第13話 毒茸を以て毒茸を制す
あの毒キノコ事件から2日後――俺は今日も庭管理をしながら、海を眺めていた。すると、後ろから何か声がする。
「アダムくんー!」
ニボルさんの声だった――顔色は良さそうだ。前回お会いした時は毒キノコを食べていたこともあり、真っ青で死にそうな顔をしてたから、だいぶ回復したのだろう。
「この前はありがとね。オウレンが感心してたよ、君は頭が切れるってさ」
「いえいえ、俺は何もしてません。オウレン先生が適切な治療をしたので助かったんですよ、ご無事で何より」
「えへへ。オウレンすごいよね。そうだ! 助けてもらった直後で申し訳ないんだけどお願いごとがあるんだ。明日なんだけど……」
話を聞くに、明日ニボルさんは車でご両親を実家に送る予定だが、片道3時間はかかるらしい。そのため、向こうで一泊したいそうだ。ちなみにオウレン先生も仕事で不在ということで、サラがお家で1人になってしまうから、先生が戻ってくるまで一緒に居てほしいとのことだった。例の毒キノコ事件で疲れが出たのか、サラ自身体調が優れないらしい。
(そりゃあ、いつも元気な人が真っ青で死にそうな顔をしてたら、ビックリするよな……)
「大丈夫ですよ。それじゃあ、明日はニボルさん家にお邪魔します。その代わり、俺も知りたいことがあるんです。エルフ族に関する書物を持ってたりしませんか?」
「本ならいっぱいあるから、明日までに整理しとくね。そっか……アダムくんは、エルフに会ったのオウレンや親父が初めてなんだっけ?」
「そうです。この前ニボルさんのお父さんだけ吐いてなかったから、気になったんです」
「あぁ……あのキノコ、実は僕の両親が近隣の農家さんからいただいたんだって」
(はぁ? 毒キノコを提供する農家がいるのか……)
信じられない。ニボルさんご一家の断れない性格を利用して、毒キノコを提供するとんでもない輩がこの世にいるとは――勢いよく警告する。
「え、それは危険じゃないですか。下手したら死にますよ?」
ニボルさんは俺の顔が怖かったのだろうか? 驚いて、やや引き攣っている。でもすぐに教えてくれた。
「君がそういうのもよくわかるよ、僕も本当にキツかったから。えっとね、僕の実家はエルフしか住んでいない地域なんだ。お袋は人間だけど、親父がエルフだから特例でエルフ保護地域である【ランプ市】に住んでるんだ。そのキノコさ、僕たち人間にとっては毒だけど、エルフの人たちは支障なく食べられるらしい……不思議だよね」
そうか、人間とエルフで仕組みが違うのか……面白いな。明日、エルフの歴史本とかあれば読んでみるか。何かわかるかもしれないし、何より考えるのが楽しくなってきた。俺はワクワクしながら、明日に備えて早く寝ることにした。
翌朝、俺はニボルさん家にお邪魔する。
ニボルさんとご両親は出る前の準備に追われていた。ご両親からも「あの時は助けてくれてありがとう」と感謝のお言葉をいただいた。ニボルさん家はみんな親切心に溢れている。なお、エルフ族に関する書物がテーブルの上に置かれていたため、早速ニボルさん家のリビングルームで読むことにした。ふと気になったことがある。
(あれ、サラは起きてないのか?)
