第22話 同心協力〜試験当日〜

 とうとうこの日が来た――今日は研究取扱者けんきゅうとりあつかいしゃの試験日である。

 

 試験とは言ってもペーパー試験ではない。この試験では、提出した論文の内容について発表する。俺は論文を書き終えたあと、スライドを作成し、発表内容について常に確認していたため、受かる気満々でいた。


 さて、あまり堅苦しい服装が好きではないが、スーツに着替えた。一応、白衣も持っていく。

 試験会場は王立科学院オウリツカガクイン管轄かんかつする施設で王宮の近くなんだとか。試験自体は午前10時からだが、ザダ校前駅こうまええきから電車で3時間ほどかかる。一方、サラの方も今日は剣術検定けんじゅつけんてい1級の審査テストがあるらしく、会場はザダ校内の体育館らしい。そのため、ニボルさんの車でザダ校前駅へ送ってもらうことにした。


 ピンポーンとチャイムの音が鳴る。出発する準備もできたため、玄関に向かってドアを開ける。するとサラが「おはよ! アダムさん。今日は一緒に頑張ろうねー」と明るく挨拶をしてくれた。よく見ると、サラやニボルさんだけでなく……オウレン先生の姿も。オウレン先生も剣術検定を見に行くのだろうか? でもそれにしては、ジャケットを着ていてキッチリしていたため、挨拶がてら聞いてみることにした。


「おはようございます。オウレン先生、どうしたんですか? ジャケット着てるのめずらしい……」

「おはよう。私はあなたと一緒に試験会場へ向かうわ。子供一人で行かせるわけにはいかないでしょう」

「えっ……だい」


 大丈夫と言いたかったところだが、ニボルさんが覆い被おおいかぶさって言う。


「大丈夫! 君がここまで頑張ってきた大切な試験なんだから、何かイレギュラーなことが起きても対応できるようオウレンに案内してもらうことにしたよ。彼女は王立科学院オウリツカガクインに何度か行ったことがあるからね。僕も行きたいところだけど、サラちゃんの応援に行ってくるよ」


(おいおい……どこまでお人好ひとよしで優しいんだ、この一家ニボルさんちは)


 そう思いながらも場所を知っている人物がいるのはありがたいと思い、俺たちはまず4人でザダ校前駅こうまええきへ車で向かうことにした。運転席はニボルさん、助手席にオウレン先生が乗り、後ろの席に俺とサラといった並びである。隣に座っている彼女の様子を見てると、小さなウサギのぬいぐるみをギュッとにぎっている。緊張しているのだろうか。俺はその姿をずっと見ていてしまってたみたいで、彼女にツッコまれる。


「アダムさん、ぼくのこと見てた? 恥ずかしいところ見られちゃった……。ごめん、ちょっと緊張してる。だからにぎってた」


 俺はサラのことをあまり緊張しなさそうなタイプだと思ってたから、そう言われて少し驚く。そして好奇心をいだいた顔をして茶化チャカしながら、彼女に理由を聞いてみる。

 

「……そうなんだ。それをにぎってると落ち着くの? 俺もにぎろうかな」

 

「うん、すごく落ち着くんだよ。ふわふわでさわってると安心するの。はい、どうぞ!」と言いながら、俺にそのぬいぐるみを差し出す。その時に、彼女の手が俺の指に触れ合う。すると彼女はピクッと反応する。


(……あ、手が触れた……)


 俺はふわりと彼女の指が自分の指先に触れたことで、少し動揺する。彼女は男として生きてきて、剣術を極めてきたのだろうけど、手はアンズと同じように女の子の手をしていた。ふと彼女の手の平に視界が入りじっとのぞいたところ、マメができていた。

 

「えへへ。珍しくマメができちゃったんだ。緊張はしてるけど、絶対受かりたくて今日まで頑張ったんだ! 一緒に頑張ろうね」


 俺と同様に彼女も今回の試験で受かりたいんだ。そう思った俺は、彼女が安心感を求めたくなる気持ちを少しだけ理解できたような気がする。

 やはり試験や検定のことを意識しているのもあって、お互いそわそわして落ち着かないながらも無事、ザダ校前駅こうまええきにたどり着いた。


 俺とオウレン先生は車から降りる。すると、ニボルさんが車の窓を開けて、大声で応援してくれた。サラも大きく手を振っている。


「僕たちは行けないけど、ここから応援してるからねー!」


 ニボルさんとサラの温かさにいやされながら、俺はオウレン先生と汽車に乗った。先生からどうやって行くのかレクチャーを受ける。


「アダムくんはこの汽車に乗ったことあるんだっけ? 終点は王宮おうきゅうターミナルってところなの。そこからバスで王立科学院前オウリツカガクインマエというところに行くよ」


……?確かこの世界にバスってなかったはずでは)


 そう思った俺はオウレン先生に聞いてみる。

 

「えっ、バスってあるんですか?」

「そっか。アダムくんって王宮あたり行くの初めてよね! 王宮周辺は交通が発達してるわよ。汽車・電車・バス・自動車となんでもあるの。近くに王立科学院オウリツカガクインがあるから、その研究者たちがたくさん開発してきたのよ。遅れそうになったら、タクシーっていう選択肢もあるから。やっぱり都会は良いわよねぇ……」

「へぇ。都会と田舎でそんなに差があるんですね……」

「そう思うでしょ? でも格差が離れすぎるのも良くないってことで、あなたが住む前にいた前の隣人おとなりさんが田舎の方にも道を作ったり、いろいろ開発し始めたのよ」


 なるほど、それは初耳だった。この感じだと俺が16歳ぐらいになる頃にはバイクや車が普通にとおってるかもしれない。

 その後、汽車で自分の書いた論文を確認しつつ、汽車を降りてバスに移動してからはオウレン先生と話しながら無事――王立科学院オウリツカガクインの入り口に辿たどり着いたのである。


 先生は近くのカフェで待ってくれるらしい。発表時間が30分で、発表を終えて30分後には合格か不合格が判明するらしい。そのため、オウレン先生と「午前11時ぐらいに入り口で再度集合しましょう」と約束をした。わかれる前にオウレン先生は微笑ほほえみながら、俺に声をけてくれた。


「アダムくん、あなたなら大丈夫。行ってらっしゃい」


 こうして俺はオウレン先生から激励ゲキレイの言葉を貰って、会場に一人で入った。そして今、『審査員しんさいんからこのデータについて深く質問されたらどう答えようか……』と緊張感を感じつつも、挑戦に対する決意を新たにした俺はノックして部屋に入った。

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