……わかった」
どこか恥ずかしそうにしながら、まるで何かを隠すかのように言う陽瀬だったが……
元々、この休み時間は陽瀬と勉強をする予定だったため、俺は残りの時間を使って陽瀬に勉強を教えた。
────数日後の朝。
「────うっ!────ちゃんっ!」」
「……ん?」
俺が眠りについていると、明るい声が耳に響いてきた。
何事かと思い、ゆっくり目を開くと────
「おはようっ!お兄ちゃんっ!」
そこには、眠っている俺の顔を覗き込んでいる杏の姿があった。
「
俺が、寝起きということで、まだ少しだけ意識が朦朧とした状態で聞くと、杏は首を横に振って言った。
「ううん!朝ご飯ができたっていうのはあるけど、最近はお兄ちゃんのこと朝起こしてあげたりしてなかったから、大人びた私に朝起こされたらお兄ちゃんはどんな感覚になるのかな〜って思っただけ!」
その言葉を聞いて、俺は小さく笑うと杏の頭に手を置いて言った。
「何が大人びただ。杏は、今も昔も変わらず、俺にとっては可愛らしい妹のままだ」
少し調子の良いことを言った生意気な妹に、兄がツッコミを入れる。
どこにでもありふれた、兄妹のやり取り。
「……今も昔も、変わらず?」
「そうだ。もちろん、杏は今勢いのある人気女優で、俺なんかより何倍も凄いが……できることなら、俺はずっと杏の支えになれる兄で居たいと思ってる」
どこにでもありふれた、兄妹のやり取り────のつもり……だったが。
「……」
杏は、何故か開いていた口を閉じて目元を暗くし。
少し間を空けてから再度口を開くと、もう着替えたらしい制服の胸元部分に手を触れて言った。
「ねぇ、お兄ちゃん……私が今も昔も変わらないって言うなら、本当に今も昔も変わらないか、直接確認してみてくれないかな?」
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