第28話 意外なところで遭遇
「そう来たかぁ。こうなるなら素直に寝てれば良かった」
「学校側も意外と気を使ってるんだな」
「まぁ、都市の未来を担う若者は大事にしようってことじゃない? うちは比較的自由な校風だし」
「そういうものかね」
橘内と共に席を立つ。
そこに姫川が合流し、三人で学校を出た。
予定になかった時間だからか、いつもよりもゆっくりと歩く。
「それにしてもみんな無事で本当によかった。……いざとなると体が動かなくなるもんなんだね」
「いやいや、姫ちゃんは私の援護をしてくれたじゃない。サポート系の能力なんだから無茶しちゃダメだよ。おかげで少しは対抗できたんだから。ただ能力に多少は自信はあったんだけど通用しなくてショックだったな」
「協会に指名手配されるような凶悪犯だろ? 本来は治安部隊が相手するような連中だ。学生の俺たちが勝てる相手じゃない」
「カズヤが勝ったじゃん。あれどうやったのさ」
「あれは……たまたまだよ。俺の能力の程度は知ってるだろ?」
「だから不思議なんだけど。姫ちゃんが手助けしたわけじゃないんだよね」
「うん。私は触れてないと能力を強化できないから」
「そうだよねぇ」
妹の心臓に能力を使用していることは妹を含めて誰にも言っていない。
言うつもりもない。これは墓まで持っていく。
橘内は細かいことにはこだわらないらしく、すぐに話題が変わった。
「でもカズヤ君は本当に凄いと思う。咄嗟に誰かを助けられるのは、誰にでもできることじゃない。自分の命すら危険に晒される場合なら尚更だよ」
「体が勝手に動いただけだ。上手くいったけどそんなに褒められることじゃない」
「ううん。君はいつだってそう。私のことも助けてくれた」
「おやおやー? 二人にはなにかあったのかな?」
姫川の話題に橘内が首を突っ込んでくる。
何かあったっけ……。
「ああ、あの時のことか」
「忘れてたの? ひどいな。私はずっと覚えてるのに」
姫川と一緒に遊んでいた頃、遠くまで遊びに行って迷ったことがあった。
ずっと泣いていたばかりの彼女の手を引きながら歩き回った覚えがある。
なんとか家に付いた頃には夜になってしまい、彼女の父親に怒られたものだ。
「いいなぁ。そんな過去があって。私は親しい友達は別の学校に行っちゃったからそういう話はできないんだよねぇ」
「いても寝てるだろ」
「まあね。ばれたか」
三人ともが不安を振り払うように、無理に日常を演じようとしているのが分かる。
あの日の出来事はそれだけ爪痕を残したのだ。
「あー!」
後ろから大きな声が聞こえる。
聞き覚えのあるこの声は……。
「せーんせ。奇遇じゃん」
腕に抱き着いてきたのはなんとリカだった。
制服姿だが、なぜここに?
「だ、だれ? その制服って超お嬢様学校のところじゃん」
「えーと、知り合いのリカだ」
「リカでーす。どーも先生の友達? まさか彼女じゃないよね?」
「彼女じゃないけど……先生ってなによ」
説明が難しいな。
ほとんど俺とリカの間でしか通じないあだ名だ。
なんなら俺も意味は分かっていない。
ふざけてリカが呼んでいるあだ名なのだ。
「とりあえず腕から離れてくれ」
「えー。あの日はあんなによくしてくれたのに今日は冷たいんだ」
「誤解を招く言い方をするんじゃない」
「はーい」
ようやく離れてくれた。
リカはジロジロと橘内と姫川を見る。
まるで品定めでもしているかのようだ。
「ふーん。まあまあかな。でも私の方が絶対可愛い」
「ちょっと距離近すぎない?」
「姫川です。よろしく、リカさん。ところでなんでここにいるのか聞いてもいい? 女晃学園の制服だよね。ずっと離れてるエリアだと思うんだけど」
「学校行こうと思ったけどもしかしたら先生に会えないかなと思って。サプライズ成功ー」
橘内はリカのノリに圧倒されている。
姫川は若干冷たい視線を俺とリカに向けていた。
どうやら相性はあまりよくないのかもしれない。
「行こ、橘内さん。カズヤ君は忙しいみたいだし」
「え、ちょっと。姫ちゃん。引っ張らないで」
姫川が橘内を引っ張る形で駅へと向かっていった。
あれはちょっと怒っているな。
リカはいい子なんだがちょっと表現が大げさなところがある。
姫川からすると少し誤解があるように見えたのかもしれない。
明日話して誤解を解いておこう。
「それで、わざわざ会えるかも分からないのに来たってことは俺に何か用なのか?」
「別に? 会いたかっただけだよ。本当にそれだけ」
「会えなかったらどうしてたんだ?」
「それならそれで仕方ないかなーって。あ、でも先生の学校を見に行くのは面白そうだったかな」
「普通の学校だよ。設備もカリキュラムもなにもかも。リカの学校とは比べ物にならないさ」
「だからいいんじゃない。案内してよ」
「今からか? 参ったな」
予定は……ない。そもそも休校に決まったのがついさっきだ。
なんとか断る口実を考えていたのだが、見るからに期待しているリカの表情を見ていると断るのが申し訳なくなってくる。
つくづく押しに弱いな俺は。
「分かった。分かったよ。連れて行けばいいんだろ。たしか許可を取れば見学もできたはず」
「やったー。来た甲斐があった。それじゃあ行こうよ」
リカが再び腕を絡めてくる。
腕に柔らかい感触が……スタイルがいいからどうしても意識してしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます