第31話 <転生前>お正月〜薬剤師国家試験勉強〜

 今日は1月1日。新しい年の始まりだ。


 目の前には試験問題――『正しいものはどれか。2つ選べ』と書かれている。


2?!)


 選択肢は5つ。慎重に2つ選ばなければならない。どちらか1つでも間違えたら、得点にはならないのだ。


(えっと……ニコランジル……確か、カリウムチャネルを……)


 少し考えてから、『1と5だ!』と判断する。


 答え合わせをする。画面に表示された正解は……『1・5』。


(正解! よっしゃあ〜!)


 次の問題へ進む前に、一応、なぜこの2つが正解なのか、自分なりに確認しておこう。解答理由をきちんと理解するのも、勉強のコツだ。


 そんな感じで、ひたすら問題を解いていく――やぁ、諸君。私は薬学部に在籍する大学6年生だ。


 今日は1月1日。お正月だが、見ての通り、私は机に向かっている。理由は明白、2ヶ月後に控えた薬剤師国家試験のためだ。


 せっかくの元旦だから、のんびり過ごしたい気持ちもある。でも、この試験はなんと9科目もあるうえ、試験日程は2日間にわたるという鬼仕様。


(多すぎだろ……しかも、2日間って長すぎ……)


 しかし、試験に落ちるわけにはいかない。だからこそ、出題者の意図を読み取り、出そうな分野を徹底的に分析するしかないのだ。


 ふと目を上げると、勉強机のそばに置いた妹の写真が視界に入った。


 亡き妹と交わした約束が蘇る。


『お姉ちゃん! 将来、お薬の研究者さんになったら、難病で困っている人を助けてあげてね!』


 そうだ、私は妹に約束したんだ。この夢を叶えるためにも、絶対、薬剤師国家試験に受からなければならない!


 心を奮い立たせ、再び机に向かおうとした、そのとき――。


 ぐぅ〜!


 しまった……お腹が空いてきた。年越しそばは美味しいけど、量が少ないから夜遅くなるとお腹が空くんだよなぁ。


 このまま空腹状態で勉強を続けても、集中できなくて効率が落ちるかもしれない。いや、絶対にそうだ。


(あ! そういえば、帰省中に両親がクッキーを差し入れてくれたんだった!)


 すぐにキッチンへ向かうと、美味しそうなシナモンクッキーが目に飛び込んできた。嬉しくなって、ウサギの形をしたお気に入りのお皿に並べる。


 そして、他にも目に入ったのは、いただきものの紅茶。

 せっかくだし、ポットに注いでカップごと自室へ持ち帰ることにした。


 リビングから自室へ戻り、早速シナモンクッキーを一口摘んだ。


(シナモンと言えば……桂皮ケイヒ。この香りは、シンナムアルデヒドが主成分だよね)


 気づけば味の感想より、国家試験に出そうな知識が頭に浮かんでいる。自分の脳内が試験内容で完全に染まっているのを実感して、苦笑いがこぼれた。


 その毒された思考をリセットするために、紅茶に手を伸ばす。アプリコットティーだ……甘酸っぱいあんずの香りが優しく広がり、少しだけ心が軽くなる。


「よし、残り2ヶ月、絶対に乗り越えるぞ!」


 そう自分に言い聞かせながら、再び机に向かう。心の片隅では、「早く実験したいな」と未来を思い描きつつ――。

 

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