第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

【入学式編】

第32話 笑う門には研究者ら来る ※アンズ視点

 やっほー。私の名前はアンズ!

 15歳の女子学生、今日は待ちに待った入学式。

 たくさんお友達ができるか心配。

 

 でも私には……気になる幼馴染おさななじみの男の子がいるの!

 彼とは10歳の時、離れ離れになっちゃったけど、別れの挨拶をした時にこのザダ校で会おうって約束したの。彼もこの学校に進学するのは、彼のお友達と合格発表の時に仲良くなって知った。


うれしいなぁ。今日会えたら、最高サイコーかも?)


 彼にいつか会えるのではと思い、ルンルンしながら校舎に入ろうとしたところ、キキィ――と突然この世界では馴染なじみのないスポーツカーの音がした。その方向を見ると、誰かが降りた様子であった。


「兄さん! ありがとう〜。今日から新天地だけど頑張るわ」と綺麗なエルフ族の女性が車の助手席から降りる。


(このお姉さんは学生ではなさそう。教師かな?)


「どういたしまして、僕の運転でなんとか間に合ったね……。二人とも着いたよ! せっかくだし、四人で写真をらないかい?」と運転席から、40代ぐらいの白髭しろひげのおじさまが現れる。そのおじさまは頭にサングラスを掛けていて、カメラを用意している様子だった。


 「」と言ってるけど、誰だろうと思っていたところ、私の知っている人物が現れた。


 「おじさん、ろうよ〜! せっかくだし、誰かに撮ってもらわない?」と彼の友達で、合格発表の日に仲良くなった男の子――サラが近くにいる歩行者へ声をかけようとしていた。しかし、たまたま彼の近くを歩いていた女子生徒が「えっ……美少年!」と照れてしまい、走って消え去ってしまった。

 サラはツヤのある黒髪、透き通った青い目、そして穏やかで優しそうな表情をしていて、誰が見ても王子様だと思ってしまう。「どうしよう〜!」と落ち込んでいるサラ。

 

 そんなサラの様子を見て、彼と同じ車に乗っていた別の男子生徒が現れた。


「まかせて……こういうのは俺が聞けば、すぐってもらえるはず」


 私は聞き覚えのある話し方に思わず、「あっ!」と声を出してしまった。すると彼が私の方を向く。


 「おっ。いい人がいた――アンズ。元気だったか?」とニヤリと笑いながら、私に挨拶をしてくれた。私は嬉しすぎて、思いっきり彼に抱きついてしまった。

 

 だって、私の大好きな人――アダム・クローナルに出会えたのだから。

 彼は声変わりしていたものの、黒髪黒目で天然パーマと初めて会った時と全然変わっていなくて、私は安心した。


 一方、アダムは表情に出さないものの――私が抱きついたことにやや驚いている様子だった。


「アダム〜!」

「アンズ、ここは学校だ。大きくなったな……。いきなり頼み事で申し訳ないが……写真を撮ってもらってもいいか?」

「もちろん!」

 

 早速、私はアダムたち御一行ごいっこうの写真を撮ることにした。

 すると、4人が揃ってガッツポーズを決めている、面白い写真が撮れた。

 

 サラが私の横でひょいと撮った画面をのぞき込みながら、めてくれた。


「いい写真〜! そうだ、この写真とは別に『車で来た』って文字を書いたアレンジ画像も作るね」

なつかしいネットミームだ……ぜひ頼む」

なつかしいね〜!」

 

 アダムとおじさまも納得しながら、うんうんとうなずいている。そんな三人が私の撮った写真を確認している様子をぼんやり眺めていると、一緒にいたエルフ族の女性がふと私に声をかけてくれた。


「初めまして、私の名前はオウレン。今日から、ここの学校医として勤務するの。よろしくね。もしよかったら、アダムくんとあなた……二人で写真をらない?」

「えっ、いいんですか?」

 

 「えぇ、アダムくんと幼馴染おさななじみなのよね?」と言って、学校医ことオウレン先生はアダムを呼んでくれた。

 それにオウレン先生だけでなく、サラも気を遣って「せっかくだから二人で撮りなよー!」と言ってくれたので、そのお言葉に甘えて、アダムとのツーショット写真を撮ってもらうことにした。でも、『アダムと二人で撮るのは人生で初めてだ……』と思ってしまい、つい緊張して固まってしまった。


 「撮れたよ」と言ってオウレン先生はすぐ私たちに撮った写真を見せてくれた。アダムはその写真を見て、「いい感じだ。ありがとう、オウレン先生」と感謝している。私も一緒にのぞき込む。あの時はアダムと同じぐらいの身長だったのに、今はアダムの方が大きくなっていた。


(そっか、最後に会ってから5年が経ったんだ……)


 感慨深かんがいぶかい気持ちに浸っていたが、オウレン先生が時計を見て「あら! 入学式まであと15分よ! 急がないと!」とあわて始めた。

 

「じゃあ、おじさん行ってくるねー! 送ってくれてありがとう〜」とサラはあせらず、おじさまに手を振っていた。そして、「アダムさん、アンズちゃん、一緒に行こー!」と誘ってくれた。


 アダムは「了解りょーかい」とサラに返事をした後、「あと15分あるから、大丈夫ですよ」とオウレン先生を軽く諭す。そして彼は私の方を向き、「アンズ、今日からまたよろしくな」と言って、講堂へ向かって行った。

 

 久しぶりの再会に、なんだかむずがゆい気持ちになった。でも、初日からアダムに会えたことがとても嬉しくて……今日から始まる学校生活に心がはずんだ。

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