第3話「神さまのおもてなし」
(まずは一品目)
自己満足ではあるかもしれないけど、心を綺麗に整えてから買ってきた食材と向き合う。
本来はもち米を使いたいところだけど、今日は料理時間を短縮するために餅を使う。
(もち米の代用品の切り餅が、いい働きをしてくれますように!)
家族と住んでいたときは、お正月に飽きるほど食べていた餅。
きっと次のお正月に実家に帰ると、また飽きるほどの切り餅が用意されている。でも、一年も経つと、『飽き』というものはどこかに行ってしまうという不思議。
(金時豆も一晩水に浸けないとなんて……)
豆を一晩漬けている余裕はないため、こちらも枝豆の冷凍食品で代用。
なんでもかんでも一から作り上げる方が神さまも喜んでくれるかもしれないけど、出来合いの物で済ませられるところは頼りながら、神さまをもてなしたい。
(炊飯器にお米と醤油、砂糖、みりんに……料理酒!)
新潟の長岡市って場所の郷土料理って言われている、醤油おこわ。
その名の通り醤油で色と味をつけたおこわで物珍しさはないけれど、おこわを知っている人からすれば醤油味ってところに違和感があるのかもしれない。
(あとは切り餅)
私も家族も長岡市に縁はないけれど、醤油おこわは幼い頃から知っている。
郷土料理のルーツを語るほどの知識がないのは神さま相手に申し訳ない気もするけど、大好きな味を神さまに提供したいという気持ちを料理に込めていく。
(これ、もち米から作ったら大変だったんだろうなー……)
スマートフォンでもち米から作るおこわのレシピを眺めてみるけど、蒸し器が必要って時点で料理が得意でない人間は溜め息を溢してしまう。
もちろん炊飯器で作るおこわのレシピも見つかるけど、やっぱりもち米は浸水時間が必要。
(家庭の数だけ、やり方があるってことだよね)
炊飯器の電源を入れて二品目の調理に取りかかる。
(里芋の下ごしらえって苦手なんだよね……)
里芋のぬめりで手が痒くなってしまうのを防ぐのは、料理初心者にはなかなか難しい。
ベテランになったら痒くならないのかって尋ねられても分からないけど、とりあえず母直伝のやりかたで里芋の皮を剥いていく。
(布巾で、里芋の水気をしっかり取る……)
そして自分の手を包丁も、なるべく濡らさない。
里芋を乾いたまま扱うと包丁を滑らせる危険も減らせるとは言うけど、料理初心者には何もかもが難しい。
下ごしらえ済みの食材を買ってきた方が楽だって分かってはいるけど、今日は自分の作った食事を食べてくれる存在がいる。
だから、一から下ごしらえを頑張ってみたいと思ってしまった。
(次は里芋に塩をこすりつけるように転がす……)
里芋のぬめりが取れたら水洗いをして、里芋を沸騰したお湯に入れて中火で茹でる。
にんじん、かまぼこ、こんにゃくは年がら年中手に入れることができる食材。
でも、筍だけは旬のものを手に入れることはできず。
筍の水煮を利用して、それぞれの食材を短冊切りに整えていく。
(塩鮭、塩鮭……)
鶏もも肉を使う家もあれば、塩鮭を入れる家庭もある、この料理。
新潟らしい食材はどっちかなって考えたときに浮かんだのは、やっぱり塩鮭。
神さまには馴染みがないと思われる[[rb:村上 > むらかみ]]って地域で作られる塩引き鮭は絶品で、焼いてもご飯と炊き込んでも汁物に使ってもいい万能品。村上の塩引き鮭は少々値が張るけど、お金をかけるだけの価値があるのが村上の塩引き鮭。
(神さまのために、今日は贅沢をさせてくださいっ!)
私は材料を見ただけで何を作るか想像がつくけれど、神さまには馴染みがないんだろうなってところが不思議な気分。
新しく出会うって、こういうことを言うんだろうなってことを自分の体験を通して知っていく。
(鍋に、出汁と醤油と料理酒とみりん……)
ここに、白だしを加えるのが私の好み。
もちろん配分を間違えると、とんでもなく塩辛い食べ物が誕生する。
慎重に調味料を注ぎながら、食材も一緒に火にかけていく。
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