アティラは国家機密にすべきだ

「アティラ、何それ……」


「いや、これはただの魔石だけど……」


 サッカーボールサイズの魔石を抱えている僕を見て、サラが驚く。まあ驚かれるのも仕方ない。


「それ、よく見せてくれない?」


「いいけど」


 サッカーボールサイズの魔石(ダーククリスタル)をサラに差し出す。サラは持ちにくそうにしながらも、なんとか抱えて持てたようだ。


「これ、重すぎ……わあっ!」


 サラが魔石を落としそうになったところを、僕が支える。


「ご、ごめん……これ、奥の部屋の机まで持って行ってくれない?」


「分かった」


 魔石を抱えて奥の部屋に行き、それを机の上に置く。


「ここで良い?」


「良いよ、ありがとう。ちょっと見させてもらうね」


「え、これを見て何か分かるの?サラってもしかして魔石に詳しかったりする?」


「ああ。私、一応冒険者でもあるんだ」


 すごいな。サラって王女なのに冒険者もしてたのか。


「ん?これ、なんかおかしい」


「何がおかしいの?」


「いや、これ、色が濃すぎる。すぐにでもエベリアの王都に報告すべきレベルだ」


「王都に報告?!いや、そんなわけ……」


「アティラ、これを掘った場所へ連れてってくれない?」


「良いけど……」


 一体なぜ王都に報告すべきなのか?それが心に引っ掛かる。


 僕がつくった鉱山は、屋敷の裏にある森の手前に位置している。


 そして僕はサラをそこまで案内した。


 鉱山を見たサラは驚きの表情を浮かべる。


「こ、これはいつの間に……」


「僕がつくったんだよ」


「は?!これをつくるって、どういう事?!」


 あ、この事ってサラに言っちゃいけなかったかなぁ……


「僕のスキルでつくったんだ」


「スキルって……いや、大丈夫だ。うん。かの”孤高の勇者”なだけあるな。いや、そうだとしても……何でもない。鉱山の中を案内してくれないかな?」


 サラは明らかに動揺していた。


 僕はサラを鉱山の中に案内する。


 あ、そうだ、サラに鉱石を掘ってもらってみても良いかもしれないな。


「サラ、ここを掘ってみて」


 僕はサラに万能ピッケルを渡した。

 サラに掘るように指示したところは、周辺サーチモードで光っていたところだ。なので、何らかの鉱石が出てくるはずだ。


「ほ、本当にいいの?」


「いいよ」


「分かった。なら、掘らせてもらう」


 サラは万能ピッケルで、僕が指示した箇所を掘った。


「よいしょ……疲れるね」


 どうやら僕以外の人が使っても、万能ピッケルの効果は発揮されないようだ。


 しばらくするとサラの膝元に、黄色く輝く、拳ぐらいの大きさの石がコロンと、掘った箇所から転がってきた。


「こ、これはまさか……光魔晶石じゃ?!」


「光魔晶石?」


「ああ、一欠片が金貨3枚で売れるという非常に貴重な魔石だ。しかもこの光魔晶石は大きいし、しかもどうやら最高品質っぽい。金貨50枚は下らないだろう」


「そんな凄い物なのかぁ……」


 知らなかった。


 ふと思いつき、僕は再度スマホの周辺サーチモードを見てみる。


 すると、本来なら鉱石を掘ったらその箇所は光が消えるはずなのに、この光魔晶石を掘った箇所は消えていない事に気づいた。


「サラ、もう一回ここを掘ってみて」


「ここを掘る?もう出てこないんじゃないかな?」


「いや、多分出る」


「なんでそんな事がわかるの?」


「勘だよ」


「そうか。確かにアティラは光魔晶石のありかを当ててるし、掘ってみよう」


 サラは万能ピッケルを持ち、再び同じ箇所を掘る。


 すると、ものすごい量の光魔晶石がドサっと転がってきた。


「うわー、凄い量だね」


「ちょっ、これは……夢なのか?でも現実だし、うん、どうしようか……」


 サラは頭を抱えていた。


「これ全部持てるかなぁ」


「私も持つ」


「ありがとう」


 そして、僕とサラで協力して大量の光魔晶石を持ち、屋敷に戻ってきた。


 屋敷に入ると、掃除をしていたメイドのヘレンが驚きのあまり腰を抜かした。


「なんじゃこりゃあー!!!」


「いや、これはアティラが……まあ後で説明する……アティラ、2階の部屋の一つを自分の部屋として使って良いよ」


「ありがとう!」


 僕は大量の光魔晶石を置き、2階の自分の部屋に入った。



 ♢



 深夜、サラとヘレンの2人はアティラが寝ている間に会合をしていた。


「王女様、一体あれは何だったのじゃ?」


「あれは……アティラが全部掘り出したものだ」


「はぁぁぁぁ?!!!どういう事じゃ!あれを全部アティラが掘り出したというのか?!」


 ヘレンは驚きのあまり、腰を抜かした。


「正確にはアティラに掘るところを言われて、私がその通りに掘ったら、あれが出てきた。そこでアティラになぜ分かるのかを聞いたが、勘としか答えなかった。でも……」


「勘というのはスキルの存在を隠すための文句で、本当はスキルを有しているという事じゃろうな。しかしそんなもの、どこから掘ってきたのじゃ?ここら辺で鉱石が出てくるところは無いと思うのじゃが」


「そう。でも、アティラは掘れる場所をスキルでつくったらしいんだ」


「はぁぁぁ?!!!つまり、アティラは鉱山をつくれるスキルをすでに持っているって事じゃろうか……だとすれば、スキルを2つ持っている可能性もあり得るのう……」


「ああ、だからアティラは国家機密にすべきだ。アティラの存在を他国に知られたら、どうなるか分からない」


「うむ。それは同意じゃな」


「そこで、アティラの事を王都にいる私の父親に報告したい。そこで明日には出ようと思うが、護衛としてついていってくれるか?」


「良いとも。この聖騎士団長ヘレンの腕が鳴るな」


「ありがとう。しかしアティラはどうしようか」


「留守番させれば良いじゃろう。”ダブルスキル持ち”で”孤高の勇者”とはいえども、他人にアティラが”ダブルスキル持ち”である事がバレたらまずいじゃろうよ」


「確かに。留守番させよう」


 そう言ってサラは自分の部屋に戻り、エベリア王国の王都クロードへの旅の準備をはじめた。

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