第13話 告白と、特訓

「...ほう。それは...過酷な過去じゃな」と、シエルさんは慎重に言葉を選びながらそう言った。


「過ぎ去ったと書いて過去ですから。もう気にしていないです」と、心配をよそにコーラやら、メロンソーダやら、オレンジジュースやら、コーヒーやらをごちゃまぜにした地獄のドリンクを啜りながらそんな返答をする式波さん。


「それで?なぜ儂がシエルだと気づいた?」

「あはっwそんなの簡単ですよ?w直感...というかシンパシー?あるいはテレパシー?w」と、いつもの彼女のような口調に戻りそういった。


「直感...のぉ」

「まぁ、霊視に近いんですけどねw理論的に言うなら、魔法を応用した視覚、感覚の強化みたいなものですw相手の体を乗っ取る魔法があるくらいですから、その状態異常を見破る魔法があるのも自然なことですからwだから、偶然、彼の配信を見たとき何となく誰かが背後にいる気がして、能力を使ったらビンゴでしたwって感じですね」と、ようやく立ち上がり向かいの席に座りなおす。


「...それで?その事実を突きつけて一体どうするつもりじゃ?」

「ちょっとたんまですw今度はこっちの質問ですwこの伝記には肉体を復活させるためのアイテムをダンジョンに隠した...って書いてます。私の読みによると、今、シエル様は現状肉体を復活させるため、一時的に彼の体に隠れていると思っているのですが、これはあっていますか?w」と、確信をついて質問をしてくる。


 なるほど。

式波さんの目的がシエルさんだというならば、肉体復活のためのアイテム回収を手伝ってくれるのも納得できる。

それに、現状俺のようなFランクダンジョン冒険者がアイテムを集めるとなると、数年...いや少なくても10年以上かかる可能性もある。


 大王がそこまで悠長に待ってくれるかもわからないし、肉体を取り戻してすぐに戦えるのかも俺にはわからない。


 準備期間も含めて、早めに復活すること自体に損はないはず。

であれば、この提案は受け入れる選択肢以外はないか?という俺の予想は残念ながら外れてしまうのだった。


「魅力的な提案じゃが、断らさせてもらおう」

「...なぜですか?w」


 すると、コーヒーをストローでズルズルと吸いながらこう言った。


「儂がお願いしたのは、彼...宗凪殿じゃからじゃ」

「...そこにそんなにこだわる必要があります?wそもそも、彼にアイテムを探してもらうなんて、あと何年かかるか...いや、最悪一生回収することすらできない可能性もありますよね?w手っ取り早く、確実に回収できる私の協力に応じない理由にはなっていない気がするんですが?w」


 シエルさんは古びた伝記を指す。


「その伝記を読んだのであれば、儂がどんな人間かはわかっているはずじゃろ?儂は儂が信用たる人間、または認めた人間以外に頼み事をすることはない。現状、お主はそのどちらでもない。もし、儂に認めてほしいのであれば、行動で示すことじゃな。話はそこからじゃ」

「...なるほwそゆことwまぁ、想定内ではありましたけどwそれじゃあ、今日は挨拶だけということでw」と、立ち上がるとそのままホップステップで楽しそうなテンションでお店を出ていくのであった。


 伝票は筒の中に入ったままであった。


 この1時間の間、ドリンクバーにスパゲティにピザと...大量に注文してそのほとんどを残して、帰っていったのだ。


「...」


 うん。女子とのデートで男が払うのは...当然だよな。


『...彼女の話はおそらく本当じゃろう。あの伝記を持っていたことと、彼女をちゃんと見たところ、儂と同じ魔力構造をしていたしの』と、改めて説明を始めるシエルさん。


『でもいいんですか?彼女の言ってること自体は正論ですよね。きっと、俺が集めるより遥かに効率がいいというか...』

『そういう問題ではない。儂は宗凪殿を選んだ。それは紛れもない儂の選択じゃ。後悔も変更もあり得ない。まぁ、協力という形であるならまだしも、すべてを任せるのは違うと思っているからの。何より、ガチダンジョン冒険者になるという宗凪殿の目標を達成することなく、自分の願いだけを聞いてもらおうなんて思っておらんからの』


 そういう...ものなのだろう。

けど、いつかは俺もあの伝記を読んでみたいな。


 そう思いながら会計を済ませてお店を出たのであった。


 ◇帰宅


「それで?なんであの式波セシルさんが家に来たわけ?それに...何か私に隠し事してるでしょ?」と、家に帰ると早々に斗和に詰められる。


「あぁ...いや...」と、言葉に詰まる。


 実際、どう説明したほうがいいのか...。

シエルさんのことを話さないと、式波さんの話はできないし...。

でも、それを話すと...。


『儂は構わんよ。話してもらっても』

『いいですか?』

『彼女には色々と世話になっているし、これからも迷惑はかけるじゃろう。それならば事情を理解してもらうほうがいいと思うのじゃ』


「...とりあえず、あの...配信が途切れた日の話からするね」


 そうして、俺は今までの経緯を1から話すのであった。


 出会い、急成長、式波さんとの関係...。

洗いざらいすべてを吐き出す。


 俺が話している間、斗和は神妙な面持ちでチャチャを入れることもなく、ただ無言でうなずきながら聞いていた。


「...っていうこと...なんだよね。だからその...話すわけにはいかなかったというか...その...」

「...そう。まぁ、以前のダンジョンでの動きの時も少し怪しんでいたけど...。そう...。けど、シエルさんなんて名前どこにも載ってないわよね。もし、本当にそんなすごかったなら何かに載ってたりするもんじゃない?」と、純粋な疑問をぶつける。


『それについては儂から話そう』と言われたので、交代をする。


「...改めて、初めましてじゃな。斗和殿」

「...っぷwなんか来光の顔でそのしゃべり方はちょっとつぼるw」と、クスクスと笑い始める斗和。


 無理もない。

十年以上の付き合いの幼馴染がいきなり昔のお爺ちゃんのようなしゃべり方をするんだから、笑うなというほうが無理な話だ。


「...儂の名前が歴史に「儂ww儂ww鷹wwそれ鷲ww」と、完全にツボに入ってまともに会話ができなくなっている斗和。


「...その...やっぱ無理かも」と、突然現代口調になり俺に交代する。


「...おい、シエルさんが可哀そうだろ」

「でもww無理だってww」と、いつまでも笑う斗和に少し呆れながらも話を続ける。


「なんか、シエルさん曰く、歴史に名前を残しておくと色々厄介なことになるかもしれないから、正体を隠していたらしいよ。魔王がいずれ復活することも分かっていたから、自分の所在を隠すためにも歴史には載らないように立ち回ったんだって」

「...ふーん。それで?式波さんとは...ファミレスで何したの?」

「話をしただけだから...」

「...ふーん」と、どこか怪しんでいるご様子の斗和であった。


『あぁ、そうじゃ...。正体も明かしたことじゃし...。本格的に特訓を始めるとするかの』

『特訓?』

『あぁ。宗凪殿、Eランカーへの道...のな』

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