【謎解き解明編】

第12話 食中毒〜毒キノコ事件〜

 新居に来てから数週間経ち、俺は庭管理をするようになった。嬉しいことに、俺ん家の庭内でナツメの木があったため、高麗人参茶コウライニンジンチャに乾燥ナツメを入れて飲んだりといろんなアレンジを楽しんでいる。

 ふと隣のニボルさん家を見ると、車を出している様子であった。どこかに出かけるのだろうか?

 

「アダムさん、おはよー!」

 

 明るい声がする。サラの声だ。

 

「おはよう、これから出かけるのか」

「うん、ぼくは今から剣術教室での習い事とお食事会。ぼくを教室に送った後、おじさんはご両親を迎えに駅の方へ行くんだって。つまり、今日の午後から、おじいちゃんとおばあちゃんが来るって感じだね」

「そうか、習い事してるのか。剣術は楽しいか? 」

「楽しいよ! 最初は怖くて泣きながら通ってたけど、今はワクワクしながら通ってるよ。今日は食事会もあるから、とても楽しみ。あっ、時間ギリギリかも! 行ってくるね」


 そう言ってサラは車が来たのか、助手席のドアを開けてシートに座る。その際、運転席にいたニボルさんが挨拶してくれたので、俺は軽く会釈した。そして、ニボルさんはドアがちゃんと閉まっているのかを確認してから出かけて行った。


 剣術というのは、前世でいう剣道みたいな感じなのだろうか。確かに、サラは木刀の入った袋を肩掛けしていた。やはり習い事っていう概念はこちらの世界にもあるそうだ。アンズも歌のレッスンに通ってるって言っていたのを思い出した。


(しかし、気になるな……ニボルさんのご両親)

 

 少し興味深いとは思っていたが、せっかくの家族の集まりを邪魔する訳にはいかないため、会えたらラッキーぐらいな気持ちでいることにした。

 

 この時はまさか会うどころか、対処することになるなんて思ってもいなかったが……。


 

 

 俺は珍しくリビングで、本を読みながら昼寝をした。目を覚まして、カーテンを開ける。すると、ニボルさんとニボルさんのご両親の後ろ姿が――ニボルさんは両肩に食材がいっぱい詰まったカバンを抱えている。ご両親は二人とも帽子を被っていたため、人間もしくはエルフかわからない。この後、ニボルさんがおいしいご飯を作るのだろう。

 

 しばらくして、サラが通るのを見た。ニボルさんのご両親とも仲が良いのだろう。ニコニコしながら、自宅に戻る様子を目撃した。

 

 それから5分後――玄関からチャイムが鳴る。

 

(珍しい。今日、ニボルさん家は団欒だんらんしてるだろうし、誰だ?)

 

 玄関を開けると、そこには「うぅ……」と号泣しているサラの姿が。わずか5分の間に何が起きたのか。


「どうした、何があったのか話せる?」

「おじさんたちが突然倒れて嘔吐してるの。もう何度も吐いてるし、今すぐにでも助けが必要なんだ。どうしたらいいのかわからなくて……」

「わかった。とりあえず現場に行く」

 

(泣いて俺に助けを求めるとは……そんな大変なことが起きてるのか?)


 状況を見ないとわからないため、二人で急いでニボルさんたちのところに向かう。すると、ニボルさんとニボルさんのお母さんが横に倒れていた。何回も吐いたせいか、顔色が悪い。ニボルさんのお父さんは吐いていなさそうだが、どうすればいいのか混乱している様子であった。とりあえず、サラにお医者さんと連絡を取るよう伝える。彼は「わかった!」と即答して、連絡を取り始める。一方、俺はこの状況を整理する。

 

 不思議だ――何が原因でこのような症状が2人に現れている?

 

 2人に当てはまることを挙げてみる。ニボルさんとニボルさんのお母さんは人間で、お父さんはエルフだ。つまり、この症状が出ているのは人間のみ。ただし、サラにはこの症状が出ていないから、即時の感染症ではなさそうだ。何か特定できる情報がないか、聞いてみるしかない。

 

「ニボルさんのお父さん、2人が吐き始めたのはいつからですか?」

「サラちゃんが戻る直前だよ、だから10分前ぐらいだ」

「わかりました。えっと、誰か体調が悪かったり、風邪をひいている方はいましたか?」

「いや、いないね」


 うーん。何か決定打があればいいんだが、わからない。俺が自宅で窓越しから見てた時は元気そうだったもんな……いや、そういえば、あの時大量の食材を持ってたよな?


