イザークたちside① 「何で今回は迷うんだよぉ!」

(イザーク視点)



「よし!今日はパーティだ、みんな!あのサボり常習犯で目障りなアティラを追い出せた事、そして魔王をオレたち3で討伐した事を共に祝おう!!!」


「そうですね!」

「……」


 オレことイザークの言葉に、魔法使いハーベイが応じた。


 しかしもう一人の方、精霊術師ミレーラは元気が無さそうな様子だ。


「ど、どうした、ミレーラ?何か元気が無さそうだが」


「いや、勇者様のいないパーティには居たく無いなぁ、と思っていただけです」


「そうだろう!オレこと勇者イザークのいないパーティには当然居たくないだろうな!でも、オレがこのパーティから離脱する事は無いから心配しなくて良いぞ!ガハハハハ!」


「そうですね!ところでイザーク様、アティラはどこに捨てて来たんですか?」


 ハーベイがオレに問いかけてきた。


「ああ、アイツは社会的にも不要だから、この世から消えて貰いたいという事で国境の森に捨ててきたぞ!」


「おお!それは素晴らしいですね!今頃、森の中でアティラは『助けてー!』って泣きながら魔物に食われているでしょうね!」


「そうだな!森の魔物に勝つ術をアティラは持ってないからな」


「そうですね!ところでイザーク様、明日は何を致しましょうか?」


「そうだなぁ……まあ明日はゆっくりとしたいから、すぐに攻略が終わりそうなダンジョンに行こう。”赤の洞窟”とかはどうだ?」


 赤の洞窟はオレたち”黄金の虎”がすでに攻略を終えたダンジョンなので、簡単に攻略できるだろう。


「素晴らしい判断!流石は勇者イザーク様ですね!」


「前回は邪魔者アティラがいたが、今回はいない。前回よりも楽に攻略できそうだな!ガハハハハ!」


 オレはハーベイと笑いあった。


 ミレーラは相変わらず元気が無さそうだ。


 勇者として頑張りすぎたオレが疲労を理由に、”黄金の虎”を離脱するのではないかと心配しているのだろう。


 流石は将来のオレの嫁の一人だ。


 ハーべイには渡さんぞ!


 ともかく明日の洞窟攻略は、邪魔者のアティラがいない。


 これまでで最も楽なダンジョン攻略になるだろう。



 ♢



「おーい!ハーベイ!お前、オレを舐めてんのかオラァ!」


「ヒィッ!いえ、イザーク様を舐める訳がございません!」


 オレたちは今、”赤の洞窟”を攻略していた。


 今回からは邪魔者のアティラがおらず、もっと攻略が楽になるはずだ。


 そもそもアティラがいた時でさえ1時間足らずで攻略出来ていたダンジョンなので、簡単に攻略できて当たり前だった。


 しかしオレたちはすでに、魔王を討伐した時よりもこのダンジョンの攻略に時間が掛かっており、オレは苛立ちが頂点に達していた。


「なんでこんなに道に迷っているんだ!まだ1階層だぞ!」


「いえ……正解の道が分からないのです。前回アティラがいた時は、一発で正解の道を当てれていたのに……」


「前回攻略した時に使った道を覚えてないのか!」


「申し訳ありません!しかし、数百もの分岐点があるこのダンジョンの道を全て覚えれる訳がありません」


「覚えてないにしても、前回は一発で当てていたじゃないか!何で今回は迷うんだよぉ!!!」


 オレはハーベイを殴り飛ばした。


 すると、なぜかミレーラに睨まれた。


「なぜオレを睨む!オレは勇者だぞ!」


「勇者?勇者はアティラ様でしょう。勘違いしないで欲しいです」


「はぁ?!!!勘違いしているのはお前の方だ!!!勇者はこのオレ!大国バナルド王国の国王陛下に期待されているんだぞ!」


「まあ、何言っても無駄でしょうが、アティラ様の”幸運値バフ”によって運良く、今まで迷っていなかったのですよ?」


「そんな訳無いわ!アティラごときが役に立つはずが無い!」


 今日はたまたま運が悪いだけ。いつもならこの程度、オレにしてみれば余裕だ。


「イザークさん、本日は撤退しませんか?」


 撤退……そんな事、絶対に許されない!


 オレは勇者、バナルドの国王陛下に期待された、特別な存在。そんなオレがもしこの程度のダンジョンで撤退すれば、国王から失望されるだろう。


「絶対に撤退はせん!この程度のダンジョン、強行突破でもいける!ハーベイ!最大出力で上位魔法を壁に向かってぶっ放せ!!!」


「は、はい!」


 ハーベイが地属性上位魔法<アースブレイク>を放った。迷うならば、壁を壊すことで強行突破しようと試みた。


 しかし最大出力と命令したにも関わらず、ハーベイからは小さい岩一つが放たれただけだった。


 当然、ダンジョンの壁をぶっ壊すことは出来なかった。


「ふざけてんのか!!!最大出力って、言っただろぉ!!!」


「いや、最大出力なのですが……なぜかこれだけしか威力が出なくて……」


「クソが!魔王と戦った時は無茶苦茶な威力が出ていたじゃないか!何で今は出ない?」


「それが、よく分かりません」


「もういい!お前には期待せん!ミレーラ!精霊魔法をぶっ放せ!」


「いいえ。断ります」


「は?なぜ断っグフッ……だ、誰だ!誰がオレを殴った……あ」


 背後に、オレを殴った魔物がいることに気づいた。



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