第33話 案ずるより計画するが易し〜だがバトルは断る〜

 異世界転生してから15年が経った――俺の名前はアダム・クローナル。王族生まれの第10王子だ。

 

 前世で研究者としてつちかってきた知識を引き継いだまま、とある女神様と契約して異世界転生した後、異世界に存在する毒キノコと食用キノコを使った研究で評価を得て、最年少で研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃの資格を取得した。そんな俺には自らの手で研究所を設立するという夢がある。しかし、その夢を達成するには王位1桁でなければ、研究施設などの専門機関を建てることができないらしい。9と10。たった1つの数字だけでこの差である。


(なんてクソ制度だ――やってられっか!)

 

 でも、俺には1桁になれる方法がある。それは最難関校であるザダ校に入学し、王位戦おういせんというイベントで成果を上げることだ。

 まず俺は、最年少で研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃの資格を持っていたことがプラスに働き、無事ザダ校に合格したため、第一関門だいいちかんもんは突破した。次に行うのは王位戦おういせんいどむことである。その王位戦おういせんについては、今日の入学式で説明があるらしい。大事なところだけは、しっかり聞こうと思う。


 さて、俺自身についてもうちょっと話をしよう。

 

 突然の告白で申し訳ないが、俺は前世からあまり友達がいなかった。今日の入学式も前世の俺だったら、ぼっちで参加していたはずだが、今の俺は驚いたことに入学式初日から――幼馴染おさななじみの可愛い女の子とわけアリ男装令嬢だんそうれいじょうの二人と一緒に、講堂へ移動していた。両手に花だ――前世で有名だった某男性スから始まるアイドルですら、『世界に1つだけの花』で満足しているのに、俺はなんと2つの花を手に入れている。


 まず、幼馴染おさななじみの女の子はアンズという名前だ――黄色の目と淡紅色の髪をしている。彼女は肩下まで伸びた直毛のストレートヘアが特徴的だ。幼少期はボブヘアだったが、今では髪を伸ばして大人びた印象になっている。さっき久しぶりに再会したとき、彼女が俺に抱きついてきた。その瞬間、成長した彼女の胸が当たっていることに気づいたが、彼女は全く悪気わるぎがなく、ただ俺に会えたことが嬉しくて抱きしめてくれたのだと思う。彼女とは10歳の頃、俺の家族の事情で離れ離れになってしまった。俺はさっき、彼女から「今も歌のレッスンを習っているよ!」と聞いた。いつか彼女の歌声を聴ける日が来るのを楽しみにしている。


 次に、わけアリ男装令嬢だんそうれいじょうはサラという名前だ。ショートヘアで学ランを着こなしているため、誰が見ても男子生徒にしか見えない。彼女は貴族出身のお嬢様だが、とある事情で男として生きている。彼女と一緒に住んでいるおじさんことニボルさんは、はちに刺されて死にそうだった俺を助けてくれた命の恩人だ。その命の恩人から「何かあったら、サポートしてね」と依頼されたため、彼女が女性だとバレないよう見守る予定だ。でも彼女は剣術検定けんじゅつけんてい1級保持者というこの国で5人しかいない剣術の達人だから、俺より強いと思う……。


 俺がずっと考え事をしている様子を見透みすかされたのか、二人から同じツッコミをされる。

 

「ねぇ。アダムさっきから考え事してるねー? そう思うよね、サラ」

「うん。アンズちゃん、ぼくも同じこと思ってた。アダムさん、さっきからずっと自分の世界に入ってる……」


 二人は合格発表の時に仲良くなったようだ。楽しそうに会話をしている。ちなみに、アンズはサラが女性だということを知らない。サラが女性だと、この学校で知っているのは俺と――今日から学校医になるオウレン先生だけだ。

 オウレン先生がどこにいるのかキョロキョロ探したところ、これから新任教師の紹介が始まるようで、壇上だんじょう近くの椅子に座っていた。


 オウレン先生は女医さんだ。ニボルさんの妹で――サラのことを娘のように溺愛できあいしている。サラが学校で、性別のことで困った時に助けてあげたいと思った先生は、どうやら臨床医りんしょういを辞めてザダ校の学校医になったそうだ。


(本当にサラのこと、好きなんだなぁ……)


 そんな感じで考察していたら、校長の挨拶が始まった。


「えぇ〜、一般科いっぱんかの諸君。入学おめでとう、今年の一般科は多くの王族が入学している。とても素晴らしいことです。いきなりで恐縮だが、まずは王位戦おういせんについて話そうと思う――」


(おっと、いきなり王位戦おういせんの話かぁ……話が早いな。この校長は仕事ができそうだ)


王位戦おういせん――それは我が母校ことザダ校で開催される一大イベントである。開催時期は半年後の9月からだ。強気な一般科の生徒がいなくて、ここ数年開催されていなかったが、ぜひ挑戦してほしい」


 今すぐにでも開催して欲しかったが、半年後らしい。その間、俺は校内の研究施設にもろうかな。

 

「そうだ、大切なことを忘れていた」


 『えっ。なんだろう?』と思っていたら、校長から衝撃的過ぎる発言が。

 

王位戦おういせんとは、一般科いっぱんかからなる生徒三名が王位一桁の王子らがそろ特別科とくべつかと団体戦で戦う制度だ――一般科のメンバーは、最低二人は王族出身でなければならない」


(戦うってか?! しかも、王族同士のバトルで相手は上位トップの王子……無理ゲーだろ!)


 声には出さなかったが……舌打ちしてしまった。


 俺は身長172cm、体重65kgと人間の平均身長・体重だし、それに俺のスペックとして、戦闘能力は備えていない。異世界転生した時に、女神様から授かった能力は、転生前の知識を身につけることができる能力と……あとは「女神様!」ってお願い事をすると、自分の欲しい実験器具とか装備が出せるぐらいだ。これらの能力は、研究者としては高スペックだが、戦闘には圧倒的不利――こんなところでつまずくとは……俺は研究所設立の夢が叶えられないかもとショックで、幽体離脱したかのように頭が真っ白になっていた。


 それに、王位戦の話が終わったから、校長の言ってることが全然頭に入ってこない。最後に、校長はお茶目な挨拶をして締めくくっていた。

 

「詳細は担任の先生から話があると思うから、みんな学校生活を楽しんで。アディオス!」



 入学式を終えた俺たちは、クラス発表の名簿を見る。驚いたことに、俺たち3人はみんな同じクラスだった。


「えっと、1-A組らしい」


 アンズは「同じクラスになれるなんて、私幸せ〜」とほっぺたに手を当てて、喜んでいた。サラもニコニコしながら、会話に入る。


「やったー! アダムさん、アンズちゃんと同じクラスだ〜。嬉しいなぁ。席はどこだろう?」


 俺は教室の入り口付近に貼ってある座席表を見て、俺も含め3人分の座席を確認する。

 

「サラは一番後ろで窓側だ。端っこの席か……大当たりだな。俺はサラの隣、アンズは俺の前。みんな後ろの席だ……」

「アダムすご! 状況判断能力、高いね?」

「ね! アダムさんのおかげで助かるよ〜!」


 二人がすぐ褒めてくれた――前世で大学の先生をやっていて、受験シーズンの時によく試験監督をしていたから、こういう座席表の解読は得意なのだ。


 俺たちは3人で仲良く教室へ入り、該当する席に座ろうと思っていたのだが、俺の席に女子生徒が座っていた。彼女は金髪のツインテールに、ピンク色のり目と明らかに気が強そうな外見をしていたが、俺はすぐ指摘する。


「そこ、俺の席だけど……」

「あ、ごめん〜。全然考えずに座っちゃったわ! ここ景色がよかったから〜」


(は? 座席表を見てなかったのか? まるで電車のように、好きな席に座りましたみたいなノリで言われても……それにここ、教室だし)


 思わず、その彼女と二人してシーンと静かになってしまった。すると、後ろから二人がサポートしてくれた。


「初めまして、ぼくはサラ。よろしくね」

「初めまして、アンズだよ! 女子同士仲良くしようね」


 アンズとサラは初対面の人に対しても感じが良いし、俺が困っているとわかってくれたようで間に入ってくれた。例の図々しい彼女は突然俺たちに妙なことを聞いてきた。


「あなたたち……王族?」

 

(この女子、もしかしてどこの出身かでマウントを取ろうとしてるのか?)


 俺は自分のことだけを回答することにした。


「俺は王族だが、二人は俺の大切な友人だ」


 実際、サラは貴族だけど「アダムさん、内緒だよ!」と約束をしたため、言わないことにした。俺のかどのない回答にアンズとサラは嬉しいのか、わぁ……と目をキラキラさせている。質問者の彼女も何故かニヤリと笑っている。なんで?


 「ふぅ〜ん。面白いじゃない、気に入ったー! 3人とも卒業したら、アタシの領土で働かない?」

 

 驚いたことに、なんと就職の案内をし始めた――彼女は思いつきでお喋りするタイプだ。それに言い方が「お前のものは俺のものだ!」と言わんばかりだ。俺ら3人はこれからの学校生活を楽しみたいし、就職とかは全く考えていないため、キョトンとした表情でスルーすることにした。

 

(それより、俺の席だから早く退散してほしい……)

 

 彼女は空気が読めなくても気まずいとは思っていなさそうだ……。俺の席に座ったまま、いきなり怒涛どとうの自己紹介を始めた。


「そうだ、言ってなかったわ。アタシは第4王女のケイ・クマリー! 我がクマリー家は、父が土地の再開発に成功した市長で、庶民から大出世した王族よ! よろしくね、人間共ニンゲンども!」


 そう漫画のようなセリフを言った後、『うやまえ!』という感じで大笑いしている。


 俺は驚いた。彼女の言っていることが正しいのなら、ずっと先祖から王族家おうぞくけとして存在していたわけではなく、彼女のお父さんが頑張ったから、王族になったのだろう。それをあたかも自分の手取りのように言っている。


 彼女はまるで――悪役令嬢あくやくれいじょうのようだった。

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