第11話 落石

 その岩の大きさといったらもう、立派な家が一軒飛んできたかと見間違うほどで。

 ここが細い道だったら終わりだったが……いや、その場合は当たらずに下に落ちていきそうな気もするな。


「時間稼ぎならば……ッ! レディー、『中上昇魔法ディキャウィンドアップ』!」


 ナウンスが使える最大の風魔法を放ち、岩が落ちてくるのを遅らせる。


「全員ッ! 避けろッ! 可能な者は風属性魔法を周囲に展開する事ッ!」


「にゃッ!」

「わ……!」


 ケアフが呆然としているカインを抱えて、今いる位置よりも後方に走り出す。


 ナウンスの得意魔法……つまり、『極大級』まで使える魔法は『火』と『土』。降ってくる『極大級』の大岩を完全に打ち消すならば、同じく『極大級』の『風』魔法を展開するしかない。

 つまり避けないといけな──。


「おじょうさま! ハンタイホウコウにはしってなにを!?」

「あなたたちは先に逃げなさいっ! ……『エンドリィ・F・リガール』!」


 ……なんて、冷静に状況を整理している場合じゃない!

 オレはユーティフルに手を引かれ、ケアフ達と同じ方向に走って大岩から逃れる。


「……もう、なにしてるの!? ボーッとしないッ!」

「ごめんなさいっ! ありがとうございますっ!」

「も、もうダイジョウブですから! おーろーしーてーくーだーさーいーっ!!」

「にゃっ、かんしゃのことばくらいあってもいいんじゃないのかー!?」


 相変わらず言い争いを始めそうな二人と合流する。

 オレは突然の出来事……とくに未知の現象についてはまずその分析から始めるきらいがあるようだ。

 それで身体が動かないのなら元も子もない。笑えない話だ。


「……ふっ、ふんっ! 死なれたら目覚めが──キャッ!?」

「……ッ!」


 オレはユーティフルを押し倒し、覆い被さる形になる。

 彼女はお手本のようなツンデレを披露していたが、それどころではなかった。

 岩が落ちるとともに砕かれ、土の塊となって飛んできたのだから。


「ちょっと!? アナタは大丈夫なの!?」

「……い、今のところは!!」


 結果的にユーティフルを庇う形になってしまった! 自己犠牲なんてバカバカしいのにッ!

 怖い怖い怖い怖いっ!! 当たったらどうしよう!?


「う、わああああああああああああぁぁぁぁッ!!」

「カインさんッ!?」

「カインッ」

「頭を上げるのはガマンしなさいっ! 『エンドリィ・リガール』! 気持ちはわかるけれど……!」


 カインの叫び声と何かが転がり落ちる音に頭を上げそうになるが、ユーティフルに制止される。そうだ、身体にも当たってほしくないが、頭に当たろうものならより重症化や死のリスクが高くなってしまう。


「しかたのないやつだっ! とうっ!!」

「……は?」

「え?」

「…………」


 ユーティフルの顔を見なくてもわかる。コレは『アイツ今跳んだ?』の間だ。


「……貴様ら、無事かッ!」


 しばらくして、ナウンスが此方に駆け寄ってきた。


「は、はいっ! 私たちに怪我はありませんっ!! けれど……カインさんとケアフちゃんが!!!」

「なんだと……!?」

「ちょ、ちょっと『エンドリィ・F・リガール』? どきなさいよっ!」

「あっ、ごめんなさいっ!」


 覆い被さる形のままナウンスに返事をしていたら、羞恥心に身をプルプルと震わせるユーティフルから軽く背中を叩かれる。


「まっ、まあっ? これでさっきワタシが助けてあげたのはチャラにしてあげるわ? それじゃあね、『エンドリィ』!」

「あっはは、ありが……いっちゃった」


 あからさまに照れている。

 立ち上がってピュ〜っと効果音が付きそうな勢いで取り巻きのところへ走っていったし。

 やめろよ、こっちまで恥ずかしくなるだろ!


