第9話 一に養生、二に朝食
目を覚ましたところ、俺は知らない場所にいたが、ふかふかのベットで寝ていた。
(あれ……。蜂に刺された後、ニボルさんと会ったんだよな? )
ぼーっとしながら、この部屋に辿り着くまでの記憶をたどってみることにしたが……。
うーん、思い出せない。すると誰かがドアを開けて入ってきた。
「あっ、良かったー! 起きたね、おはよう。元気? 」
俺と同い年ぐらいの男の子が透き通った青い目をキラキラさせながら、俺の近くにやって来た。「体調はぼちぼち」と伝える。すると少年は「そっか〜」と言いながら、自己紹介をしてくれた。
「はじめまして。ぼくはサラっていうんだ、よろしくね。おじさんから聞いたよ、蜂に刺されたの痛かったでしょう。一人でよく頑張ったね……」
そうだ! 思い出した……蜂の一撃を受けて、アナフィラキシーショックになったんだわ。俺は生き返ったのか、いや下手したら死んでるかもしれない。
(それに……ここは夢の世界なのか、それとも現実? どっちなんだろう……聞いてみよう)
「君に聞きたいことがある。俺は死んだのか……?」
「生きてるよ! ドクターのオーちゃんがちゃんと診てたから、大丈夫だよ。もしかして……ここが異世界だと思ってる?」
「えっ」
生きていることに
「そうだ! すごい偶然なんだけど、ぼくと君は家がお隣さんなんだよ! これからよろしくね。ここはぼくやおじさんたちが住んでるお家だよ。どういう経緯でここに来たのかについて気になる感じだよね? それは、おじさんたちとお話しするのが一番いいんだろうけど、二人とも今日は昼過ぎまでお仕事があるんだ。あっ、お腹空いてない?」
驚いたことに――なんとニボルさんは俺のことを助けるだけでなく、一晩泊まらせてくれたようだ。親切なお隣さんのおかげで助かったとはいえ、ご飯までいただくのは
「すごい偶然だな……おじさんってニボルさんのことか? 今度お礼を言わないとな。ずっとここにいるのも迷惑だろうから、自分の家に戻るよ。ご飯も大丈夫」
しかし、俺の腹の方は素直で、ギュルルルルルルと大きな音が部屋で響いた。その音を聞いて、少年が思いっきり
「お腹空いてるじゃん! ぼくもまだ朝ごはん食べてないんだ。おじさんに教わったおにぎりとだんご汁を作ったから、一緒に食べようよ〜?」
俺はいつも死んだ目をしているが、「おにぎり」というキーワードを久しぶりに聞いたこともあって、自分の目をキラキラさせてしまった。だって前世の俺は日本人だったから、お米が恋しいし、食べたい。
(それに……まさかこの異世界にもおにぎりがあるとは思っていなかった。後、だんご汁って言ってたけど、味噌汁みたいなものなのか?)
色々と好奇心をくすぐられ、誘惑に負けた俺は少年の誘いに乗った。
「ごめん、
「やったー! そうしよう! 持ってくるから待ってね〜」
少年は嬉しかったのだろう――喜びながらキッチンの方へ向かって行った。
(この少年、すごい――気が効くし、頭の回転も早いし、優しい。しかし、異世界ってワードをなんで言ったのか……気になるな)
そう感心している間に、少年はテーブルに俺の分も含め二人分のご飯を
「おまたせ! 食べよう、いただきまーす! 」
「いただきます」
目の前にある食材を見る。
おにぎりは王道の
「久しぶりのおにぎりだ……。絶対美味しいだろ、この組み合わせは!」
つい本音をこぼしながら、だんご汁を食べてみる。一口食べた瞬間、その豊かな風味に心を奪われる。だんご汁のスープは、深い旨みとコクが絶妙に融合しており、口の中に広がる温かさが心の奥底まで染み渡る。もっちりとした手作りの団子が、鶏肉や新鮮な野菜と相性が良く絶妙なバランスでスープに溶け込んでいる。
そして、おにぎり。口に入れると、ほんのりとした塩味が甘みと絶妙に絡まり、米の一粒一粒がしっかりと味わい深いのだ。素朴な見た目からは想像できないほどの美味しさで、食べた瞬間に『これが本当の美味しさだ』と実感する。
本当は二人で四個だから、一人二個ずつ食べないといけないのに、美味しすぎて気づいた時には三個目のおにぎりを食べていた。時すでに遅し――思わず固まってしまった俺。正直に「君の分も食べてしまった」と事実を伝えた。
「あっ! 美味しくて三個食べたんでしょう、いいよ! いっぱい食べてね。だんご汁の方はおかわりあるから、遠慮せずに……」
「おかわりする!」と俺は思わず、話を遮って即答した。
(あっ。つい先走ってしまった……)
でも少年はそんな俺に対して怒らず、むしろパァと笑顔で返事をしてくれた。
「
俺は自分で取りに行こうと思っていたのだが、少年の方からすぐに動いてくれた。彼は俺の食器を回収して、よそいに行ってくれた。そして俺はお腹が空きすぎていたこともあり、おかわり分のだんご汁もすぐに平らげてしまった。少年はずっとニコニコしながら、話しかけてくれた。
「この組み合わせってホッとするし、おいしいよね。一人で食べるのはさびしいから、一緒にお食事できて……うーん! 幸せだよ〜」
その後、俺は例のだんご汁を追加で2回ほどおかわりした。色々疲れていたんだと思う。
少年の言う通り、だんご汁とおにぎりの組み合わせは、まるで心の奥底からほっとするような安心感と幸福感をもたらしてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます