第14話 乗り込みと、訓練
◇
シャワーを浴びながら私は思わずニヤけてしまう。
あぁ、いつかあの人と2人で暮らして...。
それにもう一つ、媒体としているあの男の子も私のタイプだった。
怯えている姿も可愛いし、顔も結構タイプだったりする。
そうなると、私は愛しのお爺様とタイプの男の子と一緒になれるとか一石二鳥じゃん。
すると、シャワー室の扉をノックされる。
「...何?」
「入浴中、申し訳ありません。来客が来ております」と、黒服の男が少し焦ったように言う。
「来客?誰?」
「...極義様です」
その名前に思わず手が止まる。
「...要件は何?」
「先日の会談の内容についてと、とある問題についてと言っています」
...流石に無視するわけにはいかないか。
「...分かった。リビングに入れてあげて」
さて、何がどこまでバレているのかな?
そのまま、シャワーを終えて、簡単に体を拭き終えるとバスローブを纏い、リビングに向かった。
「...なんだその格好」と、ソファに座りながら怪訝そうな顔で私を見る極義。
「サービスサービスwあんた童貞っぽいからこういうの効くかなーって思ってw」と、私もソファに腰かけていつもの調子で話す。
「...」
「じょーだんじょーだん。それでー?わざわざ家に押しかけてまで何の用?」と、テーブルに置いてあった飲みかけの水を一気に飲む。
「...前回の会合になぜ来なかった?」
「別に?移動するのが面倒だったのと、どうせ大した話し合いをしないと思ったからぶちっただけ。それで?何の話し合いをしてたの?」
すると、「俺も水を一杯もらっていいか?」と、水を催促してくる。
仕方なく冷蔵庫からペットボトルを取り出し、遠くから投げるとこちらに振り向くことなくキャッチする。
「ナイスキャッチ」
そうして、もう一度仕切りなおす。
「それで?何の話し合いをしていたわけ?」
「ランク外のモンスターが現れる事件について、お前も知っているだろ?」
「もちろん。そんなに時事に疎いと思われてるの?私w」
ゆっくりと、ペットボトルの水を取り出し、一口飲む。
「通常、あり得ないことがつい最近頻発している。これに関して俺も独自に調査を行っていたのだが...。調査した結果、どうやらその現象を引き起こしているのはダンジョン冒険者であることが分かった」
「ふーん...。つまり、誰かがモンスターを捕獲して、そのモンスターを低層階で開放しているとか、そういう風に考えているわけ?」
「...そうだな。もしくは、召喚魔法を使っていたりな」
その目はすでに結論を語っているのと同義だった。
「...へぇw会合に不参加で更に召喚魔法に長けている私が疑われているってことね」
「...まぁ、現時点では疑い程度だ。明確な証拠はつかんでいない」
「だとしたら、それをわざわざ私に伝えることにメリットなんて感じないんだけど?」
「それはどうかな...。警告としては十分役割を果たしていると思うが」
本当のことを言えば、私はランク外にモンスターを放したことは一度しかない。
それはつい最近、シエル様に会いに行った際に行ったのみだ。
しかし、ここでどれだけ身の潔白を証明したところでそんなものに意味はない。
というか、きっとこの流れは誰かが作ったものだろう...。
「今日はずいぶん喋るじゃんwまぁ、その警告はありがたく受け取っておくよ。それで?ほかにも何かある?」
「...今日はずいぶん楽しそうだな」
その言葉に思わず、手が止まる。
「へぇ、私のことちゃんと見てたんだw何?私のこと好きなの?w」
「いや...そんな気がしただけだ。だから、しばらくは行動には気を付けることだな」
「はーい。あっ、そうだ。ねぇ、今度会わせたい人がいるんだけど?」
「...?」
私はいやらしい笑みを浮かべて、彼の名前を挙げた。
「...名前は聞いたことはある」
「そう?どうやらあんたに憧れているみたいだから、今度会ってあげてよ」
「...時間があればな」
「はーいw」
そうして、水を飲み干すとそのまま帰っていく極義。
一人になった部屋で私はつぶやく。
「お水は美味しかったのかな?」
◇
ナイフを構えながら、Eランクダンジョンで一人戦っていた。
「はっ、はっ...」
シエルさんの言う通り、Eランカーになるべく、単独でEランクのダンジョンに潜って特訓を積んでいた。
