イザークたちside②「オレがオーク如きに苦戦する訳ないだろうがぁ!」

「グアアアア!」


 もう一度魔物に腹を殴られ、激痛が走る。


 クソッ、まさかミレーラがあんな奴だとは思わなかった。


 もうアテには出来ねぇ。


 しかし、勇者のオレにここまでの痛みを感じさせるとは、目の前の奴はどこまで強い魔物なんだ?


 姿から推測すると、オーク系の魔物である事は間違いない。


 オークロードか?いや、もっと強いだろう。伝説のオークである、オークレジェンドに違いない。


 オレは自分を奮い立たせる。


「おい!オークレジェンドよ、オレは世界最強と言われている。このオレを殴るとは随分と良い度胸だな。オレを殴った事、後悔させてやるぞ!」


 国王陛下から頂いた剣を抜き、オークレジェンドを斬りつけようと飛びかかる。


 しかし……


「グファァァァァ……!!!」


 思いっきり跳ね返された。相手はオークレジェンド、このオレでも処理に時間がかかるクラスなので仕方ない。


 もう一度だ。今度は絶対に斬れっ……グフッ……


 思いっきり殴られ、突き飛ばされた。


 オレはこの殴りを受け、この戦いが今までとは違うことを察した。


 いくらオークレジェンドと言えども、魔王よりは弱いはずだ。なのにオレは苦戦を強いられている。


 つまりこの魔物はオークレジェンドどころではなく、魔王以上のモンスターである事は間違い無いだろう。


 仲間はアテにならなさそうだし、これは戦ってはいけない相手かもしれない。


「お前ら、コイツは無理だ!すぐに逃げるぞ!」


 オレは後ろで控えている2人に向かって叫んだ。


 しかし2人とも反応が薄い。


「お前ら何をしてんだ!はやく逃げろって言ってるのが分からんのか?!!!」


 すると、ハーベイが話しはじめた。


「あのー、大変申し上げにくいのですが、その魔物はただのオークでは無いでしょうか……」


「ふざけるなぁー!!!オレがオークごときに苦戦する訳無いだろうがぁ!!!これは絶対、魔王以上の魔物だ!……は?……グワァッ!!!」


 また横から殴られた。次第に焦りと、仲間に対するイライラが溜まってくる。


 しかしハーベイめ、これをオークと見間違えるとはあり得ん。アイツの頭は狂っているのか?


 ともかく、この魔物はオレにもう一度殴りかかろうとしている。オレの残り体力だと、もって数発ぐらいだろう。


 焦りが強まる。


「とにかく逃げろや!!!というか、オレが先に逃げる!時間がないんじゃぁ!!!」


 オレは魔物に背を向け、逃げようとする。


 しかし迷っている途中で遭遇したので、逃げ道が分からない。


 焦りが絶望へと変わる。


 足がガタガタと震え、顔面が蒼白になる。


 そこでオレは閃く。


「お、おい、ミレーラ、精霊を呼べ!そうすれば助かるかもしれない!」


「精霊?どうしましょう」


「お、おい!はやく呼べやぁ!!!!!」


 絶叫する。


「イザークさん、貴方はどうやら言葉遣いがなってないですよ?」


 クソ、屈辱だ。しかし命がかかっている……仕方ない。


「頼みます!呼んでください、ミレーラ様ぁ!!!」


「もう一つ条件を付けましょう。アティラ様の”幸運値バフ”によって我々が強くなっていた事を認めてください」


「そんなはずないのに、認めれるかぁ!!!」


「そうですか。これを見ても考えが変わりませんか?」


 ミレーラは目の前の魔物に【魔物ランク鑑定魔法】を使った。この魔法をかけられた魔物は、その魔物のランクに応じた色に、一瞬だけ光る。


 そして、目の前の魔物は緑色に光った。緑はEランクを示す色。


 という事は、まさか……


「こ、コイツはただの下級オークという事か?!」


「そうです。これで分かったでしょう?」


 み、認めたくない……


 オレが実は弱かったなんて、認めたくなさすぎる。


 しかし、オレの命がかかっている。


 プライドより命だ。認めざる負えない……


「ミレーラ様の言われた事を認めるので、どうか精霊をお呼びください。お願いします……」


「良いでしょう。ま、そもそも精霊を呼ぶまでも無いんですけどね」


 ミレーラはオークに向かって、地属性下級魔法<ロックショット>を放つ。


 するとオークは、今までの苦戦が嘘だったかのようにあっけなく倒れた。


 その後ミレーラは冷静に【迷宮脱出魔法】をオレたちにも使用し、迷宮を脱することが出来た。


 迷宮を無事脱出できたオレに残っていたのは、屈辱、そして焦りだった。


 このまま勇者を名乗っていても、いずれ真の力がバレる可能性が高い。


 なので、なんとしてでもアティラを”黄金の虎”に再加入させたい。


 どうせあのアティラだ。


 お願いすれば簡単に戻って来るだろう。


 戻ってきたらアイツを騙して、使い倒そうではないか!

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