第2話 踏切


 もし、この文章を読んでいる方で今まで自分自身が関わった中に哀しい出来事が全くない、という人はほぼ、いないだろう。


 何かしらの喪失感に遭遇したとき、視界がうつろになり、体中の血管が縮こまるようなあの感覚。その痛みが大きく損なわれるまで失われた状態が『解離』だと私は解釈している。



 17歳の私は文字通り、地獄だった。


 通っていた中高一貫校でも成績は全然悪くなかったのに転校させられ、その転校した先の学校でも思うように教えてもらえず、17歳の誕生日は病棟で迎えた。


 色んな学校や学科を行き渡り過ぎたせいで、自分自身のアイデンティティももみ消され、病棟の患者さんからも「ここでもあなたほどつらい人生を送っている人はいない」と逆に同情される日々を送った。




 たぶん、同じように今の10代が私のような目に遭ったら確実に死を選ぶ。


 実際、主治医からも同じようなことを指摘された。


 必死に病棟で半日ほど籠って高校の勉強をしても学校からは無視されるし、どんどん同世代から置いてけぼりをされる。


 青春からも程遠く、かろうじて漫画や小説を読むときだけが至福の時間だった。



 死神を見たのは忘れもしない、17歳の冬だった。



 一時外泊した私は家にいた。本来ならば、高校二年生だったはずの冬、私は解離性障害のため、毎日が夢の中にいるようだった。


 夜に眠っても昼間見たような光景を夢の中で体験する。


 悪夢を見たときはリアルに自分が刺される夢を見続ける。


 もう一人の自分や空想上の住人が私を高笑いし、罵倒する夢も見た。


 朝、起きても夢を見ているようだった。


 いわゆる、明晰夢を見ていたのだろう。



 冬の曇り空、私は不意に死ななければいけない、と思い立って自転車である場所に出向いた。



 そこは踏切だった。



 

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