第27話 意外と素直なやつ

「うん。じゃあこれで購入完了っと。正直に言うと受付ってこういうノルマもあるんだよね。だから助かったよ」

「本当にちゃんとした商品なんですよね?」

「そこは大丈夫だから安心して欲しいな。また買って欲しいから騙したりしないよ。あ、でもこう言っちゃなんだけど本当に詐欺同然のものもあるから私以外から話がきたら注意してね」

「ならいいんですが……」


 早速不安になってきた。

 三大企業のジズの社債は信頼できると思いたい。

 年に一度配当が口座に振り込まれるようだ。

 償還期限は十五年で年利は三%と書いてある。


 これが多いのか少ないのかは分からないが、額面通りなら良い小遣い稼ぎになる。

 もっとお金があればこれだけで生活できたりしないだろうか。

 無理だろうな。信じられないくらいのお金が必要になる。

 ふっと自分の考えを笑った。


 家に帰ると誰もいない。

 いつもなら妹が出迎えてくれるからとても寂しい。

 もし彼女が一人立ちしたら毎日がこうなるのか。

 あまり慣れたくはないな。


 自分一人分だけの食事を用意する気にはなれず、帰り道にコンビニで購入した弁当を食べる。

 侘しい食事はあっという間に終わった。

 テレビのニュースも空しい。


 ……ジェスターは仲間と共に捕まったようだ。

 これでうちのエリアに来た壁越えのメンバーは全員捕まったことになる。

 もう不安になる必要はないということだ。

 とりあえず明るいニュースを聞けて良かった。


 誰が捕まえたのか気になったが、詳しい話は出ることなくニュースが終わる。

 しかしテレビの音は寂しさを和らげることはなかった。

 シスコンだと思ったことはないのだが、思った以上に妹との会話は俺にとって大切なものになっていたようだ。


 静かな家の中で何かをする気になれず、さっさと寝ることにした。

 とりあえず今日だけの辛抱だ。


 次の日、朝起きてから着替えて学校に向かう。

 事情を知った学校側からは休んでもいいという連絡が来ていたのだが、家に居ても落ち着かないので出席することにした。


 さすがに学校を休んで協会の仕事を受けるわけにもいかない。

 登校の途中で郡衙と遭遇した。

 顔に絆創膏を張っているが怪我らしい怪我はしていない。


「よお」

「おはよう。元気そうだな」

「何が元気なんだよ。お前、今まで力を隠してたのか?」

「そういうわけじゃない」

「お前の能力じゃいくら相性が良い鉄相手だからって、あんな重量を持ち上げられるかよ。姫川が力を貸していたわけでもねぇ。力を隠して俺を笑ってたんじゃないだろうな」

「……それじゃあべこべだろう。大体俺を笑ってたのはお前じゃないか」

「それは悪かったよ」


 案外素直に謝罪された。

 直球でそんな態度を取られるとこっちが気まずくなる。


「あれは極めて限定的なもので、基本的には扱えないんだ」


 妹が生きている限りは。

 だから一生使わない方が俺にとってはいいのだ。

 郡衙は俺の説明に納得はしていないようだったが、それ以上の追及はいなかった。


「一応俺も活躍したってことで実績になるそうだ。だが俺はあんなので満足しない。次に同じ状況になったら俺が親玉を潰す。お前には手柄はやらない」

「俺からは頑張れとしか言えないな」


 舌打ちと共に郡衙は早足で学校へと向かった。

 もしかしてそれが言いたかったから俺を待っていたのだろうか。

 そう思うと微笑ましいな。


 あいつが能力を磨けば優秀な能力者になるだろう。

 是非とも都市の平和に貢献して欲しい。

 そうすれば俺や妹が危険な目に合わなくてすむ。


 教室に到着するが、いつもより生徒の数が少ない。

 自分の席に座るといつも通り橘内が寝ていた。

 聞きたいことがあったので肩を揺らして起こす。


「なにさー。HRが始まるまでは自由時間。つまり睡眠時間なんだから邪魔しないでよ」


 橘内が大きな口で欠伸をしながら文句を言う。

 それを無視して聞きたいことを伝える。


「クラスの人数が少なくないか? この時間ならいつももっといるはずだろ」

「そりゃーあれだよ。デパートのあれ。私たちみたいに不運にも最上階に閉じ込められたのは少ないけどセールだったから結構な生徒が行ってたみたいよ。ショックでふさぎ込んでる子もいるから休校も考えたってさ」

「そういうことか。そういえばクラスメイトを見かけた気がする」

「むしろ君はよく休まなかったね。あんな体験したのに」

「色々としんどかったが、俺は朋畑さんたちとは違って怪我もしなかったからな」

「ああ、あの警備員さんたち? 大怪我して大変そうだったね」

「命には別状はないらしい。体は鍛えておいて損はないってことだな」


 話が雑談に移っていく。

 こうしていると非日常だったデパートのことが夢だったかのようだ。

 やはり日常が一番だと思う。


「何話してるの?」

「あ、姫ちゃんおはよう。姫ちゃんも来たんだね」

「うん。家に居てもなんだか憂鬱になりそうだから。父は休めって言ってたけどね」

「体調は大丈夫なのか?」

「心配してくれてありがとう。私はなんともないから平気だよ。それよりも君の方がよっぽどだと思うけど」

「その話は繰り返しになるからなしだ」

「えー」


 そしてホームルームを迎えた。

 とはいえ出席しているのはクラスの半分だ。

 しかも担任教師は少し遅れてからいつになく真剣な面持ちで教室に入ってくる。


「今朝臨時会議が開かれて、悪いが今日は休校になった。先日のデパートの事件が思ったよりも影響が大きいからだ」

「今日だけですか?」

「いや、今週一杯は休校になる。その間に心のケアのためにカウンセラーを招いてしばらく居てもらう予定だ」


 思った以上に大事だったようだ。

 まさか学校まで一週間休みになるなんて思わなかった。

 クラスメイトたちは早速帰宅し始める。

 郡衙は真っ先にいなくなっていた。


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