俺がキョロキョロ様子を見ていたのに気付いたのだろう。ニボルさんの方から教えてくれた。
「サラちゃんのことを探してるのかい? まだ寝てるみたい。ちなみにエルフに関する絵本であれば、サラちゃんの部屋にあるから、必ずノックしてから入ってね」
ふぅーん。ニボルさんはサラのこと、「サラちゃん」って呼ぶのか。やっぱり可愛い子なんだな。目や髪の色がご両親やニボルさん、オウレン先生と違うから、血は繋がっていないのだろうけど……。
「アダムくん。僕たちはそろそろ出発するよ、ゆっくりしていってね」
「あっ、わかりました」
ニボルさんはご両親を乗せて車で出発した。3時間も運転ってなかなか大変そうではあるが、ドライブ好きなんだとか。いいなぁ、俺もバイクに乗りたい。早く16歳になりたいものだ。
そう思いながらも、とりあえずテーブルにある書物を読み始めたところ、早速エルフ族について興味深い内容が記載されていた。
『エルフ族は森林の守護者と言われており、キノコが主食です。どんなキノコでも食べることができます。キノコを食べることで自然の力を授かり、森を守ってきたというエルフ童話はとても有名です。小児向けの絵本で読むことができます』
この内容を元に、自分なりの仮説を立ててみる。エルフ族が元々、特異な消化器系もしくは特定の毒素を分解できる酵素を持っているから、人間には有害なキノコでも食べられるってことなのだろうか? うーん……どうなんだろう。断定はできないから、絵本でも読んでみるか。
(そうだ、絵本はサラの部屋にあるって言ってたな。まだ寝てるのか? 9時を過ぎたから、起こしてもいいだろう)
そう思い、二階にあるサラの部屋へ行く。ノックしたが、反応がない。寝ているのだろうか?
しかし、俺は絵本がどうしても気になり早く読みたかったため、「失礼」と言って中に入った。案の定、サラは寝ていた。よくみると、うさぎのぬいぐるみを抱きしめて寝ている……。なんかかわいらしいなと思いながら、近くにある本棚を見てみる。『エルフのキノコ伝説』というタイトル名の絵本を発見した、これだろう。
見つけたため、すぐにリビングに戻って、入手した絵本を読むことにした。
そこから一時間後、サラがパジャマ姿のままリビングにやってきた。俺が読んでいる本を覗き込む。
「アダムさんだ。おはよう、おじさんたち行ったんだね。あれ? 絵本読んでるの珍しい〜!」
「おはよ。そうだ、この本借りてもいいか? さっき、サラの部屋に入って本を取ったんだ」
「えっ、そうだったの……ぼく寝てたから気づかなかった。だっ、大丈夫だよ」
なぜか顔を真っ赤にしている。つい体調が気になり、サラのおでこに手を当ててみる。俺の手がひんやりしてたのか、驚いて少女らしい声を上げる。
「ひゃあ!」
「大丈夫か? 顔が赤いけど、熱はなさそうだな」
「うん、熱はないよ。その……うさぎのぬいぐるみを持って寝てたこと、他の人には内緒にしてね」
あぁ……そういうことか。いかにも、年頃の男の子らしい内緒事である。
「もちろん、内緒にする。誰にも言わないから、安心して。うさぎのぬいぐるみ、いいね。俺も小さい頃は、好きなものがあったな……」
「いいのー? ありがとう! うさぎかわいいよね。ちなみに、アダムさんは何のぬいぐるみを持ってたの?」
「そうだな、イルカのぬいぐるみを持ってた。妹と一緒に揃えてたんだ」
「えっ?! アダムさんって、妹がいるの?」
ハッとする。俺は今何を考えてた――この世界に妹はいないが、前世の俺には大好きな妹がいた。しかし、彼女は白血病を患ってしまい、17歳で亡くなった。あぁ……かなり経ったんだな。
「ごめんね、アダムさん。言わなくていいから、悲しい顔しないで……」
悲しい顔をしているつもりではなかったのだが、サラは俺の心情に気付いたらしい。
「大丈夫だ、サラ。それに、今の俺は一人っ子だよ。ニボルさんから聞いてるかもしれないけど……。この世界に住む前、住んでたところがあるんだ。そこでは、妹がいた」
「そうだったんだ……教えてくれてありがとう。妹さん、アダムさんみたいなお兄ちゃんがいて心強かったんだろうなぁ。あっ、ぼくも心強いよ! 話が変わるけど、本以外にも学べるツールがあるよ。このパソコンとか自由に使っていいよ!」
「へぇ……パソコンがあるのか、早速使ってみてもいいか?」
「うん、色々調べてみようよ」
そうだ、目的を思い出した。エルフ族と人間の違いを知りたかったんだ。二人でパソコンの前に向かい、調べてみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます