もう遅い!

僕は古い洋館のドアを、おそるおそるノックする。


「すみませーん、誰かいますかー?」


「ガウーッ!!!」


フェンリルもドアの前で吠えた。


しかし、返事が無い。留守かな。


「すみませー……」


そう言いかけると、ドアが開く。


そこから、白く長い髪をした7歳ぐらいのエルフの幼女が出てきた。


すると途端に、フェンリルの方へと抱きついた。


「あ、あら、ナーラ!!!心配したのですわ。どこへ行ってたの?」


「キャン!キャン!キャン!!!ガウー」


どうやらこのフェンリルの名前はナーラと言うらしい。よく分からんけど、大切な人と再会できたようで良かったな。


すると、幼女はナーラを抱いたまま僕の方へと目を向ける。


「あなたが……ゴホッ、ゴホッ……ウッ……」


幼女が急にせき込み、ナーラを離して僕の体にもたれかかる。


「だ、大丈夫ですか?」


すると、幼女の腕に禍々しい紋章があることに気づいた。


「こ、これは……呪い?」


スマホを出して、禍々しい紋章にかざしてみる。



【強固な術式の呪い】


残り少ない時間で呪いの対象者は息絶える


術者:不明



「やっぱり呪いだ!呪いの治療を急がないと!」


でも、どうやって治すんだ……


落ち着け。元々スープを誰に飲ませるかを悩んでいた時に、ナーラがここへ連れて行ってくれたんだ。


つまり、この子に薬草スープ・改を飲ませろという事だと思う。


僕は幼女を抱きかかえる。


「ナーラ、走れる?」


「キャンッ!!!」


頼もしい返事だ。よし、屋敷まで走ろう。





「はぁ……つ、疲れたぁ……」


なんとか幼女を抱えたまま屋敷まで走り切ることが出来た。


「急がないと」


屋敷に入り、薬草スープ・改を器につぐ。


「これ、飲めますか?」


「は、はい……」


幼女が弱々しくスープを一口すする。


「こ、これは……美味しいですわ!」


幼女の顔がパアッと明るくなる。


すると、急に幼女がクラっとなる。


「だ、大丈夫ですか?!」


「いや、あまりの美味しさに感動しましたの!」


「それは良かったです!」


薬草スープ・改、成功だな。


……ん?さっきまであった禍々しい紋章が消えている!


そのことに幼女も気付いたのか、紋章の無くなった腕を見て目を見開いている。


「の、呪いが……治った……すみません、あなたは何者ですの?!」


「いや、僕はただの無職のアティラです……」


「そうですの……でも、無職だからと言って肩を落とさないでくださいませ。我がエルフィ大公国でしたら、伯爵にでも引き立てて差し上げますわ!」


「ん?エルフィ大公国?もう60年も前にバナルド王国に滅ぼされているはず……」


そう言うと、幼女は一気に暗い表情になった。


「そ、そうですわよね……暗殺未遂にあって隠れ家に逃げて来て60年、誰も私の事を迎えに来てくれなかった……滅ぼされてて当然ですわよね……」


「暗殺未遂で呪いをかけられたのですか?」


「そうですわ。普通に歩いていたら突然捕まって……なんとか逃れましたが、その時に呪いを……」


「そうですか……」


幼く見えて、壮絶な過去があったんだな。


すると、幼女が僕の手をぎゅっと握って上目遣いで僕を見た。


「私の名前はノア・カーラ・エルフィ、エルフィ大公国の王女ですわ。こんな見た目ですが、齢80になりますの。どうか、私をここに居させてください!」


80歳!!!


「あのー、僕は良いんですが、この屋敷はサラという人のものですので、その人に許可を取らないと……」


すると突然、ドーンとドアを蹴るような音が聞こえた。


「な、何この音?!」


するとイザークが部屋に入ってきた。


「おい!オレはイザークだ!アティラ!お前をもらいに来てやったぞ!」


イザークが、なぜ今ここに?


過去のトラウマが蘇ってくる。


「な、何で来たのですが?帰ってください!」


今の僕はスローライフがしたい。もう冒険者はしたく無い。


「あん?何だその態度は!アティラ、オレはお前をわざわざ引き取りに来てやったんだぞ?」


ノアが僕の横で泣きそうな顔になっている。


「迷惑なので、とにかく帰ってください!僕をパーティに戻そうとしても、もう遅いです!」


すると、ナーラが急に吠え出した。


「ガルルルルルル!!!」


「あ?犬ころ如きが、舐めんなよ!」


「ガー!!!!!」


ナーラがイザークに襲いかかる。


頑張れナーラ!


僕はナーラに”幸運値バフ”をかける。


「痛い!お、おい、助けてくれぇ!アティラ!お前とオレは友達だろ!」


「友達?何言っているんです?僕を追放したのはイザークさんですよね?」


「いや、友達なんだぁぁぁぁぁ!!!見捨てるな!!!」


「僕を追放してるのに……」


イザークは、ナーラに攻撃されまくって血まみれになっていた。


「オレは勇者だぞ!!!命令に従え!攻撃をやめさせろ!」


「勇者?ならナーラにも勝てますよね?」


「あああああああ!!!!!」


イザークは絶叫した。


「ナーラ、そろそろやめて」


「キャン!」


ナーラが攻撃をやめた。


イザークは子供のように泣きしゃぐり、股間が汚く湿っていた。


「帰るぅぅぅぅぅ!!!」


イザークが屋敷を飛び出した。


「変な奴が邪魔しに来ましたね……でももう大丈夫ですよ」


「怖かったですわ……」


「今ここを出るのは危ないので、しばらくここに居てもいいですよ」


「あ、ありがとうございますわ!」


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