第7話 重要なことなの!

ひいらぎの家で、二人でゲーム……?」


 愕然としながらも。

 俺がどうにか聞き返すと、柊は頷いて言った。


「うん。私、今まで実際に人と隣になってゲームとかしたこと無いから、前からしてみたかったんだよね」

「そ、そうか……」


 確かに、俺も今まで周りにゲームをしているのは柊だけで。

 その柊とはオンライン上でしか一緒にゲームで遊んだことが無いから、実際に隣でゲームをしてみたい気はするが……

 俺が判断に悩んでいると、柊がそんな俺のことを見て言った。


「あ、もしかして私の両親の心配とかしてる?だとしたら、私は一人暮らしだから両親にゲームの邪魔される心配とか無いよ。ていうか、そういう理由で一人暮らしにしたからね」


 両親が居ないというのは、どちらかと言えば俺にとって緊張が高まる要素にしかならない!

 ……が。

 ……俺のことを家に招いて、一緒に遊びたいと言ってくれている柊の誘いを。

 ただ柊が異性だからという理由だけで断るなんてことは────できない。

 そう思い至った俺は、頷いて答える。


「両親の心配をしていたわけじゃないが、柊がそこまで言うなら、今度柊の家で二人で遊ぼう」

「っ……良いの?」

「あぁ。ただ……柊と遊ぶのは楽しいからすぐにでもと言いたいところなんだが、テスト期間は勉強に集中したいから、中間テスト後になっても良いか?」

「もちろんいいよ。……でも」


 柊は俺との距離を一歩近づけると、その綺麗な顔を近づけてきて、その澄んだ瞳で俺の目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。


「前にも言ったけど、体だけは気をつけてね。バイトよりもテストよりも、体。もしテスト終わりに無理しすぎたせいとかで、体が壊れて遊べないとかになったら────」


 そう言いかけた柊から、俺は一歩後退あとずさって言う。


「わかってる。体が壊れたせいで遊べないなんてことになって、柊にさらに体を壊されるような事態になるのは御免だからな」


 俺が冗談混じりに言うと、柊は納得した様子で頷いて、目元を暗くして言った。


「うん。もしそれで遊べないなんてことになったら、空風そらかぜの足を縛ってバイトとか行けないようにして、体が回復したら足と違って自由に動く手で私とゲームしてもらうことになるよ」

「柊が言うと冗談に聞こえないからやめてくれ!」


 軽く寒気のようなものを感じながら言うと、柊は少し間を空けてから目元を普段通りに戻し、俺に背を向けて言った。


「まぁ、そうなりたくなかったら体に気をつければ良いだけのことだよ。……楽しみにしてるから」


 最後の部分だけどこか恥ずかしそうな声色で言い残すと、柊はそのまま廊下を歩いて言った。


「……これは、絶対に体調を崩すわけにはいかなくなったな」


 そう呟いてから教室の中に入り、自らの席に座ると。

 俺の隣の席で勉強をしていた陽瀬ひなせが、ペンを置いて話しかけてきた。


「ねぇ、さっき話してたのって、柊さんだよね?」

「そうだ」

「やっぱり!私はほとんど話したこと……っていうか、柊さんがあんまり人と話さない人だから、柊さんと話したことある人なんてほとんど居ないと思うけど、落ち着いた感じの人だよね」

「そうだな、陽瀬とは正反対だ」

「っ!ちょっと!それ私が落ち着き無いって言ってない!?」

「……言ってない」

「今の間!言ってるじゃん!」


 俺が、今のは失言だったと反省していると。

 陽瀬は、はっと目を見開いて何かを考え込んだ素振りを取ると────突然、俺との距離を縮めてきて言った。


「ねぇ!もし空風が彼女にするなら、落ち着いてる人と落ち着き無……活発な感じの人だったら、どっちを彼女にしたい!?」

「お、俺が彼女にするなら……?話の流れが掴めないんだが、どうしていきなりそんな────」

「重要なことなの!早く答えて!!」


 凄まじい気迫で聞いてくる陽瀬。

 ……本当に、どうして突然こんなことを聞いてきたんだ?

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