第8話 筆記試験
「新入生の皆さん、頑張ってください」
彼の挨拶は先ほどのランブルロックの挨拶に比べて……いや、比べずとも短いものだった。
此方からすれば、『そりゃあ頑張りますけど?』って感じだ。
まあ、長話が聞きたいわけじゃないのでいいんだが。
「それでは……え? 駄目? 面倒臭いなぁ」
教員による修正が入ったのか、ゼションがため息を吐く。
「……えー、僕は学生時代、友人が一人もいませんでした。僕は天才だったので何とかなりましたが、多くの皆さんは『助け合い』が必要になると思います。頑張って友達でも作ってください。以上」
……相変わらず冷酷なヤツだ。
だが、会場からは黄色い歓声が上がる。
新入生はもちろん、参観した保護者、式に参加した在校生からも。
本物の天才、それもイケメンの彼が言うからこそ、侮蔑の言葉すらも賞賛の対象となる。
羨ましい事だ。
……まあ、教員はため息を吐いているのだが。
「もういいですよね? それでは……レディー『
教員の返事も待たずに彼は姿を消した。
湧き上がる会場。フロア熱狂ってやつだ。
「……えー、それでは、保護者の方と在校生、教員から退席させていただきます」
こういうときは主役であるオレ達から退場するんじゃないのか、なんて思うが、この世界ではこれが普通らしい。
異を唱える気はないし、唱えたところでどうしようもない。
まだ黄色い声が止まない中、保護者に在校生、教員が退場していく。
「それでは貴様ら、小職に着いてくるがいい」
ただ一人残った教員の言葉にオレ達は起立する……って、起きろケアフ!! あの短い挨拶で寝るなんて凄すぎだろッ!!
「んにゃ!」
軽く小突くと、ケアフが周りを見て立ち上がる。
幸い教員からは見えていなかったのか見逃されたのか、彼は講堂を出ていき、生徒達はソレに着いていく。
オレも後を追って……。
「エンドリィ」
出入り口に差し掛かったところで、背後から声を掛けられる。
「ひゃいっ!?」
ビックリした、オレってこんな驚き方するんだったな。幼女でよかったよ本当に。成人男性だったら目も当てられない。
……で、振り向いた先には瞬間移動したはずのゼションが立っていて。
「僕と君が親戚だということは誰にも知らせていない。僕のおこぼれで手に入るものなど、高が知れているからね」
「はい、わかっています」
「だけど、何かあったら僕に助けを求めるんだ。王都で遊ぶための資金援助も、ほんの僅かだがしてあげるよ」
言いながらゼションが人差し指を立てる。
「え……いいんですか?」
「……まあ、これでも親戚だからね。僕もそこまで冷酷じゃないってことだ」
「あっはは……ありがとうございます」
上体をややこちらに傾けるゼションに頭を下げる……冷酷って思ってたの、バレてないよな?
──冷酷でイケメンな天才が自分にだけは優しくしてくれる。いやぁ、悪い気はしないねぇ。
「新入生の列から離れてしまったね。一年生の教室はすぐそこだけど……せっかくだから送っていってあげよう」
「え、いいんですか!? ……わひゃ!?」
了承が返ってくるわけでもなく、オレはイケメンに抱き寄せられる。
これ、オレが男性好きだったら叫び喜ぶ展開だよな? 今のオレは幼女だが……まだ『ピンとこない』。
「レディー、『
瞬間、景色が切り替わる。
これが、瞬間移動か。凄い魔法だ。
「さあ、行っておいで。あと、さっきの『僕が助ける』って言葉、忘れないようにね」
再び人差し指を立ててクルクルと宙に回すゼション。
オレは頷いて教室へと入っていく……恩着せがましいヤツ、と思ったのは秘密だ。
「──揃ったか……いや」
オレは席に着くが……ケアフがいない。
「『ケアフ・E・アール』の姿が見えないが? 『エンドリィ・F・リガール』」
「うっ! えっとですねー……」
そうだ。オレはケアフの後ろを歩いていたことになっている。わからないわけがないんだ。
何やってんだケアフは!!
「ごめんなさーいっ!」
オレがテキトーにフォローしようかと思っていたら、当のケアフが教室の扉を開けた。
「『ケアフ・E・アール』……何をしていた?」
「おしっこにいきたくなって……」
「トイレ休憩はこれから取る……まあ、校長の話が長かったという理由で今回は納得しておいてやる。次はないぞ」
「はーいっ、ごめんなさーいっ!」
ケアフは明るく返事をしながら、最後列のオレの隣の席に座る。
ターバンを巻いた教員はため息を吐きながらも、生徒全体へと視線を戻す。
「……これから六年間、貴様らの担任を務める『ナウンス・A・ドバンス』だ。よろしく頼む」
ナウンス・A・ドバンス!
