第18話 三者面談(2) ※ニボルさん視点
「兄さん……本当のことを言わなくてよかったの?」
つい妹のオウレンが本音をこぼした。
僕は言葉を選びながら話を始める。
「そうだね。アダムくんは僕と同じ異世界転生者であるから……とても信頼している。でも、今は言うべき時じゃないと思ったんだ。なぜなら、アダムくんは王族の子だ。本当のことを言えば、サラちゃんが王宮に連行されてしまうかもしれない。王宮はかなり大変だったと聞いたよ――レンゲから。僕だけでなく、サラちゃんも今のままでいいって言ってるし、君だって……そう思うだろう?」
レンゲはサラちゃんのお母さんのことである。彼女はもうこの世にいない。元々貴族出身だった彼女は王族の
それに、彼女はその結婚相手である
しかも、亡くなる直前『娘には同じ目にあって欲しくない』と言って、この世を去ったのだから、相当キツかったのだろう。
(しまった……。レンゲのことを思い出して感情的になってしまい、彼女の名前を出してしまった……)
オウレンは僕の話を聞いた上で、同調してくれた。
「そうね。私も同じ意見……王宮は仕事で一度だけ行ったことあるけど、独特な雰囲気だったわ。レンゲ様、大変だったと思う。それにしても、私は今回とっても驚いたよ! まさか第10王子が隣にやってくるとはね」
「僕もだよ。それに……アダムくんは好奇心旺盛で型破りな考えの持ち主だ。だからこそ、慎重にね。でも、彼ならこの不平等な世界を変えてくれる――そんな気がするんだ。僕も彼と同様に異世界転生したものの、この世界を変えることも愛する人と結婚することもできなかった。その上、魔法を使う能力もない無能力者の人間だ。だからこそ、アダムくんには夢を叶えてほしいと思っている」
珍しく自分の本音を伝えた気がする。すると、オウレンが泣き始めた。
「兄さん、そんな風に考えてたなんて……知らなかった。兄さんがそこまでアダムくんを信じてるなら、私も力になりたい。兄さんが叶えられなかった夢……きっと、アダムくんが叶えてくれるわ」
そうだ、オウレンは今日願書を取りに行っていた。彼女もアダムくんのことを信頼しているのだろう。
今後どうなるかなんて未来のことはわからない。でも彼が来てから、僕たち一家は大変なことがあっても楽しく乗り越えてきた。サラちゃんもアダムくんのことを信頼している。それで十分じゃないか――そう考えた僕はオウレンをずっと悲しませる訳にはいかないと思い、この話題を終わらせた。
そして「僕たちは今日も一日頑張ったね」とお互い褒め合いながら、ビールを飲むことにしたのだ。
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