イザークside④ イザーク、狂う

 ここは、バナルド王国の王都バナシティのギルドだ。


 そしてイザークことオレと、ハーベイは新しい”黄金の虎”のメンバーを採用しようとしていた。


 今、オレの信者の中から5人にまで絞っている。パーティは4人までなので、ここからさらに2人に絞らないとな。


 しかし、信者はチョロいな!


 オレの真の力も知らずに、オレが”黄金の虎”のメンバーを採用すると言ったらアリのように群がるんだからな。


 おかげで5人に絞るのに苦労したわ!


 オレがそんな事を思っていると、黒いフードを被った謎の少女から声をかけられた。


 こんな奴いたっけ?でも可愛いなぁ!


「イザークさん!ボクと戦ってみない?」


 戦う?まあでもこんな、か弱そうな少女に負けたら恥だな。


 この子をオレのモノにしたいし、やってやろう!


「おう!やってやろうじゃねーか!」


「わーい!じゃあ決まりだね!」



 ――――――そして数時間後、オレと謎の少女はギルド併設の闘技場で対峙していた。


 観客席にはハーベイやオレの信者がずらりと並び、さらには”勇者対謎の少女”という名試合を見るために、バナシティの市民までもがこぞって闘技場に押し寄せ、ほぼ満席という状態になっている。


「いや、なかなか集まったなぁ。それじゃ、勇者としての力を見せようじゃねぇか!」


「楽しみだよー」


 オレは剣を抜く。


「イザーク様はご立派だなぁ!」「僕もイザーク様みたいになりたい!」「イザーク様に喧嘩売るとか、あの女の子、終わったな!」そんな声が周りから聞こえてくる。


 少女はオレが剣を抜いても、余裕そうな表情だ。


 なんかイライラするな。


 そう思いながらも、オレは少女に全力で斬りかかった。


 しかし……


「やっぱ大した事ないね!”ファイアボール”……」


 小さい火球がオレに直撃した。


 その火球は爆発し、オレを弾き飛ばした。


「グファァァァァ!」


「な、イザーク様がただの初級魔法で?!」「あれ、イザーク様、もしかして弱い?!」「は、イザーク雑魚じゃん、帰ろ」そういった落胆の声が、周りから聞こえてくる。


「く……クソがっ!」


 痛くて立ち上がれねー!戦うんじゃなかった……市民や信者にもこの姿を見られた!終わりだ!


「あれー?もう戦えないの?ボク、つまんないよ……」


「クソがぁぁぁぁ!!!」


 オレがそう叫ぶと、オレに向かって信者たちがゴミを投げつけてきた。


「裏切りイザーク!」「勇者だと騙しやがって、許さん!」「お前のパーティにはもう入らん!」


 そんな罵詈雑言と共に、ゴミが大量に投げつけられる。


 オレの精神はもう限界だ。


「グアアアアアアアアッ!!!」


「あーあ、泣いちゃったよ。まあ、『今までイザークさんは弱いのに勇者を名乗り続けてました』って国王に言っとくね……」


「グガアアアアアアアッ!!!」


 視界が真っ暗だ。もう終わりだ。


「イザーク!俺も真実がわかった。この”黄金の虎”からは離脱させてもらうわ!ハハハ!」


 観客席からハーベイが大きい声で笑いながら、オレに向かって言う。


「好きにしろやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 オレの叫び声だけが虚しく、闘技場に響いた。



 ♢



 あれから数日たち、オレは国王に呼ばれた。


 国王に呼ばれる事によって何が起きるかは分かっているが、それでもなお震えが止まらない。


 そしてオレは震えながらも、国王のいる部屋に入った。


「イザークよ、良くぞ来てくれた!しかし、かなりの仲間に裏切られているようで、イザークも大変じゃな!」


 国王はそう言って、兵士に何かを指示していた。


 すると兵士はロープで縛られた、オレと戦った謎の少女を連行してきた。


「この者は、イザークを裏切る旨の発言をしたので捕らえてやったのじゃ!他にもおるから、こちらへ来るが良い」


 そう言われ、オレは城の裏に案内された。


 するとそこには、オレの試合を見に来ていた冒険者や市民たちがロープで縛り付けられて並ばされていた。


 そして、その横にはギロチンがある。


「この者たちは皆、イザークを裏切るような不適切発言をしたものどもだ!当然、投獄される。しかし、この少女は違う。この少女は見せしめに処刑しようと思う!」


 おお!ざまぁ!


 オレをあんだけ惨めな思いにさせおって!スカッとするわ!


「さあ、やれ!」


 少女はギロチンに乗せられた。


 しかし、無表情だ。


 刃が少女の首に降りた。



 ♢



 あの後、オレは国王からの依頼で、森の木の実をとってきて欲しいと頼まれた。


 木の実をとるぐらいなら危険はないだろうな。


 しかし、あの女がやられて清々したぜ!


 すると、後ろの草むらがザワザワと動いたような気がした。


「何だ?」


 振り返ってみると、そこにはボアがいた。


 ボアはEランクだが、オレは倒せねぇ……


 終わった……


「うがああああああああああああ!!!オレを殺すなぁぁぁぁぁ!嫌だ!嫌だ!嫌だよう!!!がぁぁぁぁぁぁぁ!」


「イザークさん、うるさいよ?」


 オレの後ろからそんな声が聞こえる。


「だっ誰だ!」


 グリズリーに背を向け、振り返るとそこには処刑されたはずの、謎の少女がいた……いや……


「お、おま、お前は魔王?!何で生きているんだあああああああ!!!」


「隠蔽魔法大成功!全く気づかなかったね!……ところでー、何かボクにして欲しい事、あるでしょ?」


 魔王は後ろにいるグリズリーを指さす。グリズリーはよだれを垂らし、今にもオレに襲いかかりそうだ。


「あ……お、お願いします!魔王様!どうか討伐を!」


 屈辱だが、お願いするしか手が無い!


「そうだねー、じゃあボクをアティラの居場所にまで連れてってくれない?そしたら良いよ!」


 お、それぐらいなら余裕だ!


「もちろんですとも!アティラの居場所まで魔王様をお連れいたします!」


 オレがそう言った瞬間、グリズリーの首が飛び、魔王が無邪気に微笑んだ。


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