特殊能力は『自分の声を広範囲に届かせる』というややハズレのものながら、火属性と土属性魔法を極める事でAランクとして認められたあのナウンスか!
彼の魔法講義本、少し小難しいが、要点が的確に書かれていてわかりやすいんだ!
『魔法を使う』ということはたしかにオレにとって未知の領域だが『魔法』についての知識は彼からかなり学んだぞ!
「それでは、休憩を挟んだ後に筆記試験を行う。各自、トイレに行ってくるがいい」
……筆記試験? いきなり?
なんて、寮に入っていなければドキリとしていたところだが、在寮生の方々からコッソリ聞かされていたから身構える事ができている……特に対策はしていないけれど。
「にゃ!? ひっきしけん!? きいてないぞっ!?」
「いや、きのうリョウセイのヒトたちに教えてもらったでしょう……」
「あはは……」
ケアフの前の席に座っているカインが呆れた声を出す。オレもつい笑ってしまった。
「まあ、そうなってしまったものはしかたないっ! えんどりぃ! 『つれしょん』するぞっ!」
「ええっ!? ケアフちゃんはさっきトイレ行ったばかりでしょ!? それに、そんな大きな声で言わないでよっ!!」
「…………」
更に呆れた顔をしているカインに見送られながら、オレ達は女子トイレへと向かった。
「──それでは、はじめっ!!」
戻ってきたら早速始まった筆記試験。
どれどれ?
Q1.魔王を倒した勇者の名は? フルネームで答えよ。ただし、ランクは魔王を倒した当時のランクとはせず、現在まで伝わっているものとする。
簡単だ。答えは『エイバー・SS・ウーパー』。
フルネームであっても、この世界の人間であれば答える事ができるだろう。
Q2.垂れた大きな耳が特徴の、別名、『小鬼属』の魔物の正式名称は?
簡単だ。答えはゴブリン。
Q3.『大炎属性拡散魔法』の読み方を答えよ。
簡単だ。答えは『スプレドファイアヘクティア』。
『大』がヘクティアで、『炎属性魔法』がファイア、『拡散』がスプレド……オレには漢字にしか見えていないが、他のみんなにはどう見えているんだ? ルーン文字とか??
──その後も問題を解いていく。
問題数は計50問で、急いで解かねば間に合わないレベルだった。本を死ぬほど読みまくったオレでもこれなのだから、現役幼児達にはさぞしんどいだろう。
しかもこの問題、ナウンスの著書を読んでないと解答困難な問題まで混じってやがる!
「……みゃーはもうおわりだ」
案の定、ケアフはゲッソリとした顔をしている。
……大丈夫だろうか?
「それでは、昼食後に結果を発表する」
……昼食後? えらく早いんだな。
何か関係する特殊能力持ちがいるのだろうか?
「──三位、『カイン・D・ウール』……74点」
「サンイ……でも、かけたところはゼンブあってました!」
順位と点数を読み上げられながら、テストが返却される……なんだか懐かしい感覚だ。
ちなみに、ケアフは堂々の最下位、4点だった。ぶっちぎりの凄いヤツだよこの子……悪い意味で。
「二位、『ユーティフル・B・クトレス』……78点」
「ワタシが、二位……?」
クトレス……この国唯一の銀行を経営するクトレス財閥の一人娘だろう。
親のランクは『S』だが、幼児のランク制限で『A』ではなく『B』になっている。
幼女でありながら、恐ろしいほどの美貌だ。
「そして一位、『エンドリィ・F・リガール』……100点だ」
「100点……よかったぁ」
「よかった、ではない。貴様、本当に一年生か?」
「…………へ?」
ケアレスミスをしていなくてホッとしていたが……。
睨みを効かせたナウンスの言葉にギクリとする……バレてないよな?
「捨て問として出題した小職の著書に関する十問まで全問正解だ。これは驚愕という言葉でしか言い表せないぞ。100点どころか120点を与えたいくらいだ」
「あ、ありがとうございまーす! 実は先生の著者の大ファンでして……」
今のオレ、ちゃんと笑えているだろうか?
顔、引き攣ってないよな?
「神童の噂に狂いはないようだな……いいか貴様ら、よく聞いておけ。今の貴様らのランクは『親から与えられたもの』に過ぎん。貴様ら自身の真価は七年生に上がる際に問われることになる。ゆめゆめ忘れるなよ?」
「くっ……このワタシが、『Fランク』に負けた?」
あまりにもテンプレ的な台詞が聞こえてきたので、思わず笑ってしまいそうになるが、努めて真顔を意識する。
オレ、この学校でもなんだかんだで楽勝でやっていけるんじゃないか?
将来安泰だなっ! わーはっはっは!
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