「そうだ、ニボルさんのお父さん。昼ご飯はいつ頃、食べましたか?」

「あぁ、それなら今から1時間前に」

「えっと、何を食べました?」

「ナスとキノコの炒め物を食べたよ。あっ、ここに残ってるのあるけど……」


(ふーん。キノコねぇ)


 俺はその食材を聞いて、ふと点と点が線になった――要するに、何が原因か特定できた気がする。ちょうど同じタイミングでサラが俺に状況を報告してくれた。


「アダムさん! オーちゃんが10分後にはこっちに来てくれるって」

「了解。断定はできないが、ニボルさんたちに出ている症状で、俺は疑っている食材がある」


 そう言って、俺はメガネの両端に手を当てて魔法を唱える。


「女神様、防護手袋を!」


 唱えてすぐ現れた防護手袋をはめる。そして、その手袋をつけたまま、炒め物に入っていたキノコを回収する。俺は医師であるオウレン先生が来る前に、キノコについて確かめたいことがあったため、双方へ指示を出すことにした。

 

「ニボルさんのお父さん。オウレン先生が来るまで、奥さんとニボルさんのサポートをしてください。後、炒め物は絶対に食べないでください! サラ、俺を暗い場所まで案内してくれないか? このキノコの特徴が見られるかもしれない、確認したいんだ」

「わかった! 案内するよ!」


 サラが案内してくれた場所は、広いクローゼットだった。確かに、ここなら真っ黒だ。二人でクローゼットの中に入る。すると、キノコのひだが発光した。サラは初めてみたのだろう、さっきまで泣いていたが今は泣き止んでいて、発光に驚いている。

 

「何これ……すごい! キノコが光った?」

「そうだな。正確に言うと、このキノコは光る成分を持ってるんだ。まぁ、こういうキノコって大抵毒キノコなんだけどな」

「えぇ?! じゃあおじさんたちは毒キノコを食べちゃったの?」

「うん、そういうことになるな。まだ断定できないが、治療法は吐くのを催促するとかになるんじゃないかな? 一応、この方法以外にも確認方法があるから、調べてみる。このお家には実験室みたいな部屋はあるか?」

「あー、実験室はないけど、オーちゃんが研究用に使ってるお部屋――医務室ならあるよ。行こう!」


 そこでなら作業ができそうなので、医務室らしき部屋に移動する。欲しいと思う数種類の試薬をイメージしながら、唱える。

 

「女神様、試薬を!」


 すると、自分が欲しいと思っていた試薬たちがズラって並んでいる。女神様のお力なのだろうか……とても助かる。


(よし、これなら2つの方法で試すことができるぞ)


 サラは親切心で「手伝うよ」と言っていたが、火傷させてはいけないため、作業自体は俺だけで行う。

 しかし、あの現場に戻って、ニボルさんたちの症状を見るのは10歳の子供にはつらいだろうから、キノコの色が変わっているか2人で確認することにした。ちなみに、食べても大丈夫なキノコだと色が変わる。


 方法1は試薬を混ぜてよく溶けるまで撹拌かくはんしてから、キノコのヒダに塗る。こちらは、数分後に色の変化が起きるから、ちょっと放置することにした。

 その間に方法2を行う。医務室に置いてあった水に試薬を入れ、固形の香料を追加して混ぜたものを先ほどと同じように、ヒダへ塗った。

 サラもワクワクしながら、俺が実験している様子を見つめている。そして思ったことを率直に述べてくれた。

 

「アダムさん。5分ぐらい時間が経ったけど、どちらのキノコも色が変わらないよ〜」

「そうか……でも、これではっきりわかった。ニボルさんたちが食べたのは――毒キノコだ!」


 二人で原因を特定できた瞬間、「戻ったよー!」と女性の声が聞こえる。


「オーちゃんの声だ!行こう、アダムさん」


 俺たちは急いで、オウレン先生の元へ向かい、毒キノコによる症状だと伝えた。そして先生は当てはまる治療方法が分かったのだろう――冷静かつ迅速に処置したみたいで、2人とも翌日には回復したそうだ。


(しかし、なんでニボルさんのお父さんは平気だったんだろう……エルフだからか?)


 エルフ族の生態について、ちょっと気になるアダムであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る