第16話 はろはろと、忘れ物
「はろはろ~w」と、アルバイトが終わり、裏口から出ると、朝日を背に立っている式波さん。
「...元気ですね」
「まぁねーwそれが取り柄だから~w」
「...」
すると、既に用意されていたタクシーに乗り込み彼女のマンションへ向かう。
車内では基本、運転手がいることもあって、差し障りのないくだらない会話を交わす。
そうして、約30分ほど経過して、とある駅前の高層タワーマンションに到着する...。
流石は日本トップクラスの冒険者...。いいところに住んでるな...と、感服する。
「はいはい、いくよーw」と、腕を引っ張られて、コンシェルジュに少し嫌な顔をされながらエントランスを抜けて、エレベーターに向かう。
そうして、耳が痛くなるほど急激に上昇するエレベーターを使って、最上階である58階に到着する。
そのままエレベーターを降りると、疲れていることもあり、ふらふらとしながら彼女についていく。
ホップステップジャンプで楽しそうに、一室の扉にたどり着くと、電子キー的なものでスマートにカギを開く。
「はいはい、こっちだよーw遅いよーw」と、煽られるのも無視して、高層マンションからの眺めを見ながらゆっくりと家に入る。
この子のことだから、家に入った瞬間に体を拘束されて、冷凍保存とかされないとも限らないと、疲労でいっぱいいっぱいになりながらも、わずかな警戒心を抱きながら部屋に入る。
「はいどぞー」と、笑う彼女についていくと、そこにはまさにデザイナーズマンション的な雰囲気漂う、どこか生活感のない空間が広がっているリビングを目の当たりにする。
「...すごい」と、いろんな意味で関心していると、「そうでしょーw座って座ってーw」と言われたので、お言葉に甘えてソファに腰かける。
「ちょっと待ってねー。持ってくるからー」と、奥の部屋に消えていく彼女。
座り心地が良すぎるソファに感心しながら、部屋を見渡していると、彼女がトロフィーサイズで、上には水晶的な何かがついたものを持ってやってくる。
「はいー。これでしょ?シエル様が探しているアイテムって」
「いや...俺は実物見たことないのでわからないんですけど...」
「えー?そうなの?まぁ、いいや。はいどうぞ」と、そのまま手渡される。
「...え?タダでもらっていいんですか?」
「うん、いいよー。けど、その代わり少し私の話を聞いてほしいんだよねー」といい、彼女は向かいのソファに腰かける。
「...話ですか?」
「そんな怯えないでよw臓器を交換条件なんていうわけじゃないしw警告と現状について一応話しておこうと思って」
「...警告?」と、不穏なワードに思わず自然と眉間に皺が寄る。
「そそそ。まず初めに言うけど、そのアイテムの正式名称は【亜解凍の魔晶】。すべてを集めると、滅びた肉体を蘇らせる効果があるんだよねー。はい、ここでクイズ。この世界で最も肉体を欲しているやつってだーれだ?」
「それは...シエルさんじゃないんですか?」
「ぶっぶー。違いまーす。ヒントは1999年」
その言葉にハッとする。
そうだ...そういうことか。
あの予言が行われた日、やつはまだ肉体を手に入れてなかった。
おそらく、力のほとんどを使い、あの日自身の力を誇示した。
だから、あの日以降ほとんど動きを見せていなかったのだ。
つまり、この世界で肉体を欲しているのはシエルさんと、恐怖の大王の二人...ということか。
「はい、わかった~?そゆこと~。やつもこれを欲している。けど、これは使いまわし不可、お互いの復活はありえない。つまり、どちらが復活するということはどちらかが復活できないってこと。だからこそ、当然やつもこれを探している」
「...もう、一つでも取られていたら...」
「それはない。というか、魔族では手に入れられないように結解が張られているから。そこは安心していいよ。...ただ」と、少し険しい顔をしながら続ける。
「ただ、人間の手を借りればおそらく回収することはそこまで難しいことではない。特に高難易度のダンジョンに潜れるようなトップランカーになれば尚更ね」
