第13話 お仕事開始

 事前に受け取っていたパスを使って従業員用の裏口から中に入り、警備室を目指す。

 式典の準備でデパートの中はお客もいないのにてんてこ舞いになっていた。

 従業員の人たちが慌ただしく準備に追われている。


 大変そうだなと横目に見ながら警備室に到着した。

 部屋は思ったより広いが、ロッカーのせいで狭く感じる。

 すでに待機していた人たちから視線が集まった。


「おはようございます。協会からきた持戒カズヤです」

「協会? ああ、応援か。トモさん、来たよ」

「おう、今行く」


 椅子に座ってコーヒーを飲んでいた男が奥の人物に声をかける。

 すると奥からがっしりとした体格の警備員がこっちにきた。

 鍛えられた筋肉はまるで壁のようだ。


「よく来たな、カズヤ君! 俺はこのデパートの警備主任の朋畑だ」


 肩に手を置かれただけで体の芯まで振動が届く。

 凄いパワフルさだ。同じ人間とは思えない。


「基本的なデータは確認済みだが、警備主任として君の能力について改めて確認したい」

「はい」

「能力は磁力とあるが、制御はできているのか? そして出力はどれほどになる?」

「制御は問題ありません。出力は……非常に低いので、暴発することはないです」


 少しばかり口ごもりそうになった。

 自分が無能だと説明するのは割り切っていても少し堪える。


「うん。気にする必要はない。制御できているならいいんだ。暴漢の制圧は我々の役目ではないからね。あくまでお客様の安全を守るのが我々の使命だ。能力を制御できないならお客様の前には出せない」

「っ、今日はよろしくお願いします!」

「うん、よろしく頼むよ。皆も、今日応援に来てくれたカズヤ君だ。挨拶してくれ」


 仲間として受け入れられたのが空気で分かる。

 朋畑さんだけではなく、部屋にいる他の人たちも口々に挨拶してくれた。


「市街パトロールは経験済みで、データでは接客対応も問題ないとあるが」

「はい。迷子の案内なんかもやったことあります」

「なるほど。それじゃあお客様の行き来が多い一階を担当してもらおうかな。道を尋ねられたり迷子の受付や落とし物対応なんかもあって忙しいけど頑張ってね」

「分かりました。制服は貸してくれるって聞いたんですが」

「こっちだ。一番奥のロッカーにクリーニング済みのがあるからそれを使って。サイズはMとLがあるから」


 案内されたロッカーを朋畑さんが開けてくれる。

 中には透明な袋に入った警備員の制服の上下があった。


「仕事が終わって帰る時はここで着替えてそのまま吊るしてくれればいいから。あと二十分後にミーティングだから着替えておいて。ロッカーは鍵がかかるから貴重品は保管しておくように。仕事で使う端末はミーティングで渡すから」

「はい!」


 朋畑さんは必要なことを説明し終えると、奥に行ってかストレッチを始めた。

 早速Lサイズの制服を取り出して着替える。

 防刃チョッキを着込んだが、それで警備員の制服はピッタリだ。気持ちが切り替わって気合が入る気がする。


「新入り君、若いね。いくつ?」

「17です」

「わっか。学生じゃん。その年でもう働いてんの? 学校は?」

「おめーだって若いじゃないか」

「いやいや、俺は成人してますからね」


 声をかけてきたのは比較的若い男だった。

 二十代で、俺より大人びているもののまだ成熟はしていないといった感じだ。


「学校にはちゃんと行ってますよ。空いた時間でアルバイトとして協会に所属しているんです」

「なるほどねー。休日まで働くなんて車でも欲しいの?」

「いえ、妹の学費を稼ぎたいんです。両親がいないので」

「結構重い事情だったかー。ところで妹ちゃんの写真とかあるの? あ、ちなみに俺足立ね」


 気安い人で、ぐいぐいくる。

 とはいえ喋る相手なんていないので地蔵のように突っ立っているよりは気が紛れる。

 妹の七瀬の写真を見せると、可愛いじゃんと褒めてくれた。

 悪い人ではなさそうだ。妹の連絡先は聞かれても教えなかったけど。


 ……年上の人に俺の事情を話すのは久しぶりかもしれない。

 自立しなければとずっと思っていたので、気を張っていたところがある。

 足立さんは暇つぶしのつもりだったのだろうが、色々と悩みを話せて気が楽になった。


 それからミーティングの時間になり、仕事内容の説明を受ける。

 デパート内の決められたエリアを巡回し、困っているお客様の応対をしながら不審者がいないかを確認して回るのが主な仕事になる。

 もし不審者を見つけた場合は単独では動かず、必ず主任である朋畑さんに連絡して指示を仰ぐ。


 休憩時間になったら休憩室でとること。対応などで休憩時間がとれなかった場合は相談してズラしてでも必ず休憩するようにと念押しされた。

 このデパートでは色々とコンプライアンスが厳しいらしい。


「大切なのは楽しみに訪れているお客さんに良い思い出を残して帰って貰うことです。それじゃあ皆今日一日よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 掛け声と共に仕事が始まった。

 もうじきデパートが開店する。

 入り口前はその瞬間を今か今かと待ちわびている人たちで埋め尽くされていた。


「新入り君。最初に入ってくるお客さんは目的が決まってるから、邪魔しないように進路上には立たないように。じゃないと吹き飛ばされて怪我するぜ」

「分かりました」


 足立さんに言われた通り、なるべく入ってくるお客さんから邪魔にならない場所に立つ。


「聞き分けがいいな。いちいちなんでって聞いてくる奴は嫌いだから新入り君とは仲良くやれそうだ」

「そりゃあ……ありがとうございます」


 苦笑しながら足立さんに返事をした。

 時計が九時を指した瞬間自動ドアが開き、待機していた人たちがなだれ込んでくる。

 凄まじい人数と勢いだ。

 足立さんの助言を聞いていなければ巻き込まれて酷い目に合っていただろう。


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