戦っているモンスターは【エレクトリック・スネーク】。
「シャー!」と、殺気を垂れ流しながら俺を見つめる。
以前であれば、それだけで身動きが取れなくなるほどおびえていたが、そんな俺はもういない。
今は何とか動きを目で追うことができ、回避をできるようになっていた。
しかし、致命的な攻撃を与えられず、膠着状態が続いてた。
『そろそろ、魔法についてもレベルアップするべきじゃな』と、シエルさんが呟く。
「魔法のレベルアップ!?そんなの簡単にできるんですか!?」
『簡単ではないの。しかし、近道はいくつかある』
「近道!?」
その瞬間、俺の隙をついて、エレクトリック・スネークが尻尾で俺を攻撃する。
それを紙一重でかわしながら距離を取る。
「どうすればいいんですか!?」
『まずは不発でも魔法を打ちまくること、それと実際にその魔法を間近で見ること、一番いいのはその魔法を受けることじゃがな』
「いや、攻撃魔法とか食らったら俺死にそうなんですが!!」
『そうじゃな。宗凪殿の耐久度では耐えられないじゃろうな。だから、まずは前者、不発でも魔法を打ち続けることが良いかの。確か、得意なのは支援魔法じゃろ?』
「はい!」
魔法の種類は5つに分かれている。
【1.攻撃魔法】
【2.防御魔法】
【3.回復魔法】
【4.支援魔法】
【5.召喚魔法】
習得の有無は本人の才能や努力によって変わるが、そもそも人にはそれぞれ適正魔法というのが存在する。
適正魔法はほかの魔法に比べて1.5倍ほどの習得速度で、より高度の魔法を覚えられるようになっていた。
しかし、現在の俺は使える魔法はすべて5級であり、それも数は多くない。
もし、Eランクのモンスターを軽々倒すためには4級の魔法は必要である。
手っ取り早いのは俺の得意魔法である支援魔法を覚えることだが...。
それでもどれだけの時間がかかるか...。
「シエルさんは使えないんですか!?」
『どうじゃろうな。試したことはないが、あくまで宗凪殿の体を使っているだけじゃから、使えない可能性は高いの。じゃが、習得速度はもしかしたら違うかもしれないの』
なるほど...。
確かに、魔法に関しては俺とシエルさんの情報のどちらが優先されるかは不明だ。
よし、試すしかない。
「4級魔法【身体能力向上】!」と、唱えるが一瞬魔法が発動する気配はするものの、結果的に不発に終わる。
すると、エレクトリック・スネークの毒牙が襲ってくる。
「うわわ!!!あぶね!!」
『ふむ...、やはりそう簡単にはいかんか』
そうして、何とか体勢を立て直す。
「や、やっぱ俺一人じゃ...!!」
『すぐに諦めるのは悪い癖じゃの。よし、少し儂に代わってくれ』
そういわれて交代する。
「4級魔法【身体能力向上】」と、同じように唱えるが、何と魔法が発動するのだった。
『なんで!?』と、驚愕する俺。
「恐らくじゃが、得意魔法である支援魔法であればある程度使えるはずじゃ。それだけの戦闘経験を積んでおるし、斗和殿の魔法を近くで見ているからの。しかし、宗凪殿が使えないということであれば、必要なのはイメージじゃろうな」
『い、イメージ...』
そのまま、相変わらず紙一重で軽やかなステップでエレクトリック・スネークの攻撃を躱す、シエルさん。
「魔法で最も大切なのはイメージの具現化じゃ。自分がその魔法を使ったらどうなるかを想像すること。恐らく、そのイメージが足りていないのじゃ」
イメージ...。
俺が4級魔法を使っているイメージってことか?
少しの前の俺であれば、そのイメージは難しかった。
けど、今は俺の体を使ってイメージを具現化してくれるいい教材がいる。
「そうじゃ、儂を見てイメージするのじゃ」
自分がそうであるイメージ...自分が軽やかに鮮やかに動くイメージ...。
『...いけます』
「よし、変わるぞ」
そうして、魔法の効果が切れたタイミングで入れ替わり、もう一度唱えた。
「4級魔法【身体能力向上】!!」
...不発に終わった。
次の瞬間、目の前にエレクトリック・スネークの尻尾が飛んでくる。
「ふっご!!!」
見事に体は吹っ飛び、そのまま逃げるようにダンジョンから立ち去る。
「失敗しました...!」
『...先が思いやられるの』
こうして、地道な特訓が始まるのであった。
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