サラside ダメな国王

「これは酷い……3年前よりも酷くなった」


 私は王都クロードの道に溢れるホームレスたちを見てため息をつく。


「国王陛下は全く改善できていないようじゃな……」


 ヘレンも、私の父親に対して愚痴をこぼした。


 しばらく歩いたのち、王宮の前に到着した。


「3年ぶりの王宮だね。父上は変わらず元気かな」


「しかし、王女様の変装は完璧ですのう。ここまでの旅路で全く気づかれていない」


「いや、変装というほどでもないよ。少し身なりを冒険者風にしただけだ。この辺りの人たちはドレスを着ている私しか知らないから、分からないんだろうね」


「いやーしかし、3年前の王女様とは全く違う。見違えるほど変わったのじゃ」


 3年前の事を思い返す。


 あの時は驚いたな。私は幼い頃から剣術が得意ではあったが、まさか冒険者になれと言われるなんて。


 そこからドレスを脱いで真剣を持ち、王女でありながら身分を隠して懸命に冒険者をした。


 その後色々あって、聖騎士団長ヘレンと共に国境を守ることになった。


 冒険者になったばかりの時に実感したのが、このエベリア王国の戦闘人材の乏しさだった。


 聖騎士の関しては一定以上の強さを持つ人が多かったものの、数が少ない。かたや冒険者は数こそ多いものの、私より強い人が数人程度しかいなかった。


 おそらく父親が私に冒険者を勧めたのも、その理由からだろう。


 たとえ第三王女でも、強ければ冒険者させるほどまでに戦闘人材が困窮していたのだ。


 もちろん他の思惑もあるとは思うけどね。


「ヘレン、王宮に入るよ」


 私は門番に、王族の証であるネックレスを見せた。


「あ、貴方様は……ど、どうぞお入りくださいませ!」


「緊張しないでいいよ」


 門番に緊張をほぐすよう笑顔で促す。


「は、はい!」


 王宮に入ると、大臣やメイドたちが笑顔で迎えてくれた。


「父上に会いたいんだけど、今は大丈夫?」


 そう大臣の一人に尋ねると、国王の執務室へと案内してくれた。


「陛下、サラ様が3年ぶりにお帰りであります!」


「おお、帰ったか!サラよ!」


 父親が立ち上がり、急に私を抱きしめてきた。


「父上!王都の様子を見たけど……もう少し国の事を考えてよ!」


「ああ、すまない。実はな、バナルドからこのような手紙が大量にくるのだ。このままじゃ国が潰れそうだー!どうしよう、サラよ!」


 父親が落ちつかない様子で頭を抱える。


 手紙を見てみると、『我が国には勇者がいる!覚悟しろ!』だったり『勇者イザークが貴国を間も無く滅ぼすだろう』などと、脅迫とも取れる内容が書かれていた。


「父上、もっと気を強く持ってよ!イザークみたいな野郎にこの国が負けたら屈辱だよ?」


「そ、そうだな。しかし、この国はワタシのせいで戦力がない!ワタシが平和促進のために聖騎士をクビにしまくって冒険者の待遇を下げたせいで、戦力が他国に流出したっきり、戻って来なくなって……ああ!今じゃとてもバナルドとは戦えない!どうしよう!」


「全く……父上はバカだよ。これから待遇を改善して呼び込むなりすれば良いのに……大体さ、王都にホームレスが溢れるって、どういう政治をすればあのザマになるワケ?」


 そう父親に説教する。この国は3年前とまるで変わっていない。


「ああ……ワタシは政治が出来ない……ダメだ……」


「ところで一つ大事な報告があるから来たんだけど、良い?」


「ああ、良いぞ」


「実は私、”孤高の勇者”アティラを拾ったんだけど……」


「な、何ぃ?!!!」


 父親が飛び上がる。周りの大臣たちも驚いている。


「そ、それは本当か?!」


「うん、本当だけど。で、そのアティラが”ダブルスキル持ち”かもしれないの」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!」」」


 父親や周りの大臣が一斉に叫んだ。


 まあ、それも無理はない。なにしろスキルを2つ持っている人は無茶苦茶珍しい。少なくともこの国にはいないだろう。


「これを見て」


 私はアティラが掘ったサッカーボールサイズのダーククリスタルや、光魔晶石を机の上に置く。


 アティラから借りてきたものだ。


「こ、これは……」


「これはアティラが掘ったものだ」


「ここまでのものを掘るとは……一体何年かかったんだ?」


「それが一日……いや、一瞬だ」


「うん……ん?はい?も、もう一回良いか?」


「一瞬だよ」


「えぇぇぇぇぇぇぇ?!!!」


 驚きの声が城中に響き渡った。


「よ、よし、ワタシは今からそのアティラに会いに行く!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る