第35話 含沙射影〜証明完了〜

 俺は早速、魔法を唱えた。


「女神様、ストローと水を!」


 唱えた瞬間――ビーカーが俺の机の上に、なんとストローは悪役令嬢あくやくれいじょうことケイが飲もうとするのを防ごうとしたのか……彼女のほっぺたに当たって現れた。


 「なにィ!」と言って、ケイは飲もうとしていたコップを机の上に置き、ほっぺたに手を当てている。そのすきを狙って、俺はニヤリと笑い、彼女が飲もうとしていたを奪って、自分の机の上に現れたビーカーの中へ移し替えた。アイスティーと一緒にストローも回収する。ケイは俺の方を向いて、キレ始めた。


「ちょっとアンタ! 何すんのよ?」

「まぁ……今から面白い実験をするから、よく見て」


 俺はそう言いながら、ストローを手に取り、ビーカーの中身をひたすら1分間かき混ぜ続けた。すると、ビーカーに入っていた液体が青色に変化した。


「へぇ……そういうこと……」


 ポツリと呟いてすぐ、俺はアンズに確認を行った。


「アンズ。これ……あの悪魔アクマグループの誰から渡された?」


 アンズは俺の低い声に驚き、思わず「あの人……」と言いながら、人差し指でその人物を指す。


 「わかった。アンズ、ありがとう」と感謝を伝えてから、液体が青色に変化したビーカーを手に持って、飲ませようとした人物へその液体を頭からかけた。かけた本人は案の定、「何すんだテメェ!」と怒りに身を任せて、俺を殴ろうとしてきたが、その前に俺は彼の喉にとがったストローを刺す素振そぶりを行う。


 すると、彼は「うあああ!」と悲鳴をあげて、倒れた。同時に「アンタ、何してるの?!」とケイも驚きながら、大声で叫んでいた。


 俺はそんな二人の状況に溜息をついて、会話を始める。


「何すんだ……? それはこっちのセリフだ、馬鹿バカ。アンズとサラ以外……どいつもこいつも馬鹿バカばっかり。おい、お前!」


 犯人が咄嗟とっさに逃げようとしていたので、俺は馬乗りして彼を拘束してから、おどしをふくめた提案をする。


「アンズとケイに、このアイスティーを飲めって言ったな? お前、何をやったか分かっているのか? 俺がお前の頭にそのアイスティーをかけたから、それを今から飲め……」


 俺はにらめ付けながら返事を待っていたところ、彼は突然泣き始めて懺悔ざんげした。


「すみませんん。俺は飲めません……命令されて、やったんです……ごめんなさい!」

「それは誰だ! 何を考えて、入学式初日から睡眠薬すいみんやくを女性に飲ませようとした? そういう薬物を混入する行為は倫理に反しているんだぞ――ここで言え!」

「言えません……」

「言わないんなら、お前がここで飲めば?」

「無理です……。神よ、許してください……!」

「そういういやしい行動をする人に神は味方するのかね〜?」


(まぁ……俺は一応、女神様に味方してもらったのかな? 『水』って唱えたけど、なぜか水をビーカーに入れてくれたから、みんなの前ですぐ証明できた……)


 そんな俺らのやり取りを見て、悪魔の取り巻きがこの状況をマズいと思ったのか、大声で首謀者しゅぼうしゃを教えてくれた。


「悪かった! 俺たちは第9王子の指示でやった!」


 俺はビーカーとストローを床に置いて、「9?」と聞き返す。


「そうだ……。メタノ様の指示で、『女の子たちを調べたいからやって』って言われたんだ」


 俺はふと幼少期にアンズが王族の女の子だと疑われて誘拐ゆうかいされた時に、知ったとある事情について聞いてみる。

 

「調べたいねぇ……それって、例の第一王女が関係してるのか?」

「いや……特に理由は聞いてないけど。ケイさんには絶対飲ませろって……」

「ふーん。王族の女性を狙ってるってわけか。そいつはどこにいる?」

「特別科の2年生だから、ここにはいない……」


 特別科とくべつか――もしかして、王位戦おういせんで戦う相手ではないか? しかも第9王子とまた俺と数字が1つ違う。その第9王子の悪態あくたいを周知させれば、俺は一桁になれるのでは――その経緯を知れてラッキーだと思った俺は「わかった、次から絶対に同じことをするな」と悪魔軍団にくぎを刺してから、手を洗いに行こうとしたところ、後ろにいるケイから質問された。


