第16話 研究者と名乗ったからには論文作業に入れ〜マリ●カートの誘惑に負けました〜
あれから寝たのは――朝の4時過ぎだろうか。
目が覚めて、時計の時間を見ると午後1時を過ぎていた。寝過ぎてしまった気もするが、過ぎてしまったことは仕方ない。サラに借りた絵本を読み切ったので、早速彼女のお家へ出向き、返却することにした。
自分の家を出て、隣のお家――ニボルさん家の庭を見たところ、ニボルさんの車が置いてあった。無事にご実家から戻ってこられたのだろう。しかも、ニボルさん家からワイワイ楽しんでいる会話が聞こえる。
「おじさん、このアイテムすごいよ! 明らかに毒キノコっぽい見た目をしているけど……使うと早くなるねー!」
「そうだね。 このキノコは安全だよ。サラちゃん、見てごらん。またキノコが現れたよ」
「本当だね。このゲームだと吐いたりすることなく、むしろスピードが出せるみたい!」
よく聞こえないが、断片的に聞き取ると……キノコの話をしている様子だった。
(大丈夫なのだろうか? またニボルさん……ご実家で毒キノコを食べて、体調を崩した?)
ワイワイしてるから大丈夫そうとは思った。しかし様子が気になったため、玄関からではなくリビングの窓から「失礼しまーす」と挨拶したが、気づいていなさそうである。仕方がないため、俺は窓越しから二人の様子を見ることにした。
すると……どうやら二人はゲームをしていたみたいだ。毒キノコで体調を崩している気配は全くなく、元気そうである。
話から推測するに……キノコが出てくるゲームで遊んでいたようだ。
(あんな辛い目に遭っても、キノコが出てくるゲームで遊べるとは……二人とも切り替え早いな)
ふと画面を見ると、この世界のゲームではなく、かつて俺やニボルさんが生きていた世界では、とても有名なレースゲームで遊んでいた。ニボルさんだけでなく、サラも積極的にキノコのアイテムを活用していた。俺もあのゲームは好きだった――やりたい。でも、論文書かないと。
そう
すると二人が同時に俺のところまで来てくれた。サラはゲーム用のコントローラーを持っていた。
(なっ……懐かしい)
ついつい心が揺さぶられる。しっかりしろ俺、誘惑に負けんな……。
「アダムくん、いらっしゃい〜! 昨日はありがとね。サラちゃんの対応だけでなく、オウレンの話し相手もしてくれて」
「そんなお構いなく。そうだ、これ返却しにきました……すみません。ゲーム中お伺いして。失礼しました。では」
絵本を返した後、チラッとサラが持っているコントローラーを別れ際に再度見てしまった。その様子を彼女は見逃さなかった。
「そうだ、アダムさん。一緒にゲームする? アダムさんの好きなバイクもあるよ」
なんて絶妙な誘い方をするんだ……俺は断れなかった。
ニボルさんたちと3人で、オウレン先生が帰ってくるまでずっとぶっ続けで遊んでいた。なお、ニボルさんは強かった。かなり手慣れている。サラは強運で、良いアイテムを仕入れて勝ち取っていた。俺はボチボチだった。
そして夕方――オウレン先生が帰ってきた。
「ただいま、アダムくん! 願書を手に入れたよ」
なんと先生は手元に願書を持っていた。今日中に回収してくれたらしい。俺とサラで先生のところに向かう。
「先生、ありがとうございます。すみません、ちょっと遊んでました」
(嘘である――数時間遊んでいたけど、許してくれ!)
さすがに……俺の心の声は先生には届いていないようで、むしろ怒られることもなく、歓迎してくれた。
「あっ、大丈夫よー! いつでもウェルカムよ〜」
「オーちゃんおかえりなさい! 今日ぼくとおじさんで、カレーを作ったんだ。アダムさんも一緒に食べよう?」
「サラちゃん、いい案ね。アダムくんもご一緒にどうかしら?」
いつも晩御飯をいただいて申し訳ない……と毎度のように思ってしまう。でもカレー食べたいし、この後ニボルさんとオウレン先生の三者面談を開催する予定ではあるし……一応確認して聞いてみることにした。
「その……いいのか? カレーも好きだが、いつもいただいてばっかりで申し訳ない……」
「うん。アダムさんはぼくにとって大切なお友達だから、遠慮しなくていいんだよ! なんとね、今日は普通のカレーじゃなくて、焼きカレーなんだよ!」
「焼きカレー?」
(すごい、これもニボルさんの郷土料理なのだろうか?)
「そっか、アダムくんは初めてかい? カレーライスの上にチーズと卵をのせて、オーブンで焼くんだよ! 美味しいからね〜」
そう言いながら、オーブンにお皿を入れ始めたニボルさん。
焼き上がるまで、15分ほどかかるらしい。
その待ち時間中で、オウレン先生が取り寄せてくれた願書を確認することにした。先生が大まかに解説してくれた。
「えっと、試験日は今から3ヶ月後ね。それで申し込みと論文提出が、それぞれ1ヶ月後と2ヶ月後だから……とりあえず今日のうちに申し込みの書類を書いてもいいんじゃない?」
「そうですね、とりあえずご飯食べた後に書き終わらせます」
「せっかくだから、私がダブルチェックで確認するよ」
「助かります」
焼きカレーができるのを楽しみに待ちながら、先生と二人で願書を隅から隅まで読み解くことにした。
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