商人が来た
「新人のそなたには早速、エベリア王国宮廷料理人たる妾の最高級の手料理を振る舞ってやるのじゃ!」
ヘレンは腕を回して意気込んだ。
「そんな凄そうな料理をボクに?!楽しみだねっ!」
魔王は無邪気に喜ぶ。
あ、これヤバいやつかも……
僕は慌ててコッソリ魔王に【幸運値バフ】をかけた。
そして数分後、あの禍々しい料理が運び込まれる。しかし相変わらず料理のスピードだけは超一流だ。
「な、なにこれ……」
や、ヤバいよ……
あの料理、見た目が酷すぎるんだよ。もし魔王が「こんなの食べない!」とか言ってあの料理を皿ごと投げたりしたら……
「チョー美味そうっ!!!」
魔王は目を輝かせている。
……?
魔王が料理を笑顔で口に運ぶ。その瞬間……
ドガーン!!!!!、とものすごい音が響く。
そして上を見てみると、鉱山の天井に大きい穴が空いていた。
これは……
僕含め、全員の視線が魔王に集中する。
かたや魔王はなぜかきょとんとしていた。
「ボクなんか悪い事したかな……美味しすぎて魔法発動しちゃった」
いや、それが悪い事だよ!
というかなんで指輪を預かってるのに魔法使えたんだよ……
あ、【幸運値バフ】のせいか……気をつけよう。
「でもボク悪くないってば!間違えちゃっただけだもん!」
「いいえ、それはワガママです!アティラ様にご迷惑をおかけした以上、責任を取るべきです」
ミレーラが厳しく言う。
「……そうだね。でもどうやって責任をとるの?」
「それは当然……アティラ様に尽くすことですよね?」
ヘレンが笑顔でうなずく。
ちょっ、それは違うって!
僕はそう言いかけたが、遅かった。
「うん!ボク絶対アティラ様に尽くすよ!」
魔王は元気にそう言った。
♢
あれから数日後、この辺境ルリネシアに商人がやってきた。
ちなみに、あの鉱山の穴はスキルで簡単に修復できた。
どうやらこの商人はサラによると、定期的にこの村に来るエンハンス・グリーンというエベリアの小さい商会の商人らしい。
資金繰りに困っているがために、わざわざ国境近くのこの村まで足を運んでくれるのだとか。
「僕はアティラ・ルーナです。今日はわざわざこんなところまでありがとうございます!」
「坊や、わざわざこんなおっちゃんを出迎えてくれて嬉しいですね!今日はいっぱい食料を……ん?これは?!……」
エンハンスは目の前の鉱山を見て驚く。
「これは鉱山です。僕がつくりました」
「鉱山をつくった?!!!す、凄いですなぁ坊やは。ところでサラ様はこの中におられるのですか?」
「はい!そうです!では、案内します」
僕はエンハンスを鉱山の食堂まで案内した。
「あ、エンハンス!久しぶりだね」
「サラ様もお元気そうで何よりです。しかし、なかなか造りの良い鉱山ですな。まるで秘密基地ですね」
「そうね」
すると、奥から魔王がやって来た。
「だーれこの人?」
「あ、ワタクシはエンハンスと申します。しがないおっさん商人ですが、よろしくお願いします!」
「ボクは魔王カナンだよ!よろしくねー!」
「はい!ま、魔王様ですか!……」
エンハンスは驚きのあまり飛び上がった。
魔王改めカナンは「うん!」と無邪気に返事をした。
「し、しかしサラ様が魔王様まで従えるとは……」
「いや、カナンを従えているのはアティラだよ。なんなら私も従ってるかもね」
「な、なんと!!!」
エンハンスは僕の事を、尊敬と畏怖のまなざしで見てきた。
僕はカナンもサラも従えたつもりはないのに……
従えるなんて偉そうな事、ただの元ブラック社畜にはできませんよ……
「ま、まあ見て欲しいものがあるので、こちらに来てください!」
「あ、承知しました!」
無理やり話題を逸らした。
「まずはこれを見て欲しいのですが……」
僕はポーション用の瓶に詰めた”薬草スープ・改”を差し出す。
「これはポーションでしょうか?」
「そうです。300本あります」
「では、ポーション300本で銀貨600枚でどうでしょうか?」
「良いですよ。あとこれも……」
”発光ガラス製のグラス”を差し出した。
「こ、これは……このようなもの、初めて見ました!光る石……革命的ですね!!!」
エンハンスが、そう驚く。
「そんな大層なものではないですよ!で、これが100個です」
「ひゃっ百個?!!!金貨3000枚はくだりませんが……」
す、すごい額だな……
まさかそこまでとは。
「その額は流石に高すぎるな。資金繰りに困ってるらしいし、金貨1000枚で良いよ」
「え?!ほ、本当に良いんですか?!一応言っとくと、ワタクシでなければ金貨1万枚で買い取る人も出てくるような代物ですよ?!」
「自分に損になる事まで僕に教えてくれるなんて、とっても優しいんだね!でも、金貨1000枚で良いよ!」
「あ、ありがとうございますっ!!!このご恩、忘れません!」
エンハンスは僕に向かって土下座した。
その後、僕はエンハンスを見送った。
エンハンスはずっと泣きながら僕に感謝を述べていたが、こんな辺境まで来てくれる時点で、こっちの方が感謝を述べたいね。
さて、明日は何をしようかな?
何かしら前世知識を活かしたものでも作れたら良いな。
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