歓迎遠足

第10話 喧嘩と……

「──よし、貴様ら、『極小級』の魔法であれば一つは使えるようになったな……『ケアフ・E・アール』を除いて」

「にゃっはははは……」


 ──入学してから二週間。

 教室にてケアフはナウンスに睨みつけられていた。

 獣人は魔法適性が人間よりもやや低い。その血を継いでいるケアフが苦戦するのは頷けるが……。


「笑い事ではない。貴様がこのまま六年の時を過ごすようであれば問答無用で『F』ランク……いや、『G』ランクも検討するぞ」

「『どれい』だなんてひどいっ! みゃーは『たいきばんせー』がたなんだっ!!」


 Gランク……もはや同じ人間だと見做されない奴隷たち。魔法を全く使えない者や素行不良の者、何らかの罪を犯した者はこのランク以下になってしまう。


「大器晩成、か。せいぜい六年生までに結果を出してほしいものだが……では、本題に入ろう」


 教壇に立つナウンスが俺たち全員を見る。


「貴様らの魔法習得状況を鑑み、来週の月曜に歓迎遠足に行くことにした。弁当や菓子の準備をしておくように」


 遠足、の言葉に教室中が騒めき立つ。

 歓迎遠足。たしかに楽しい響きだが……。

 寮生の話によれば、魔物が出現する山道を歩くそこそこ過酷なものらしい。

 何が歓迎だよ。殺す気か。

 そういえば前世の歓迎遠足もあまり歓迎感なかったな。


「にゃっ! えんそくえんそく〜っ! たのしみだなぁ〜!」


 ホームルームが終わった後、ケアフがウキウキとした表情で両腕をワキワキさせていた。


「案の定覚えてないっぽいね……あはは」

「コイツにキタイするだけムダですよ、エンドリィ……」

「にゃんだとぉぉぉ……っ!」

「ではアナタはナニができるんですか? ベンキョウもできない、マホウもつかえない……ホントウに、なんでここにいられるのかわかりませんよ」

「う……それは、そうだけど」

「まあまあ、カインさん……」

「ジジツをいっただけです。いきましょうエンドリィ」

「むぅーっ! エンドリィはみゃーとかえるんだーっ!!」

「あっはは……どうせ寮に帰るんですから、三人で、ねっ?」

「「…………ふんっ!!」」


 そっぽを向くタイミングだけは完璧だな。実は仲がいいんじゃないか?

 いや、そういう風に茶化していられないほど険悪な雰囲気になってきたな。

 この歓迎遠足が何かを変えるキッカケになればいいんだが……。



「──では、これより山を登っていく」


 王都から四台の馬車で一時間ほど揺られて、オレたちは西の山に到着した。

 まさか御者に『飛ばしていくぜおじさん』が四人もいるとは思わなかったが。

 ユーティフルとか死ぬほど困惑してたし気分悪くなってたぞ。

 ナウンス曰く、この程度で気持ち悪くなってもらっては困るということだったけれど。


「う、え……気持ち悪い。なんとかしてーっ!」

「ああ、おじょうさま、じつはわたしもきもちわるくて……おぇっ」

「ほんとにハきそう……」


 死屍累々である。なんであのおじさん達を採用しとる? 訓練のため?


「えんっそく、えんっそく!」

「あははっ、ケアフちゃんは今日も元気だねっ!」

「おぉ! だって、エンドリィといっしょにかったおかしと、いっしょにつくったべんとうをたべられるんだもんっ! みゃーはいつもよりげんきだぞっ!!」

「あははっ、そっか!」

「イベントだけはイッチョマエにたのしむんですね?」

「なんかいったか?」


 カインの言葉にケアフがきっと睨みつける……だめだ、仲良くなる気がしないぞコイツら。


「『エンドリィ・F・リガール』たちぃ……どうしてアナタたちは平気そうな顔をしているのかしら!?」


 気分悪いだろうに此方に突っかかってくるのはやめないユーティフル。大変だね君も。


「あー……村から王都に向かう馬車もあんな感じだったんで」

「なっ、なんということ……! 神童を招待するときもコレを……!? サスガにこれはパパに言って校長先生に直談判してもらわないとっ!」


 なんかユーティフルが決意に満ちた顔をしてる。うんうん、是非とも頑張ってほしい。

 というか……。


「……貴様ら、聞いてるか?」


 そう、ナウンスがガン無視されているのである。いくらエリートとはいえ、この年頃の子供達を纏めるというのは大変なことだ。


「み、皆さーん、ナウンス先生のお話を聞きましょうー?」


 クラスの代表面はしたくないので控えていたが、このままカオスに身を委ねるのもしんどい……ので、素直にみんなへ注意喚起する。


「……」


 Fランクのオレの言葉にもみんなは大人しく従ってくれる……一部睨んでくる者はいたが。

 これは、ユーティフルがオレに一目置いていることが大きく関係するだろう。

 突っかかってくるところはめんどくさいが、結構感謝している。


「ふむ、よろしい……貴様らも知っての通り、この山には魔物が存在している。そして、今の貴様らに対処できる個体など高が知れている」

「はいっ、先生っ! どうしてわざわざこんなキケンをおかすのでしょうか!」

「ふむ、『ユーティフル・B・クトレス』の質問に答えよう……この世に魔物が現れない場所など、王都以外には存在しない。そして、貴様らはエリートという名目で招集された、最低でもCランク以上になってもらうべき人材だ」

「にゃ? 『おうと』にすむCランクいじょうのひとにはまものとかかんけいないんじゃ?」

「そう、今まさに『ケアフ・E・アール』が口にした『関係無い』という意識を消し去る為に行うのだ」

「……にゃっ!?」

「魔物との戦闘を行う騎士団に入らなくとも、国の危機には小職達が立ち向かわなければならないのだ。『魔物』と、『敵』と、そして『死』と無関係だと思ってもらっては困る」

「な、なるほど……それがエリートたる心構えということ! シツモンに答えていただき、ありがとうございます!」


 ユーティフルが興奮した様子で胸に手を当てる。

 どうやらエリートたる心構え的な話を聞くとこうなるようだ。

 ……エリートである自覚があって結構なことだ。オレはあれよあれよという間にこの場に立っていたからな。そんな自覚は薄い。できれば『死』なんて意識したくないし。


「とはいえ、魔物の巣に突っ込むような馬鹿げた真似はしないのでそこは安心しろ……では、出発するぞ」



「──痛ッ!」


 登山を始めてどれくらい時間が経っただろうか。カインが突然転んだ。


「おわっ、だいじょうぶかー!?」


 ケアフが彼に手を差し伸べる。

 普段喧嘩していてもこういうときは見過ごせないようだ。思わず微笑んでしまう……が。


「やめてくださいっ! ヒトリでたてますっ!」

「にゃっ!? そんな『いじ』はんなくていいだろー!?」

「ベンキョウもできない、マホウもつかえないヒトのテなんてつかみたくないんですよっ!」

「にゃんだと……!? じゃあさいしょからこけないようにきをつけろ!」

「う……なんですかそのタイド! Eランクのくせに!」

「は? おみゃー、いったな?」

「ちょっと、二人とも──」


 またまた始まった喧嘩を制止にかかる。


「……にゃっ!?」

「……ッ! 貴様らッ!!」


 瞬間、空から大岩が降ってきた。

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