もう遅い!
僕は古い洋館のドアを、おそるおそるノックする。
「すみませーん、誰かいますかー?」
「ガウーッ!!!」
フェンリルもドアの前で吠えた。
しかし、返事が無い。留守かな。
「すみませー……」
そう言いかけると、ドアが開く。
そこから、白く長い髪をした7歳ぐらいのエルフの幼女が出てきた。
すると途端に、フェンリルの方へと抱きついた。
「あ、あら、ナーラ!!!心配したのですわ。どこへ行ってたの?」
「キャン!キャン!キャン!!!ガウー」
どうやらこのフェンリルの名前はナーラと言うらしい。よく分からんけど、大切な人と再会できたようで良かったな。
すると、幼女はナーラを抱いたまま僕の方へと目を向ける。
「あなたが……ゴホッ、ゴホッ……ウッ……」
幼女が急にせき込み、ナーラを離して僕の体にもたれかかる。
「だ、大丈夫ですか?」
すると、幼女の腕に禍々しい紋章があることに気づいた。
「こ、これは……呪い?」
スマホを出して、禍々しい紋章にかざしてみる。
【強固な術式の呪い】
残り少ない時間で呪いの対象者は息絶える
術者:不明
「やっぱり呪いだ!呪いの治療を急がないと!」
でも、どうやって治すんだ……
落ち着け。元々スープを誰に飲ませるかを悩んでいた時に、ナーラがここへ連れて行ってくれたんだ。
つまり、この子に薬草スープ・改を飲ませろという事だと思う。
僕は幼女を抱きかかえる。
「ナーラ、走れる?」
「キャンッ!!!」
頼もしい返事だ。よし、屋敷まで走ろう。
♢
「はぁ……つ、疲れたぁ……」
なんとか幼女を抱えたまま屋敷まで走り切ることが出来た。
「急がないと」
屋敷に入り、薬草スープ・改を器につぐ。
「これ、飲めますか?」
「は、はい……」
幼女が弱々しくスープを一口すする。
「こ、これは……美味しいですわ!」
幼女の顔がパアッと明るくなる。
すると、急に幼女がクラっとなる。
「だ、大丈夫ですか?!」
「いや、あまりの美味しさに感動しましたの!」
「それは良かったです!」
薬草スープ・改、成功だな。
……ん?さっきまであった禍々しい紋章が消えている!
そのことに幼女も気付いたのか、紋章の無くなった腕を見て目を見開いている。
「の、呪いが……治った……すみません、あなたは何者ですの?!」
「いや、僕はただの無職のアティラです……」
「そうですの……でも、無職だからと言って肩を落とさないでくださいませ。我がエルフィ大公国でしたら、伯爵にでも引き立てて差し上げますわ!」
「ん?エルフィ大公国?もう60年も前にバナルド王国に滅ぼされているはず……」
そう言うと、幼女は一気に暗い表情になった。
「そ、そうですわよね……暗殺未遂にあって隠れ家に逃げて来て60年、誰も私の事を迎えに来てくれなかった……滅ぼされてて当然ですわよね……」
「暗殺未遂で呪いをかけられたのですか?」
「そうですわ。普通に歩いていたら突然捕まって……なんとか逃れましたが、その時に呪いを……」
「そうですか……」
幼く見えて、壮絶な過去があったんだな。
すると、幼女が僕の手をぎゅっと握って上目遣いで僕を見た。
「私の名前はノア・カーラ・エルフィ、エルフィ大公国の王女ですわ。こんな見た目ですが、齢80になりますの。どうか、私をここに居させてください!」
80歳!!!
「あのー、僕は良いんですが、この屋敷はサラという人のものですので、その人に許可を取らないと……」
すると突然、ドーンとドアを蹴るような音が聞こえた。
「な、何この音?!」
するとイザークが部屋に入ってきた。
「おい!オレはイザークだ!アティラ!お前をもらいに来てやったぞ!」
イザークが、なぜ今ここに?
過去のトラウマが蘇ってくる。
「な、何で来たのですが?帰ってください!」
今の僕はスローライフがしたい。もう冒険者はしたく無い。
「あん?何だその態度は!アティラ、オレはお前をわざわざ引き取りに来てやったんだぞ?」
ノアが僕の横で泣きそうな顔になっている。
「迷惑なので、とにかく帰ってください!僕をパーティに戻そうとしても、もう遅いです!」
すると、ナーラが急に吠え出した。
「ガルルルルルル!!!」
「あ?犬ころ如きが、舐めんなよ!」
「ガー!!!!!」
ナーラがイザークに襲いかかる。
頑張れナーラ!
僕はナーラに”幸運値バフ”をかける。
「痛い!お、おい、助けてくれぇ!アティラ!お前とオレは友達だろ!」
「友達?何言っているんです?僕を追放したのはイザークさんですよね?」
「いや、友達なんだぁぁぁぁぁ!!!見捨てるな!!!」
「僕を追放してるのに……」
イザークは、ナーラに攻撃されまくって血まみれになっていた。
「オレは勇者だぞ!!!命令に従え!攻撃をやめさせろ!」
「勇者?ならナーラにも勝てますよね?」
「あああああああ!!!!!」
イザークは絶叫した。
「ナーラ、そろそろやめて」
「キャン!」
ナーラが攻撃をやめた。
イザークは子供のように泣きしゃぐり、股間が汚く湿っていた。
「帰るぅぅぅぅぅ!!!」
イザークが屋敷を飛び出した。
「変な奴が邪魔しに来ましたね……でももう大丈夫ですよ」
「怖かったですわ……」
「今ここを出るのは危ないので、しばらくここに居てもいいですよ」
「あ、ありがとうございますわ!」
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