第6話 興味無いかな?

「っ!?いきなり何を言ってるんだ!?」


 陽瀬ひなせが放った胸を見せるという衝撃的すぎる言葉に俺が当然驚いていると、陽瀬は普段通りの様子で言った。


「いきなりじゃないよ?空風そらかぜのことを癒してあげられるようなお礼を考えてたら、自然に行き着いたんだから!」

「お礼って……ひ、陽瀬、自分が何をするって言ってるかわかってるのか?」


 俺がそう聞くと、陽瀬は頬を赤く染めて言う。


「もちろん、私だって誰かにおっぱい見せたりしたことなんて無いから恥ずかしいけど……でも、それが空風のためになるなら、してあげたい!」


 ……俺は、そこまで陽瀬が俺に優しさを抱いてくれているということを嬉しく思う反面。

 友達として不安に思ったことがあったため、ここはその優しさを受け取る前に、友達としてしっかり忠告しておくことにした。


「その優しさは嬉しいが、今陽瀬がそう言った相手が変な気を起こす気力も無い疲労状態の俺じゃなかったら、本当にどんなことになってたかわからない。だから、そういうことは例え友達相手だったとしてもあまり軽々しくは言わない方が良い」

「っ!私こんなこと他の男子に言わないし、空風にだって軽く言ったわけじゃないよ!」


 続けて。

 陽瀬は目元を暗くすると、俺との距離を縮めて言葉に感情を込めながら言った。


「前にも言ったけど、私、空風のためだったら本当にどんなことでもしてあげたいって思えるの……本当に、どんなことでもだよ?」

「……陽瀬?」


 いつかのように様子がおかしくなった陽瀬のことを不思議に思い名前を呼ぶと、陽瀬は俺と体の距離を近づけてきて続ける。


「だから、恥ずかしいのは恥ずかしいけど、もし私がおっぱい見せてあげるだけで空風の疲れがちょっとでも和らぐんだったら私はいくらでも空風におっぱい見せてあげるし、本当だったら空風の生活も全部、全部養ってあげたいって思ってるの!」

「陽瀬、一度落ち着────」

「それで、どう?空風、私のおっぱい見たら疲れもちょっとは無くなりそう?もしそうなら、今日の放課後……じゃなくても、空風にだけ見られる場所だったら、次の休み時間とか、何だったら今すぐにでも移動して見せてあげる────あ、でも、空風は私のことそういう目で見てないだろうから、私のおっぱいとか、そういう異性的な部分には興味無いかな?」


 正直、陽瀬の様子が突然おかしくなったことや、友達とはいえ人気モデルで容姿もスタイルも抜群な陽瀬から胸を見せるという言葉を放たれたことなどによって。

 ほとんどの言葉が耳に入って来なかったが────最後の言葉は一段と暗い声色で問われたため、俺の頭の中に響いていた。


「……」


 陽瀬の異性的な部分に興味があるのか、無いのか。

 もしこれが二択で無ければ色々と考えようもあったと思うが、二択であるなら迷う余地は無い。

 問題は、それを正直に答えることが俺にとって羞恥を抱く点であるということだが……

 直感的に、ここは嘘を吐かない方が良いと思った俺は、恥ずかしさを押し殺そうとしていることによって、普段より弱々しい声を放って言った。


「興味があるのか無いのかで言えば……ある」

「っ!?」


 俺の答えを聞いた陽瀬は、目元を暗くするのをやめてとても驚いたように目を見開く。

 すると、陽瀬は声色も明るくすると、どこか嬉しそうにしながら言った。


「空風のことだから『そんなの興味無い』って言われちゃうかと思ってたけど、空風もそういうの興味あるんだ!」

「……常にそういうことを考えてるわけじゃないが、俺だって男子高校生の端くれだからな」

「そっか……そうなんだ!空風が、私の異性的なところに……」


 それから、陽瀬は自らの胸元に手を当てて少しの間嬉しそうに一人何かを呟いていた。

 ただ、休み時間もそろそろ少なくなって来たため俺が勉強を再開しようと伝えると、陽瀬は頷いてくれたため、俺たちは二人でペンを握り直して勉強を再開した。

 ────次の休み時間。

 この休み時間も、陽瀬と勉強をしようと思った……が。


「……」


 教室の入り口前から、ある人物がこちらを覗いていることに気が付いた。

 そのある人物とは、鮮やかな青の髪を肩上まで伸ばしており。

 首元にはヘッドホンを掛け、制服の上着の下には白のパーカーを着ていて。

 脚も長く、スリムな感じの体型をした女子生徒、ひいらぎ雪音ゆきねだ。


「わざわざ教室まで来るのは珍しいな……」


 なんて呟きながら席を立つと、俺はそのまま歩いて柊の目の前までやって来て話しかける。


「柊、俺に何か用事か?」


 俺がそう聞くと、柊は少しの間俺の顔を見つめたからため息を吐いて言った。


「よくそんな顔で、前一緒にゲームした時『無理してない』とか言えたよね」

「そのことは俺が悪かったから、許してくれ」


 いつも通りそんな軽口を言い合うと、柊が本題を切り出し始めた。


「今日直接会いに来たのは、空風の顔色を確認するためっていうのと、もう一つ理由があるんだよね」

「もう一つ……?」

「うん。私たちって、今までこうして学校で話したりゲームで遊んだりは何回もして来たけど、思えば実際に隣で遊んだりしたことは無かったよね」

「それは……そうだな」


 柊とは学校で会うことはあるものの、遊ぶのは決まってオンライン上だ。


「そこで提案なんだけど……私たちってもう結構な付き合いだし、もし空風さえ良かったら────今度、私の家で二人でゲームしない?」

「っ……!?」


 柊の家で……!?

 今までの人生で恋愛経験の無く、異性の家に入ったことも無い俺は……

 柊から突然放たれた提案に、愕然とする他無かった。

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