1-4 あなたの救済を
サルベイションの公式ウェブサイトは、紙のパンフレットを詳細にしたような作りだった。やはりそこにも、美しく微笑む
公式SNSのアカウントは、マスコットキャラクターのサルベイちゃんが更新しているという形式になっていた。サルベイちゃんは基本的にはサルベイションの教義や動画の更新、教団の予定なんかをポストしているが、ネットの流行にも敏感で面白い流行があれば便乗した投稿もする。暴言や誹謗中傷でなければ返信もしてくれる、親しみやすいキャラクターを演出していた。
公式の動画チャンネルには、天音アムレアが語る動画が並んでいた。それ以外にも、いかにも普通の動画チャンネルのようなもの──信者がゴミ拾いチャレンジする動画とか、信者が料理する動画とか、一見してサルベイションの企画だとわからないようなものも混ざっていた。そういう動画から親しみをもってもらおうという作戦なのだろう。
背景は薄暗く、穏やかな音楽が流れ始める。そうして画面が明るくなるにつれ、カメラは天音アムレアの顔にフォーカスする。天音アムレアは微笑み、穏やかに、けれど重みのある声で画面に向かって語りかける。
『あなたが今、ここにいるのは、偶然ではありません。すべては必然のように、私たちの道は交差したのです』
カメラがゆっくりとズームアウトし、天音アムレアが白い衣装をまとって立っているのが見える。背景にはサルベイションのシンボルである救済の星が大きく描かれている。また、マスコットキャラクターであるサルベイちゃんの大きなパネルが置かれていた。
『私は、天音アムレア。かつてあなたも耳にしたことがあるかもしれません。「救済の女神」として知られ、多くの信者の心を癒し、導いてきました。時は過ぎ、そして新たな時代が来ました。私は復活したのです』
画面は切り替わる。大勢の信者たちが手を組んで祈っている。あるいは、サルベイションの教義に従えば、それは罪を告白している場面なのかもしれない。信者たちはそれぞれ、何かを呟いているようだった。天音アムレアの声は続く。
『この世界には、罪が溢れています。私たちは皆、過ちを犯してきました。悲しみ、後悔、怠惰。これらはすべて心に積もり、魂を重くし、救済の道から外れてゆきます』
画面は、信者ひとりひとりをクローズアップしてゆく。それはやはり、罪の告白なのだろう。喋り終えた者は恍惚とした、安心するような表情を見せる。そうするとまた、次の信者をクローズアップする。その信者もまた罪を告白し終えて、恍惚とした表情を見せた。
『でも、恐れることはありません。サルベイションは、あなたの心に寄り添い、浄化へと導きます。私たちは、あなたが本来持っていた力を取り戻す手助けをするためにここにいます』
カメラが再び天音アムレアを捉える。天音アムレアは微笑みを崩さない。黒い深い瞳でカメラを見据えながら語り続ける。
『救済の道は、あなたの心の中にすでにあります。ただ、あなたがそれを見つけるために、少しだけ勇気を出す必要があるだけ。あなたが信じ、告白し、解放されるその瞬間を、私は待っています』
次に画面に表示されたのは、有名なチャットアプリの画面だった。中でのやり取りはぼかされているから、何が書き込まれているかはわからない。そして次には天音アムレアがビデオチャット越しに微笑む画像に切り替わる。
『今すぐ、私たちとつながりましょう。サルベイションの公式チャットルームに参加すれば、いつでも私と直接対話ができます。そして、あなたが望むなら、ビデオチャットで一対一で私とお話しすることもできるのです』
画面はまた天音アムレアの姿を映す。天音アムレアがサルベイちゃんの大きなパネルと並んで微笑んでいる。
『あなたの心が浄化され、導かれるその日まで。私たちはあなたを待っています。今すぐ、サルベイションの扉を開いてください』
そして画面はゆっくりとフェードアウトする。背景の音楽が一段大きくなる。
『私たちの道は、今、あなたの前に広がっています』
画面が暗転する。
『あなたの救済を、私たちは心から願っています』
最後にサルベイションのシンボルとともに「チャンネル登録と高評価をお願いします」というよく見る文言が出てきて、動画は終わった。画面の中の関連動画には、サルベイションのチャンネルの動画がいくつも並んでいた。
何か不自然なところがないかと食い入るように見ていた
画面をスクロールして、動画の情報を見る。更新日時はここ数ヶ月以内。コメントはほとんどが信者による崇拝に近いものだが、たまに「天音アムレア美人すぎるw」みたいなものも混ざっている。
「なあ、真直、天音アムレアは死んでいるんだ。おかしいじゃないか。この天音アムレアは……例えば十年前、つまり死ぬ前の映像だったりするんじゃないのか? それを合成しているとか……」
真直は西園寺を振り返ると、ゆっくりと首を振った。
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