聖魔石を村人に渡したら……

 翌朝、アティラが目覚めて1階に降りると、サラが大きいカバンに荷物を詰めていた。


「あ、アティラ、おはよう。ヘレンが朝ご飯作ってるから、食べてきてほしい」


 朝ごはんか。そういえば、ヘレンのつくるご飯はまだ食べた事が無い。


「分かった。ところで、どこか行くの?」


「ああ。エベリア王国の王都クロードに行ってくるんだ。ちょっとアティラの事で用事があってね」


 僕の事で用事?何だろう……


「国王にも会うの?」


「もちろん。父親にはもう3年ぐらい会ってないからね」


「さ、3年も!」


「そう。隣国のバナルド王国との対立が激化したせいで、帰れなくなっちゃった」


「なんか、ごめん……」


「いや、アティラのせいじゃない。バナルドの国王のせいだから。さあ、私も準備で忙しいし、ヘレンの朝ごはんを食べに行って」


「分かった」


 そしてヘレンの朝ごはんを食べに、食堂へと行ったのだが……


「な、なにこれ……」


 朝ごはんとして出された料理が、とても料理とは言えないものだった。なぜか知らないがこのスープ、禍々しい色をしている……


「妾のつくったスープに何かあったのか?」


「いやこれ、なにを料理したらこんな見た目になるんですか?!」


「いろんなものを混ぜ込んでるだけじゃ。王女様は美味しいと言って食べてくれるぞ」


「本当かなぁ……?」


 毒にしか見えないな。おそるおそる口に運んでみるが……


 予想通り、不味かった。というか、無茶苦茶苦い。これを美味いと言うって、サラは舌が腐っているのだろうか?


 でも、不思議と体の底から力が湧いてくる。


「美味いじゃろう?妾の特製薬草スープじゃ。薬草をたくさん入れて煮込んでおるのじゃ」


「確かに元気は出ましたけど、毎日これは……」


「すまぬ。アティラの口には合わなかったか」


「いや、大丈夫です。でも今度からは僕に料理をさせてもらえませんか?」


 一応、前世ではよく自炊していたので、ある程度の料理はできる。


「良いぞ。アティラの料理が楽しみじゃ。しかし、これから王都まで王女様について行かねばならぬ。それから帰ってきたらじゃ」


「確かにそうですね。どれぐらいで帰るんですか?」


「うむ、おそらく1週間はかかるじゃろうな」


「そうですか。まあ、頑張ってきてください!」


「もちろんじゃ!」



 ♢



 サラとヘレンが王都クロードに行った。


 僕はサラたちが言っている間、束の間のスローライフをしよう。


 という事で、屋敷を出て鉱山へと向かう。


 そして鉱山の中に入り、スマホの採掘アプリを開く。


 そしてそこからさらに、”鉱山管理”という項目を開く。


 すると、『現在の採掘ポイントは12です。2階層の解放にはあと18ポイント必要です』というウインドウが出てきた。


 採掘ポイントは、鉱石を掘ったときに貯まるポイントの事だろう。


 それを一定以上集めると2階層を解放できるという事か。スキルのくせに、まるでゲームだな。


 とりあえず、周辺サーチモードで光っていた箇所を掘ってみる。


 すると、神々しく輝く石がドッサリと出てきた。


「わぁ!すごくきれい……」


 スマホをかざして、鑑定してみる。



【聖魔石(品質S)】


 聖なる魔力宿った魔石。魔物を寄せ付けない。



 魔物を寄せ付けない、か。これを使えば村が安全になるかも。


 村が安全になれば、僕の住む屋敷も安全になる。


 村人たちへの挨拶も兼ねて、これを村人たちに配っても良いな。



――――――――と言う事で、鉱山を出て早速聖魔石を配りに行った。


 まず一人目の村人に話しかける。


「あのーすみません、僕……」


「ゆ、勇者様?!!お会いできて光栄です!」


「ハイ?……い、いや、人違いでは無いでしょうか?」


「そうですか?!勇者アティラ様ではないのでしょうか?」


 人違いでは無かった。勇者では無いけど……


「いや、アティラです。それで僕、こんなものを持ってきたので良ければ使ってほしくて……」


 聖魔石を村人に差し出した。


「こ、これは……これは聖魔石!!!金貨100枚でも買えぬものですぞ!!!このようなもの、頂けません!」


「い、いや、でもいっぱい掘れちゃったし村の安全のためにも、使ってくれないと困るのですが……」


「ほ、掘れたぁー?!!!」


 村人が絶叫する。


「はい、いっぱい掘れたので……」


 すると村人がひざまずき、僕をあがめるような目で見上げてきた。


 そんな目で見られても、困る……

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