第29話 リカと学校を回る

「他にもクラスメイトがいるんだ、離れてくれよ」

「ケチ~」


 渋られたもののなんとか引き剥がす。

 リカを連れて学校に戻り、職員室へと向かう。

 担任が書類を確認していたところだった。


「どうした。何か忘れ物か?」

「いえ、別の学校の友人が学校を見学したいというもので」

「ふむ……!?」


 リカの制服を見た途端、担任は驚いていた。


「驚いたな。女晃学園の生徒さんか。都市で一二を争うような学校の生徒が参考にするようなものはここにはないと思うが」

「教師がそんなことを言っていいんですか」

「本当のことだ。女晃学園は企業からの膨大な寄付と協会の後押しで最新の設備や環境を取り揃えている。だが一番違うのは生徒だろうな。厳しい試験を突破した生徒だけが入学を許される。エリート中のエリートというわけだ」

「そんなに褒められると照れちゃうなぁ」


 お嬢様学校というのは聞いていたがそれほどだったのか。

 リカの能力はたしかにずば抜けている。

 普段は気安く接しているものの、将来を約束されたエリートとは思わなかった。

 なんせ夜は大抵遊び歩いているくらいだ。

 家に帰りたくはない。ストレス発散だと言っていたがエリートはエリートで大変なのかもしれない。


「……まあ好きにしたらいい。問題が起こらないように。ええと、君の名前は」

「守弔リカです。よろしくお願いします」


 リカが頭を下げる。

 少し制服を整えて上品にすれば見た目はお嬢様そのものだ。


「守弔リカさんね。この腕章を付けていれば見学できるから。終わったら返しに来なさい」

「はーい。ありがとうございます」


 腕章を受け取ると楽しそうに右腕につける。

 正直何が面白いのかさっぱり分からないが、どうせ暇だし付き合ってやろう。

 それから学校の設備を案内する。

 体育館に能力測定用の施設がある。

 プールや部活棟なども回る。


「休校が決まって人もいないからやっぱりつまらないだろ?」

「そんなことないよー。先生と一緒にいるだけで面白いもん」

「学校の中で先生って言われると違和感凄いな」

「それじゃあカズヤ君って呼ぼうか? そっちの方が良い?」

「好きにしたらいいさ。もうリカと知り合って結構たつし」

「そうだねー。なんだかんだで一年は経つかな? 最初は仲良くなるなんて思わなかったなぁ」

「同感だ。あの頃のリカはなんていうかこう」

「人を殺しそうな目をしてた、とか?」

「いや……」


 とりあえず否定したが、言いえて妙だった。

 あの頃のリカはそれほどまでに冷たい目をしていたのだ。

 だがなんども注意するうちにちょっとずつ心を開いてくれるようになり、夜回り先生というあだ名をつけて俺を呼ぶようになった。

 リカなりの親愛表現なのだろうと思っている。


「なんだか学校デートみたい」

「なんだそれ」

「思いついたワードを言ってみただけー」


 リカはご機嫌だった。

 一通り案内し、職員室へ戻る途中。

 保健室の扉が開いていた。

 保健の先生が閉め忘れたのか?

 すると保健室から白衣を纏った人物が出てくる。


「おや」


 背が高い女性だった。

 短い髪に眼鏡をかけており、その視線からは明確な知性を感じる。

「この学校の生徒かな?」

「俺はそうです。彼女は見学で」

「ふぅん。そう。私はこの学校のカウンセラーを任されることになった縷々井戸だ。よろしく頼むよ」

「ああ、ホームルームで先生が言ってた人ですか。もう来たんですね」

「まあね。生徒のメンタルケアを預かるんだ。当日来ていきなり相談なんかできないだろ? 全校生徒のプロフィールをしっかりと把握しておかないと」


 どうやら仕事熱心な人のようだ。

 怖い思いをした人も大勢いるだろうから、頑張って貰いたい。


「まあこれから顔を合わせることも多くなる。何かあったら来なさい」


 縷々井戸先生は保健室を閉めると颯爽と立ち去っていった。

 ふわっと薔薇の香水のにおいがする。大人の女性という感じがした。


「ちょっと先生!? 何見惚れてるの」

「見惚れてなんかないって」

「ほんとかなぁ。隣にこんなにかわいい子がいるのに」

「自分で言うなって。それじゃあもういいだろ? 駅まで送っていくよ」

「今日はここまでかぁ。先生はまた夜に見回りするの?」

「ああ。なんせ稼がないといけないからな」

「妹さんの学費を稼ぐんだっけ? 大変だね」

「そうでもないよ。リカだって手伝ってくれてるし、もうだいぶ慣れた」


 平日の睡眠時間が短くなるのは中々きついが。

 それと妹に隠さないといけないことか。


「ならもし私が仕事の依頼とかしたら、引き受けてくれる?」

「もちろん。お前からの頼みを断ったりしない」

「そんなこと言っちゃうんだ。頼もしいけど後悔しても知らないからね」


 実際リカから仕事なんて頼まれないと思うが、もし頼まれたなら無条件で引き受けてもいいと思っている。

 リカを駅へと送り届けて妹の入院している病院へと向かう。

 受付で挨拶し、病室へと向かった。

 妹は退院の準備を整えてベッドに座って本を読んでいた。

 いつも通りのすまし顔に安心する。


「あれ、兄さん。学校はどうしたんですか?」

「休校だってさ。休んだ生徒が相当な数らしい」

「さもありなん。あれだけのことがあったんですから最初から休みにするべきです。熱心な学校ならそうもいかないのでしょうけど」

「能力至上主義か……そういうのも考え物だな。体調はどうだ? いたいところは?」

「大丈夫ですって。心配性ですね兄さん。私は健康そのものなので」

「健康な人間はいきなり倒れたりしない」

「それはそうですけど。それに入院費だって必要ですし」

「それくらい気にするな。なんとかなる」

「そういうのが嫌だって言ってるの。兄さんばっかり苦労して……」


 看護師の人たちの視線を感じて一旦落ち着く。

 話が長くなりそうだった。

 七瀬が問題ないというならこれ以上は言ってもしょうがない。

 退院をして家へと戻る。

 途中で少しだけ買い物をして帰った。


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