第25話 焼肉強食

 俺とオウレン先生は無事に各々自宅へ帰った。時間は午後5時を回ったところだ。ニボルさんとサラも一度家に戻ったらしいが、買い物をしに出かけたようで不在だった。午後6時ごろから、ニボルさん家で焼肉パーティーをするとオウレン先生が教えてくれたため、一時間ほど仮眠を取ることにした。


 そして目が覚めた俺は人間でも食べられるキノコをニボルさん家へ持って行くことにし、発表で使った毒キノコたちは実験室のテーブルの上で放置することにした。俺は特にこのベニデングダケが好きだ……なんて毒々しい見た目をしているんだろう。


(そうだ! うっとりしている場合じゃなかった……早くニボルさんたちにも報告しないとな)


 俺は家の鍵を閉めて、ニボルさん家に向かった。そして玄関に入ったところ、パンッと大きい音が鳴る。ニボルさんとサラがクラッカーで俺を祝ってくれた。


「アダムくん〜! よく頑張ったね。おめでとう!」

「ニボルさん、ありがとうございます」

「アダムさん、お疲れ様! 一緒に受かってよかった! おめでとう〜」

「サラもよく頑張った、おめでとう」


 俺とサラは二人でハイタッチをした。その様子を見て、ニボルさんは拍手をする。

 

「二人共受かるなんて……素晴らし過ぎるよ!たっぷり食べてね!」


 そう言ってニボルさんたちは俺をリビングに案内してくれた。すると目の前にはたくさんの食材が。オウレン先生はすでにビールを注いでいた。すぐにみたいのだろう。俺とサラにはジュースを注いでくれた。


「兄さん、これからお疲れ様会しますか〜」

「そうだね! カンパーイ!」

「 「 「 カンパーイ!」 」 」


 みんなで食べる前に乾杯をする。


(あれ……こうやって飲み会に参加したの転生前ぶりかもしれない。いつもは飲み会って愚痴会みたいな感じだから苦手意識があったけど、ニボルさんたちと過ごすのは楽しいな〜)


 さて、ニボルさんは調理師免許の資格を持っていることもあり、本格的な焼肉が開始された。あみの上にお肉を乗せ始める。何のお肉だろうか。


「ニボルさん、このお肉はなんですか?」

しおタンだよ〜」

「へぇ、やっぱり塩タンからですよね!」


 ニボルさんは焼肉の雰囲気を静かに楽しみながら、肉をじっくりと焼いている。オウレン先生は皿を用意して、タレやレモンの準備をしている。サラは大根おろしとワサビを用意していた。「ぼくはワサビが好きなんだよね。あと味噌みそダレが好き!」とみんなに情報をシェアしている。彼女は俺とニボルさんと違って、異世界転生していないはずだが、和風な調味料を好んでいるらしい。しばらくして、ニボルさんが大声で俺たちに合図をした。


「できたから食べよー!」


 ニボルさんが焼いてくれた塩タンをオウレン先生はニボルさんのと異なるトングを使って、俺たちの皿へ取り分けてくれた。違うトングだからじーっと見ていたら、先生が俺に理由を教えてくれた。


「あのキノコ事件以来ね、食中毒しょくちゅうどくは怖いなぁと思ったわけ。それで使い分けてるの。安心して食べてね」


 先生は生肉なまにくに菌が付着しているリスクも踏まえて、その菌を焼けたお肉に付けないためにも使い分けてくれたそうだ。大好物のビールを飲みながらも、ちゃんと臨床で得た知識を実践じっせんしている。そんな先生に敬意を示しながら食べることにした。

 

「オウレン先生……さすがですね。いただきます!」

 

 俺の隣で食べているサラも「おいしい〜」とご満悦まんえつである。ニボルさんとオウレン先生はビールを飲みながら、深く味わっていた。

 みんなが美味しそうに食べている様子を見て、俺はキノコを持ってきたのを思い出す。「そうだ、これも焼きませんか? 安心してください、毒は入ってないですよ」と言って提供したところ、「言い方面白いー!」とサラが笑いながら焼いてくれた。


