第11話 初手紙と初エルフ

 俺はサラと一緒に、今日から住む家へ移動した。意外と家の中は綺麗に管理されていた。ベッドや家電が置かれているし、平屋で階段を使わなくていいから楽だ。そして、前に住んでた住民こと女性発明家の個性が活かされているのか、奥の部屋は実験室だった。これは嬉しい。

 家の作りが俺好みであるというメリットもあれば、デメリットもある。それは立地だ。

 立地が良いかと訊かれれば、答えは満場一致でNOだ。なんたって、この辺りにはニボルさんたちの家と俺の家しかない。近隣に小学校・中学校もないため、俺とサラの場合、通信教育を受ければ卒業できるんだとか。自分の家で好きな時間に勉強できるから、めっちゃいい制度だ。こう考えてみるとデメリットではなく、むしろ好都合だな……。だって両親も家にいないから、実質一人で自由に研究もできる。

 この家を購入した自分の父親を生まれて初めて尊敬したかもしれない。こんな辺鄙へんぴなところにある家をなんで買ったのか――父親の本心については全く理解できんが。


 新しい環境ということもあり、ごちゃごちゃ考えてしまったが……結論を出そう。


(異世界最高だぜ!)

 

 そんな感じで良い気分になったため、今のうちにリュックを開けて荷物を整理しようと思っていたら、サラが俺のところにやってきた。


「ぼくも手伝うよ!」


 俺は彼のご厚意に甘えて、二手に別れて作業を開始した。俺が壊れやすい実験道具類をお気に入りの実験室に運び、彼には扱いやすい書籍を寝室に運んでもらった。リュックの中身を全て取り出した後、お別れの時にアンズから貰った紙袋の中身を開けてみると……手紙が入っていた。


(そうだ、『家に着いたら読んでね』って言ってたな)


 ふと内容が気になり、読んでみることにした。


『アダムへ クッキーおいしかった? 今まで一緒にいて楽しかったよ。小さい時、助けてくれてありがとう。アダムは私にとって、かっこいいヒーローです。また、大きくなったら同じ学校で会えるとうれしいな。元気でね! アンズ』


「かわいい……」


 しまった、つい本音が声に出たようだ。アンズの心優しさがみて、俺はずっと手紙を持っていた。すると、いつの間にかサラが隣でのぞき込んでいたみたいで、目をキラキラさせている。


 さっきから思っていたことがある。この少年……誰かに似てるんだよなぁ。でも彼のような肌が白くて、黒髪青目の美少年に前世だけでなく、この世界でもまだ会ったことないから、気のせいだと思うことにした。

 彼も手紙を読んだのか感想を伝えてくれた。

 

「わぁ、可愛らしい手紙! アダムさんのこと、大切に思ってるんだね。それにしてもまた同じ学校で会いたいって……なんだかロマンチックじゃない? とても素敵〜!」

「また同じ学校で会いたいか……例のザダ校のことか」

「あっ、ザダ校なの! あそこは最難関らしい。でもぼくもその学校に行きたいと思ってた。なんでも学べるし、人間以外の種族や王族の人たちも通うって聞いたことがあるよ」


(ふぅん……俺以外の種族や王族がいるのか。見たことないから、会ってみたい気もする)


 俺はサラが教えてくれた情報に耳を傾けながら、荷物の整理を完了させた。二人とも動き回ってお腹が空いていたので、ニボルさんの家でふぐの唐揚げを食べることにした。いやぁ……異世界でも食べられるとは思っていなかった。久しぶりの食感で、とても美味しかった。

 そしてふぐの唐揚げを食べ終わった後、流石に人様のお家でずっと長居するのは失礼だと思い、帰ることにした。しかし、戻る直前にニボルさんが「晩御飯用に食べてね」と俺分のだんご汁を用意してくれた。ちなみにだんご汁だが、前世でニボルさんのご両親が九州出身だったらしく、そこの郷土料理らしい。サラには醤油味の作り方を教えたそうだが、ニボルさん自身は味噌味も作れるらしく、味噌味でいただいた。その場でお礼を伝えた後、俺は自宅に戻り、すぐに研究室へ潜り込んだ。


 

 さて……自分しかいない家なので、自由だ。

 

 せっかくだし、この前採取した『高麗人参コウライニンジン』を使って茶でも嗜むか。

 俺はすぐ行動を起こす。水を沸騰させてから、弱火に切り替えて、高麗人参を入れる。ふとアイデアが浮かんできた。

 

(そっか、これに乾燥したナツメとか入れてもおいしいんだよなぁ。この家の近くにないかなあ?)


 そう思いながら、今回は入れずに煎じた茶を飲む。


(うん、この苦み! かつ、この独特な感じ――たまんないな〜。生きてるって感じだ。とても疲れが取れる。でもナツメを入れて飲んだら、もっとおいしいだろうから、ちょっと庭に植えてないか見てみるか)

 

 こういう時、魔法で出せるといいんだろうけど、植物や動物といった生き物を取り出すことはできないらしい。無機質なモノで自分より軽いものしか出せない。

 

 まぁ、嘆いても仕方ない。


 茶を飲み切ってから外に出たところ、夕暮れに染まっていた。庭の方へ回ろうとした瞬間、一人の女性がこちらにやってくる。


「あら、あなた。昨日大変だったでしょう……体調はどう?」


 その女性は右腕に脱いだ白衣を持っており、背はニボルさんと同じぐらいだろうか――170cmぐらいはありそうだ。なかなか高身長である。ふと女性の顔を見ると、シルクのようなクリーム色のロングヘアから、尖った耳が見えていた。思わず声に出してしまう。


「耳がとがっている……」

 

「そうね、この尖った耳はエルフの特徴よ。エルフ族に会うのは初めてかしら?」と彼女は微笑みながら返事をしてくれた。


 俺はエルフ族と初めての遭遇ということもあり、顔には出さないものの内心では驚きや興奮を隠しきれなかった。


(エルフが実際にいるなんて信じられない! でも、ここは異世界だ。絵本で読んだ通り、エルフ族って存在するんだな……)


 一方、エルフ族の女性は俺の様子を気にかけるだけでなく、蜂に刺された後の状況についても教えてくれた。


「庭に出てどうしたの? 新しい環境で気になることがあるのかもしれないけれど、まだ病み上がりなのだから、今日は無理しないでゆっくり休んでね。いやぁ……あなたが無事で何よりだし、こうして生きていて安心したわ。あの辺りは蜂が発生しやすいから、兄さんだけでなく歩行者の人たちが蜂に刺されてもすぐに対処できるよう、兄さんの車の中に注射薬と水のストックを用意しておいたの。あなたが刺された直後に、兄さんが駆けつけて注射を打ってくれたから助かったのよ」


 この女性は「兄さん」と言っているが、もしかしてニボルさんの妹ということになるのか? しかし、車の中に前もって予防用のストックがあるとは用意周到だ――そのことも加味して、ニボルさんたちに出会えた俺はとても運が良かった。


「あっ、名前を言っていなかったわ。私の名前はオウレン。兄さんたちと一緒に、隣のお家に住んでいるから、困った時は呼んでね。長話してごめんね……おやすみなさい」


 そう言いながら、彼女は去っていった。


 妹さんも踏まえて、『うーん、不思議なお隣さんだな』と俺は思った。まず、ニボルさんやサラは人間でオウレンさんはエルフ族だから……どういう遺伝の仕組みなのか気になってきた。次に、サラはニボルさんのことを「おじさん」と呼んでいるが、彼には両親がいないのだろうか?

 気になるもののプライベートというか個人的なことだから聞くわけにもいかないのだ。


 それに俺が気になっている真相については訊かずとも、後日判明していくのであった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る