「アンタ……なんでそれにが入ってるってわかったの?」


 彼女は俺がなんで分かったのか、気になっているようだ。あまり権力を行使こうしするタイプではないが、この特権を使えば、『人間は弱者じゃくしゃ』という認識が変わるかもしれないと思い、俺はポケットから資格証を取り出す。


「俺は研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃだから分かるさ。第5王子と同じね……」


 悪魔軍団とケイの前で日頃から持参している資格証を披露ひろうする。

 

「嘘だろ?!」

「シアン様と同じ?」

「もしかして……最年少で最難関国家試験に受かったってウワサの……」


「そうだ……俺はアダム・クローナル。研究者だ」


 そう言った瞬間、みんなさっきとは違う目で俺を見ていた。もう俺を弱い人間として見てこないだろう。そう察したものの、この現場を先生が見たら、俺がいじめたみたいになると思ったため、例の睡眠薬をかぶった悪魔には「先生に睡眠薬を飲ませようとしたのがバレたら、退学になるぞ? 今回は見逃してやるから急いで着替えて……ここを掃除して何もなかったかのように振る舞え」と命令した。

 当本人は「ありがとうございます」と泣きながら、着替えをしに更衣室まで走って移動した様子であった。その取り巻きたちも慌てて、掃除をし始める。


 その間に俺は男子トイレに行って、手を洗った。そして、教室に戻ったところ、生徒たちは何事もなかったかのように落ち着きを取り戻していた。むしろ、掃除したせいか床が綺麗になっていた。


「はぁ……疲れた〜」と俺は椅子に座る。前の席に座っていたアンズが俺の方を向く。


「アダム……また助けてくれてありがとう」


(えらい、ちゃんとお礼を言える。さすがアンズ)


 一方、隣の悪役令嬢あくやくれいじょうは言わないだろうなと思っていたのだが、「アダム……ありがと」と照れながら、お礼を言ってきた。


(ふーん……ちゃんと俺の名前を覚えていて、お礼も言ってくれた。二人とも無事だったから良しとするか)

 

 そうか――彼女は悪役令嬢あくやくれいじょうではなく、俗に言うだった。


 

 そこからしばらくして、サラと担任が戻ってきた。二人は一緒に会話をしながら、職員室から教室まで来たようだ。この数十分の間に大変なことが起きていたとは二人とも気づいておらず、サラは俺のところに来て、笑顔で「兼部けんぶオッケーみたいだよ?」とピースサインをしていた。それに担任も「部活の兼部は大丈夫だけど、1人最大2箇所までだよ。一生懸命頑張る生徒が多くて、嬉しいな。みんな、学校生活楽しもうね!」とご満悦まんえつな表情をしていた。

 

 そんなあわただしい雰囲気の中、入学式初日が無事に終わり、俺はサラと一緒に男子寮へ向かった。嬉しいことに、部屋は一人一部屋らしい。俺とサラは同じ階だった。彼女は一番奥の部屋で、俺はその2つ隣の部屋である。


「アダムさんー! お疲れ様!」

「あぁ、お疲れ様。サラ、気をつけてな……」


 「女の子だから」とは言わないが、彼女は察したようで「まかせて!」と言って、それぞれの部屋へ入ることにした。


 俺は鍵を開けて、自室に入り、すぐベッドに向かった。

 今日一日だけでもいろんなことが起きすぎて、疲れてしまった……。それに、久しぶりの学生生活過ぎて、この騒がしい感覚を忘れていた。

 

 とりあえず、今後の目標としては……まず第一に部活を作り、自分を含めて5人のメンバーを集めること。それに付随ふずいして、人間やエルフ以外の種族である悪魔・鬼・吸血鬼・天使について知っていければいいかと思うことにした。


 疲れすぎていた俺は、そのまま爆睡してしまった。

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