 キノコを焼き終えた後はカルビやロース、ハラミといろんな牛肉が次々と出てきた。俺とサラは成長期前後ということもあり、ずっと食べてもまだまだお腹いっぱいにならない感じだ。一方、大人組は今日俺たち以上に緊張していたのか――その発散でとうとう赤ワインのボトルを開けて、飲み始めていた。


 「かぁ〜」とニボルさんはおっさんっぽい声を上げながらグラス越しに飲んでいる。オウレン先生は優雅に飲みながら、俺たちのお皿へお肉を入れてくれた。前世の俺はすぐに酔っ払っていたため、上手くアルコールを吸収できている二人の姿を見て、単純に尊敬する。単なる好奇心で聞いてみる。


「二人ともお酒は強いんですか……?」

「そうだね、僕とオウレンは強いよー!」

「すごいですね」

「アダムくんも飲むか〜い?」

「兄さん、確かに。アダムくんは前世の年齢を考慮すると二十歳はたちを超えているけど……あっ。今のアダムくんは未成年だからダメよー! ダメダメ〜!」


 すまない。前言撤回ぜんげんてっかいしよう――二人ともすでに酔っ払っていた。その上、ニボルさんは未成年の俺にお酒を勧め始めたが、もちろん丁重にお断りした。

 そして案の定、二人は酔いつぶれて寝てしまった。


 焼肉パーティー閉会後、俺とサラで後片付けをした。お肉はダンボールでまとめて購入したらしいが、全て空になっていた。ダンボールの外箱をよく見てみると、『お肉詰め合わせ2kg』と書いてあった。


(えっ……俺たち4人で2kgもお肉を食べたのか……えっと、カロリー換算かんさんすると……)


 俺が頭の中で消費カロリーを考えている間にサラがダンボールを折りたたんでいた。そして、彼女はそのダンボールを持ってどこかへ行こうとしていた。


「サラ、そのダンボールどうするんだ?」

「今から、倉庫に行って捨ててくる!」

「俺も行く」


 俺がついて行くことに驚いて彼女はこう言う。


「大丈夫だよー!すぐ戻ってくるよ?」

「いや、近場といっても夜中の時間だ。女の子一人で行くのは危ない」


 そう言った後、俺はすぐ後悔した。


(しまった――俺はシラフなのに、サラのことを「」と言ってしまった……)


 でも穏やかな彼女は決して怒ることもなく、「お気遣いありがとう……。じゃあ、一緒に行こう!」と言って、一緒に倉庫へ行くことに。外に出ると、満天の空で綺麗な光景だった。「おぉ……」と思わず、嘆声たんせいをもらした後、俺たちの目の前に流れ星が――俺は心の中で願いを込める。


(研究者として末長く活動できますように……)


 一方、サラは両手を合わせて不思議な願い事を声に出していた。


「生まれ変わったら、異世界転生できますように!」


 異世界転生したいなんて……今の人生に不満をもっているのだろうか。しかし、お互い1回しか言えていない。


「サラ……願い事は3回言わないとダメかも……」

「そうなんだ。でも流れ星を見ることができたから、ラッキーだね!」


 彼女はそう言いながら、倉庫の鍵を開ける。俺がダンボールを持っていたので、一緒に倉庫の中に入り、それを置いた。その後すぐ、ニボルさん家へ戻ろうとしたのだが、ふと彼女は何か思い立ったのだろう。後ろから彼女は、俺の上着のすそをちょいとつかんできた。


「どうした?」

「あの……アダムさんはさ、おじさんたちから聞いたんだよね。ぼくの……その性別とか生い立ちについて……」


 なるほど――さっきの「女の子」という言葉は彼女サラの地雷を踏んでしまったのかもしれない。


 俺はどう回答すれば良いのか珍しく悩んでしまったが、ニボルさんとオウレン先生から聞いた事実について、ありのまま正直話すことにした。

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