第24話 研究者に翼〜激レアな天使族〜

 発表が終わって30分ほど経った。誰かがノックして、俺一人でいる部屋に入ろうとしている。とうとう結果が出るのかと腹をくくる。入ってきたのは一人目の審査員であるオオバコさんだった。

 彼女は「ヤッホー! 発表お疲れさん。結果はこの封筒に入ってるよ」と言って俺に封筒を差し出す。


 (中身見るの怖ッ……)


 そう思いながらも封筒の中に入ってる紙を見る。すると【合格】の二文字が記載されていた。俺は安堵アンドしつつ、渡してくれたオオバコさんに確認してみる。


「ちなみに今回の結果について、俺のことを反対している審査員っていましたか……?」

「いないよー! 満場一致まんじょういっちで合格だよ。もっと自信持ちなよ。そうだ、今回の試験に受かったのは君だけだ。おめでとう。ぜひ同じ研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃとして、この世界を盛り上げていこうねー」


 オオバコさんは握手して俺を歓迎してくれた。確か願書の出願者が60人いて、そこから論文提出で6人まで絞られて……最後の発表で俺一人しか選ばなかったってことなのか。もしかして俺、すごいことを達成したのでは……? 早くオウレン先生たちに報告したいと思い、席から立って部屋から出ようとしたところ、オオバコさんに引きとめられる。


「アダム。君は誰かとこの後、待ち合わせをしてるの?」

「はい、そうですね」

「私ね、これから帰るんだ。だから、君の保護者さんのところまで一緒に行くよー!」

「わかりました……」


 『むかえに来るのは保護者じゃないんだけどなぁ』と思いつつ、俺の三歩後ろを歩くオオバコさんと一緒に、オウレン先生と待ち合わせをした場所へ向かうことにした。すると、オウレン先生が入り口付近で待っていてくれた。


「アダムくん、お疲れ様!」


「オウレン先生……」と俺は悲しそうな顔をしてみる。すると「まさか……」と結果を受け止める表情をするオウレン先生。俺は封筒に入ってた合格証書を取り出して、ニヤリと笑う。


「受かりました」


 そう言いながらピースサインをする俺を見て、オウレン先生は喜んでくれた。そして、温かい言葉をかけてくれた。


「おめでとう! あなたの努力が実を結んで、本当に嬉しいわ。これから将来が楽しみね」


 すると後ろから俺たちの様子を見ていたオオバコさんが驚いている。

 

「あれー? オウレンじゃん! なんでここにいるのー?!」

「あら……オオバコちゃん、お久しぶりね。アダムくんとはおとなりさんなのよ」

「えっ、そうなの? もしかして、私が前住んでたところにアダム住んでんの?!」

「そうよ。すごい偶然よね。しかも、二人とも研究者とはね」


(えっ。前住んでた人って発明家で、確か俺の愛車バイクことニンニンのメンテナンスをしてくれたんだよな……まさかオオバコさんが?!)


 俺は確認したくなり、二人の会話に割り込んで参加する。


「そうだ! もしかしてあなたは……倉庫に置いてあったバイクを直した方ですか?」

「はっは! ご名答! ニボルおじさんから聞いたのー?」


 こりゃあ驚いた。まさかこんなところで恩人に会えるとは思っていなかったし、オオバコさんだったとは。

 

「はい。しかし、すごいですね……。俺は将来、オオバコさんが直したバイクに乗りたいと思ってます」

「え! 君、今10歳でしょ?! すごい心意気だね、でも後6年経てば乗れるもんね! そうだ。アダムは何かさ、研究者として今後どうしたいと思ってるの?」


 しまった……。つい話を盛り上げてしまい、先ほどの試験の時と同様にまたオオバコさんの質問タイムが始まってしまった。そう思いながらも、バイクを直してくれた張本人なので、本心を伝えることにした。


「俺は研究所を設立したいと思っています。この世界で研究や学問の発展に貢献したいので」

「君、本当にブレないね〜。研究所かぁ……私もさ、研究所を作ってみたかったんだ。しかし、一般家庭出身の私には到底叶えられない。それに今の法律だと、王位一桁の王子様じゃないと研究所などの施設を建てることはできないんだよ」

「えっ! 10位じゃダメなんですか?」


 一桁じゃないとダメとはまたしても理不尽な決まりである。酷すぎる法律に思わず、眉間に皺を寄せてしまった。オオバコさんは「『10位じゃダメなんですか?』って政治家みたいー!」と俺の言葉に爆笑している中、オウレン先生がフォローに入ってくれた。


「あー、オオバコちゃん……。せっかく試験に受かったのに、アダムくんの機嫌が悪くなってるじゃない!」

「めんご〜。でも王族の君なら一桁になれる可能性はゼロではない! ザダ校に入学して、王位戦おういせんで良い評価を出せれば、一桁台に順位を上げることができるのだから。叶えられる夢や希望があっていいことじゃないか」


 久しぶりに聞いた……毎度お馴染なじみのザダ校である。同い年のアンズやサラだけでなく、オオバコさんも知ってる学校だから、かなり有名で王族も多数輩出はいしゅつしているのかもしれない。


(そうだな――次の目標、決まったかも)


 俺はオウレン先生とオオバコさんの前で、「俺はその夢を達成したいので、ザダ校に進学します」と宣言した。

 するとオオバコさんは再び爆笑し始めた。何か面白いことを俺は言っただろうか?


「いやー。本当に君、10歳なの? 芯があるって言うのかな? ニボルさんに通じるものがあるね。それに、研究取扱者の資格を取ったから入学は余裕かもよー!」


 研究取扱者の資格がザダ校入学に有利であることを聞き安心しつつも、あたかも俺とニボルさんが異世界転生者だと知ってそうな物言いに俺は驚く。するとオオバコさんは腕時計をチラッと見て慌て始めた。


「あっ、長話しちゃってごめん! 私、島に戻らないといけないから帰るね! またどこかで会えたらよろしく!」


 そう言って、オオバコさんは近くに置いてあったバイクに乗って、あっという間に消えていってしまった。

 まるで台風のような人だなと思いながら、彼女がバイクに乗って走っている姿を見届けた俺とオウレン先生。オウレン先生はポツリと本音を俺に言う。


「オオバコちゃんっておもしろいんだけど、自我が強すぎるのよね」

「まぁ、研究者ってそんなもんですよ」

「確かに……あなたの言う通りね。そうだ! 話が変わるけど、サラちゃんも試験受かったって」

「おぉー。サラ頑張ったんだな」


 俺だけでなくサラも無事に合格できたと聞いて、ホッとする。そして、俺はオウレン先生と一緒に帰りのバスに乗りながら会話を続けた。

 

「今から帰れば、夕飯に間に合うし、今日はみんなで焼肉しようって兄さんから提案があったわ」

「わかりました。キノコもあるんでぜひ。安心してください、俺たちは毒キノコを食べないんで、オウレン先生は好きなだけ毒キノコ食べてください」


「なんて冗談を! 毒キノコって言われるとねぇ……私だってみんなと同じキノコがいいわ!」と苦笑いしながら、俺のジョークに乗ってくれた先生。ふと会話して、素朴に思ったことがあったため、オウレン先生に質問してみる。

 

「またオオバコさんの話に戻るんですが、オオバコさんって人間なんですか?」

「そっか。見た目は人間と同じに見えるよね。でも違うわ、彼女は研究取扱者と同様にこの世界でたった10人しかいない――天使族エンジェルよ」

「えぇー! すごい。10人しかいないなんて。俺はゲキレアな経験ができたってことですね」

「そっ、そうね。あなたも研究取扱者なのだから、ゲキレアな人物よ」


 オウレン先生の言葉が詰まっていたように感じたが……気のせいだろうか。この世界には人間やエルフ族以外にも吸血鬼、天使など多くの種族がいる。まだ明確な違いを理解していないから、これからも他の種族についても知りたい――そう研究者らしいことを思いながら、帰路についた。

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