「ちょっと待ってください...。じゃあ、話って...」
「そう。私も実際勧誘を受けたしね。当然断ったけど。それと勧誘の内容はとあるアイテムの回収。その報酬は...最愛の人ともう一度会わせてくれる権利。もし、シエルさんが死んでしまったと思っていたなら、私もこの話に乗っちゃってたかもしれないけどねー」と、テーブルに置かれたチョコを一つ口に含みながら彼女は言う。
けど、もしそれが本当なら...。
でも、本当だという確証なんて...。
「おそらく、報酬は本当だと思うよ。悪魔との契約は絶対だから。そこを反故にしたらその反動でどうなるか分からないし、下手にトップランカーを敵に回せば、どうなるかは分からないから」
「つまり...それって」
「うん。日本のトップランカーの中に裏切者がいる。おそらく、TOP5の中の一人...だと私は睨んでいる」
TOP5...って、世界的に見ても上位クラスの人たちじゃん...。
つまり、うっかり俺がこれを手にしていることがばれれば...ジエンドってことか。
思わず生唾を慎重に飲み込む。
「状況は理解できたみたいだね。そして、実はほかの4人には裏切者は私だって思われるんだよねー。だからこそ、これを持っていると色々危険なわけ。だから、これを君に託そうと思って。それが一番いいはずだしね」
「いや...超危なくないですか?」
「そう?ばれない限り相当安全だと思うよ。私が敵の立場ならそんな大事なものをFランカーの冒険者に預けておくなんてこと、絶対にしないと思うけどね」
確かにそういう意味では安心かもしれない。
けど、彼女が疑われているということなら別だ。
身辺調査が行われて接点を持った俺に会いに来るなんてこともないとは言い切れない。
「て、ていうか、そのTOP5の中に裏切者がいるって...すでに目星とかついているんですか?」
「当たり前じゃーんw餌もまいておいたしねwまぁ、結果が出次第話をするよ。確証もなしに話したところで、意味はないだろうしね」
すると、彼女は勢いよく立ち上がり、俺の横に座る。
「さて、話は終了」と、腕を組んでくる。
「ちょ!?//」
「ごめんね?本当は今日このまま明日の朝まで愛を語り合いたかったんだけど、今日は丁度女の子の日だから...。そういうのはまた今度になっちゃうけど、それでも良ければベッドに」と言われた俺は勢い良く立ち上がる。
いや、何が立ち上がったわけではなく、俺が立ち上がったのだよ?
そのまま「し、しっつれいしました~!」と、頭を下げてそそくさと帰宅をするのであった。
そうして、エレベーターを使い1階のボタンを連打していると、『随分と騒がしいのぉ...』と、のんきに起床するシエルさん。
「っちょ、シエルさんやっと起きたんですか!?超いろいろありすぎてやばいんですけど」と、話していると、閉まりかけるエレベーターの奥から彼女が猛ダッシュでこちらに向かってくるのが見える。
「ぎゃあああああ!!!」と言いながら閉まるボタンを連打すると、どうにか完全に閉まってくれるエレベーター。
そうして、登りと同様にかなりの速度で降下を始めたことで耳が痛くなる。
その痛みに顔を顰めながら一階に到着し、フラフラのままエントランスを抜けたところで、彼女が立っていた...。
「う...うわぁああああああ!!」と、思わず腰を抜かす。
「いやいやwそんなに驚く?w私が魔法を使えることくらい知ってるでしょw」と言われて状況を察する。
そ、そうか...。SSSランクの特権で地上での魔法使用も許可されているのだ。
だから、58階から落ちてエレベーターよりも早くここに到着していた...ということか。
すると、俺にゆっくりと近づいた彼女は俺の財布を手渡す。
「はい、忘れ物w」
「え?...あっ、はい」
すると、彼女は満足そうにそのまま俺に手を振りながら去っていった。
「努々、気を付けてね」と言い残して。
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