第15話 大王様と、偶然

「...【亜解凍の魔晶】が...今だに一つも見つからぬ...と?」


 大王様がそう言った瞬間、周りの空気がより凍りつく。


 とある島のとある洞窟の中に、大王様率いる魔族軍の主力が潜んでいた。


 大王様復活前、魔族はすでに崩壊寸前だった。

元々人間の開発した兵器ですら歯が立たなかったのに、魔法を使えるようになった人間に手も足も出ず、防戦一方なため、小さな島で人の目につかないようにひそひそと生活していた。


 しかし、それは大王様復活により大逆転。

現在では大王様に恐れ慄く人間が増えており、情勢は五分、もしくは魔族有利とまで言われていた。


 ...ここまで聞けばまるでいいとこばかりに聞こえるが、言ってしまえばこれはワンマン経営みたいなものだ。


 人間に恐れていたのが、大王に恐れるように対象がすり替わっただけに過ぎないのだ。


 更に静かに楽しく暮らしてたあの生活はなくなり、魔族らしく体力のある限り無限に働かせられていた。


 そして、魔族の中で魔力が最も多かった俺が何故が側近に選ばれて、毎日恐怖に怯えながら生活をしていた。


「げ、現在、魔族軍総出で探しておりまして」と、部下であるメイドリヒが報告を行おうとした。


 次の瞬間、私の足元に彼の頭が転がってきた。


「その話は...1ヶ月前にも聞いた」


 ガタガタと震える体。

それでも私こと、魔界軍司令官【リールリハ】は震えながらも手を上げる。


「...なんだ?リールリハ」と、冷たい視線が降り注ぐ。


「...大王様復活から...約25年...必死に探しておりますが、その痕跡すら見つけられていない状況です...」と、震える声で何とか声を絞り出す。


 次の一瞬に自分が死んでいるかもしれないことを想像しながら、一つ一つ丁寧に言葉を紡ぐ。


「...考えられる理由としては...シエルが隠した場所には...本人...もしくは血縁関係のみ入れる魔法がかけられている...もしくはもっと条件を軽くする代わりに...例えば魔族だけ開かないようにする...など...。だとすれば、我々だけでは探しようがない...ということで、協力してくれる人間を探していました」

「...そうだったな。それで?」と、段々語尾が強くなっていく。


「...1人、協力してくれるものを見つけたのですが、少々気まぐれなやつで...あくまでダンジョン攻略のついでに見つける...と言われておりまして...」


「...」


「が!し、しかし!一つ貴重な情報を入手...いたしました」


「...なんだ?」


 これはもちろん嘘ではない。

が、これを話すことで余計に逆鱗に触れる可能性がある。

これは一か八か...賭けだ。


「...シエルが...復活しました」


 ピキッと、何かにヒビが入るような音が鳴った気がした。


「...それは本当か?」

「...はい。しかし、まだ現時点では肉体は取り戻しては居ない様子でして...残っていたのはシエルの魔力と...人間の魔力が混ざった混成の残穢でした...。恐らく、肉体の復活のために、やつもまた【亜解凍の魔晶】を探していると思われます。...なので、すぐに我々が探すより、まずはその人間を特定し...全てが揃ったところで奪い去るのが最も効率的かと思われます...」


 なんとか、時間を稼ぎをしようとそんな提案をしたのだが、当然気に入らなければそのまま首が飛ぶ。

これは賭けなのだ。


「...全てを揃えられる前に、一つでも我々が保持すればやつは復活しない。全てを揃えた後では、横取りの隙がない可能性もある。違うか?」


 ものすごい正論が顔面を飛んでくる。

ミスった!ミスった!ミスった!

時間稼ぎをしたいがあまりにとんでもないことを言ってしまった!


「も、もちろん、一つでも確保できればそれが最善かと思います...!シエルが集めることで、何らかの手がかりが見つかるかもしれませんし!その間に、媒介としている人間の情報も集めたいと思います!」

「...そうだな。...ククク...。そうか...。奴も復活したのか」と、いつになく上機嫌な模様の大王様。


「...は、はい!そ、それでは私は協力してくれる人間と話し合いをしてきますので...!」と、その場を離れようとしたが、「まて」と言われる。


「...はい」

「...その協力してくれる人間の名前は?」

「...それは」


 それは日本に住んでいる冒険者ランキング上位の人間だった。


 ◇


「...いらっしゃいませ~」と、小さくつぶやく。


 あれから数日、ダンジョンで特訓しながら、そのまま深夜のコンビニアルバイトをして...と、かなり無理な日程を詰め込んでいたせいで、元気が出なかった。


「...あれぇ?元気ないねぇ~。どした?」と、店長がエナジードリンクを片手にバックヤードから歩いてくる。


「あぁ...ちょっと最近ダンジョンに潜りまくってて...」

「そうなの?けど、配信はしてなかったよね?何してたの?」

「ちょっと修行を...」

「修行?僧侶みたいだねw」と、ちょっと茶化したようにそう言った。


 そのまま手に持ったドリンクを渡してくる。


「え?いいんですか?」

「そりゃもちろん。頑張ってくれよ~」と、俺の肩をもみながらそう言ってくれた。


「ありがとうございます」


 そうして、すこしぼんやりとした意識のまま、レジをしていると「あれぇ?元気なくなーい?」と言われて、思わず顔を上げる。


「...あっ」


 そこにいたのは先日の奇妙な出会いをした式波さんであった。


「きゃはwこんなところで出会っちゃうなんて運命?w」と、ヤンデレ感満載の笑みを浮かべる彼女。


「いや...どうでしょうかね」と、やや引き攣った笑みで俺はそう返答した。


 こんな偶然があってたまるか、と内心突っ込みながら籠に入った商品のバーコードをスキャンしていく。


 それにしても...かなり大量だな。

お菓子に、飲み物に、カップ麺...それと...生理用品。


「...いっぱい食べるんですね」というと、「そんなわけないじゃんwこれは私が食べるものじゃないからw」とよく分からないことを言う。


「...じゃあ、だれが食べるんですか?」

「んー?わかんない。寄付のために買ってるだけだからねーw」

「...寄付?」

「そそ。ほら、最近大きな地震があったでしょ?だから、こういうのを寄付してあげようと思ってw」と、意外な一面を見せる。


 といっても、コンビニの商品を寄付するってあるのか?

そこらへんについてよく知らないので、「そうなんですね」と適当に話を流していると、「それは建前で~wちょっとでも長い時間君とお話がしたくて、いっぱい買っちゃったんだw」と、体を乗り出して顔を近づけながらそんなことを言ってくる。


 その目は大きく、真っ黒で、俺を見ているようで見ていないようというか...普通にめっちゃ怖いです!!と、思いながら「そ、そうなんですね」と、眠い目をこすってテキパキと袋に詰める。


「あははwペース上がった~w」と、楽しそうに手をたたきながらそんな様子を見つめる彼女。

まったく...本当に変な人に目をつけられた...。


「...というか、一応言っておきますけど、残念ながら話してるのはシエルさんじゃなくて俺ですからね。シエルさん、この時間いっつも寝てるので」

「知ってるよ~w今日は君と話したくて来たんだからw」

「...はぁ...」と、なんとかすべてを袋に詰めて、レジの会計ボタンを押す。


 すると、合計金額が表示される。


【14,151円】


 公共料金とか抜きでこんな料金見たのは初めてかもしれない。


「...あっwお財布忘れてきちゃったwてへぺろw」と、片目をつむってお茶目に笑う彼女。


 うん...普通にむかつくかもwと、思いながら「...じゃあ、これ置いておくのでお財布取りに帰ってください」と、事務的に処理しようとすると「えーwめんどいなーwお兄さんがついてきてくれたらいいよw」と挑発的なことを言ってくる。


「...それは無理ですね。じゃあ、これ片付けますね」と、袋に詰めた商品を戻そうとすると、「あー!ごめんなさいごめんなさい!わかった!買うから!買う代わりに...バイトが終わったら私の家に来てほしいの~w」と言ってくる。


「...いや...だから「もし...シエルさんを復活させるためのアイテムを持っているといっても...来ない?」と言ってくる。


 思わず手が止まる。


「...本当...ですか?」

「どうだろうね?本当かどうかはついてきたらわかるかも?w」と、いやらしい笑みを浮かべながらそう言った。

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