第3話 行くな!


 自転車で漕ぎながら私は脳裏にあるものを見た。


 というより、視界が徐々に川沿いに変貌していくのだ。


 目の前には灰色の川があった。


 多くの小石が並び、川岸には黒い人影が見えた。


 その黒い影の主は大きな鎌を持ち、おいで、おいで、と私に手を振っていた。


 その川岸は漕ぐにつれ、どんどん近づいてくる。


 風を真冬なのにあまり感じない。



 私はその死神を吸い寄せられるように自転車を漕ぎ続けた。


 死神を見ながら私はあることを思い出した。



 中学生のとき、国語の先生が話してくれた走馬灯の話だった。


 先生は人が生死をさまようとき、走馬灯を見始めたら死が確実に近いのだ、と言っていた。


 走馬灯が回り始め、その光景が消え、川が見え、その岸辺の向こうの誰かに捕まったら最後だ、と。


 こんなときにそんな先生の話を思い出していた。


 


 


 それでも、踏切には近づく。




 ああ、死んでもいいかな、と本気で思っていたので、私はあるものを察知するまでペダルを漕ぐのを辞めなかった。


 それは踏切の前にある神社だった。


 赤い鳥居を見て子供の頃に神楽を見たり、神社の境内で遊んだりした日々を思い出した。その瞬間、私の脳裏には声が聞こえた。




「行くな!」


 


 

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