第20話 百人力の名人と竹馬の幼馴染

 翌朝、ランプ市長のおじいさんが紹介してくれた人物がニボルさんのご実家にやってきた。その人物はキノコ取り名人として、毎日早朝から欠かさずキノコを採取しているんだとか――エルフ族の中でも有名らしい。いかにも山登りが好きそうなおじさんという感じである。

 早速、俺のことを見て泣いている。なぜだ?


「いやぁ……感動するなあ。エルフのみんなはキノコが大好物だけど、キノコ自体に興味を持つ人は少なくてなぁ〜。エルフ以外の種族でキノコに興味を持っている子がいるなんて。しかも少年だ! こんな嬉しいことはないね。未来は明るい!」


 そう言いながら、彼はリュックから大量のキノコを俺に提供してくれた。


「ランプ市にある全種類のキノコを持ってきたよ。俺はエルフだから、毒の区別まではできないんだ。ぜひ調べてみてくれよ!」

 

 なんと全部取ってきてくれただけでなく、持ってきてくれたのか……。すごい、この人こそキノコ伝説の絵本に登場してもいいんじゃないか? 「助かります……ありがとうございました」と言って、俺は去ろうとしたが、名人が遮って話を続けた。

 

「待ってくれ! キノコ以外にも役に立つと思って、地図を持ってきたんだ。この地図に採取したキノコの画像を貼ってるから参考にしてくれよ〜」

「えっ……神ですね」


(女神様以外にも神っていたんだ……)


 一歩先のことまで見据みすえている名人に思わず感動してしまい、神認定かみにんていしてしまった。


「ダハハ! 神だなんて……君は面白いな! またわからないことがあったら、気軽に言ってくれよ! 俺はこれからキノコを探してくる!」


 名人は本当にキノコのことが好きなのだろう。リュックを持って、いつの間にか消えていた。


 昨日たまたま温泉に行っただけだが、市長と名人に会えたおかげで論文提出までスムーズに進みそうだと思った。

 実のところ、キノコの種類を探すだけでなく、場所を特定する作業を行うだけでも1~2ヶ月はかかると踏んでいた。最悪提出に間に合わないかもしれないと想定しながら活動していたから、この作業が減るのは大いにありがたかった。


 それから俺はニボルさんの車で、ニボルさん家のご実家から自分の家へ帰ることにした。ニボルさんが運転してくれたため、運転中に俺は助手席で寝るわけにもいかないと思い、気になったことを質問することにした。

 

「そうだ、疑問に思ったことがあるんですが……ニボルさんのお母さん、あのランプ市で今までよく毒キノコを食べずに過ごせてたんですね」

「実は僕のおふくろ、キノコが嫌いなんだって……でも僕が作ってくれたものを食べないわけにはいかないと思って、あの時食べてくれたみたい……。お袋に無理させちゃった……本当僕は親不孝だよ……」


 そうだったのか……ニボルさんのお母さん、息子の作ってくれたご飯だから食べたのか。その話を聞いて、ご両親に愛されて育ったんだなぁと微笑ましく思えた。実際、ニボルさんは実家をよく行き来しているから、家族仲がとても良いのだろう。


「ニボルさん。話を振った俺が言うことじゃないかもしれませんが、落ち込まないでください。二人とも元気になったから、良かったです。それにご両親はニボルさんのこと、大切な息子さんだと思ってるんですよ」

「えっ、本当に?! そう言われると嬉しいなぁ〜。ありがとね、アダムくん」


 二人で話しながらも、運転途中でニボルさんがトイレに行きたいということもあり、休憩することにした。ニボルさんが休憩場所で選んだところは俺が幼少期に通い詰めてた図書館だった。俺は思わず驚き、ニボルさんに聞いてしまった。

 

「ニボルさん……ここって」

「いやぁ、例の図書館長になった彼へ久しぶりに挨拶をしようかなと思ってね。あっ、トイレも借りるよ! アダムくんも行かないー?」

「そうですね、せっかくなので行きます」


 車から降りて、図書館内に入った。図書館長のおじさんは……残念ながらいなかった。受付さんに聞いたところ、有給休暇中らしい。俺たちはトイレを借りて、また出発しようと車の方へ向かおうとした。すると、俺と同い年ぐらいの女の子たちが車の周辺に群がっている。ニボルさんは「ごめんねー」と言いながらドアを開けていた。


(そうか。車ってこのあたりだと全く通っていないから、物珍ものめずらしいのか……)


 ふとその女の子たちの顔を見ていると、知ってる子が一人いた――アンズだった。

 たまたま助手席近くにいるため、ドアを開ける前に一応本人なのか聞いてみることにした。


「アンズ……?」

「えっ! アダム?! どうしてここに? もしかして戻ってきたの?」

「いや……。たまたまこの辺りで休憩してたんだ、今から自分の住んでる家に帰るところ。そうだ、俺もザダ校目指すからまた会おうな」


 アンズは「そっか……」と言いながら残念そうな顔をしている。

 俺はドアを開けて車の中に入ろうとしたが、そうだ――この前のお礼をちゃんと言おうと思い、アンズに引き続き話しかけた。


「あっ、この前のクッキーおいしかった。後、手紙も嬉しかったよ。ありがとう」


 俺は彼女の目をずっと見て話してしまったようで、アンズは顔を真っ赤にしていた。


「私も……今日アダムに会えて嬉しいよ。また会おうね!」

 

 ちょっとしたやり取りをした後、俺は彼女にバイバイと手を振って、ニボルさんと再び出発することになった。早速ニボルさんが俺に話しかけてくる。


「アダムくん。さっきの女の子は誰なんだい? 知り合い?」

「あぁー。彼女は幼馴染で、幼稚園からずっと同じ学校に通ってたんです」

「へぇ……!」


 ニボルさんはアンズのことが気になるらしく、ずっとアンズのことを質問してきた。まぁ、「幼馴染です」と回答するしかなかったのだが……。

 

 そうして、俺たちは無事に自分たちの家に戻ったのである。その後、俺はエルフ保護地域内であるランプ市の毒キノコと通常のキノコを見分けるために、キノコ取り名人からいただいたキノコ全12種類の形状、色、環境条件などの特徴を徹底的に調べることにした。

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