「学校通信室へ。こちら、『ナウンス・A・ドバンス』だ。問題が発生した──」


 ナウンスが腕時計型の小型ビジョンを使って学校と連絡を取っている。

 アレがこの世界の連絡機器。話せる相手が限られているという欠点があるが、ないよりはマシだろう。

 ちなみに、この小型ヴィジョンは生徒であるオレたちも着用している……もちろん、学校の通信室としか話せないものだが。

 いや、そんなことよりもケアフ達は大丈──。


「──あ、え?」

「……はッ!」

「エンドリィ!?」


 突然強い力で吹き飛ばされた。

 これは……風属性魔法か?


 なんて考えていると、既に下に地面は無くて……。


「レディー! 『中上昇魔法ディキャウィンドアップ』!」


 ナウンスが出したであろう風が頭上に渦巻いていて。


「間に合わんか……! 『エンドリィ・F・リガール』ッ!!」」


 オレは落ちていく。

 下を見ると、怖くて、怖くて……


 ……あ、やばい、気を失う──。



「──あ、あれ?」

「だーかーらー、なんでボクのことをおってきたんですか! バカなんですか!?」

「あぁ!? ばかっていったなー!?」


 気がつくとオレは地面に立っていて、そう遠くない方向から喧嘩の声が聞こえる。

 飲み込めない部分はあるが、二人の元へ走っていき。


「あの、カインさん、ケアフちゃん……!」

「エンドリィ!?」

「エンドリィ!? まさかアナタまでボクを追ってきたなんていいませんよね?」


 驚愕の表情と見定めるようなカインの瞳。

 その制服はボロボロだったが、身体自体には殆ど異常ないようだ……制服に何か仕込みがあるのか?


「違います。私は風魔法で飛ばされて……」

「カゼマホウ!? またあのアトになにかあったんですね!?」

「ってことはエンドリィもおちてきたってことか! よくけがしなかったなぁ!」


 ……そう、そこが不思議なのだ。

 何故オレは無傷なんだ?


「それが私にもわからな──ケアフちゃん! カインさん!」

「……へ?」


 オレは二人の背後を指さす。

 そこにはゴブリンが二体いて。


「「ギギギャーー!!!」」

「……あ、あわわわわわどうしよう!?」


 魔物が出る山ではあるがルート選びが適切だったのか、今回の遠足で一度も会うことはなかった……ルートから外れたらこうなるんだな。はは。いや、笑い事じゃねーけど、こうして気を鎮めるしかない。


「れ、レイセイになってくださいッ! ディシィゴブリンじゃないただのゴブリンを、こんなにちかくでみるのはハジメテですが……! ヤツらなら、ボクの『ゴクショウキュウマホウ』ジュッパツといくつか……エンドリィの『ショウキュウマホウ』ならイッパツでたおせるはずです!」

「そ、そうですよね!」


 今まで魔物が出ても大人が対処してくれていたから、怖い……が!

 やるしか……ないッ!


「レディー、『小光属性魔法ライト!」


 胸に手を当てて、それから腕を前に突き出すッ!


「ギギャーー!」


 光が一直線に飛んでゴブリンに命中する。

 光属性の特徴は『速さ』だ。ソレが来るとわかっていなければ避けられないだろう。


「もう一回っ! レディー…………『小光属性魔法ライト!」


 流石にゴブリンも対処してくるだろうから、レディーの動作から発動までをズラしてまた光線を飛ばし……命中!


「ギギャーーーーー!」


 断末魔の叫びをあげてゴブリン二体の死体が出来上がる。


「おぉっ、エンドリィ! すごいなっ!!」

「レディーしているあいだはずっとシュウチュウしていないといけないのに……サスガです!」

「……そういうおみゃーはなにもしなかったな?」

「は? エンドリィがイッパツでたおせるなら、ボクはマリョクをオンゾンすべきです。やっぱりバカですね?」

「もー、こういうときまで喧嘩はやめ……」


 声が、出ない。

 二人に伝えないといけない事があるのに声が出ない。


「……? どうした? エンドリィ?」


 オレは返事の代わりに前方を指さす。


「……わ」

「「「わあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」


 三人で叫び声を上げてオレたちは一目散に駆け出した!!

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